時計の形をした心臓

茉莉花

プロローグ

 時計に内蔵されているレーダーが、反応した。それはつまり、近くに賞金に目が眩んだプレイヤーがいることを示していた。


 松尾凛は、無駄だと知りつつも、できるだけ足音がならないように歩いた。プレイヤーとの接触を避けるためだ。


 この時ばかりは、心臓の音もうるさく「いっそ、心臓の音まで消せたら...」なんて、思う自分がいる。


 時計を奪われる、それはすなわち死をこの空間では表す。どういう理屈でそうなっているのかはわからない。


 ただ、そういう理が成立してしまっているのだ。

 

 場所は、もう何年も前に使われなくなった廃病院。当然ベッドや、機材は当時のまま放置されており、逃げるには邪魔だが、隠れるには都合がよかった。


 しかし、ゆっくりと移動し、逃げ切ろうとしたのが裏目にでたのか、足元に落ちていたシーツに足をすくわれた。凛の頭に「やばい」と、警鐘が鳴る。


 盛大な音をたてた凛の前には、同い年ぐらいだろうか...。髪を肩まで伸ばした長袖の女性が、そこにはいた。



「今からこの人と命のやりとりをするのだ」



 そう、心の中で呟く凛。殺し合いとはいえど時計の奪い合いだ。そう簡単には負けないだろう。



 ゆっくりと近づく彼女と凛。凛の頭には鐘の音が鳴り響いていていた。

 

 

 

 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る