第17話 おっさん、若く見られる⑥
「まずは再会に乾杯!」
「ああ、生きて帰れたことを今ほど噛み締めてることはないだろうよ。そして……ああ、思ったとおりだ。魂に染みる味がした」
「おいおいおいおい……なんだこいつは? こいつがホーンブルだって!? 最高級ミノタウロスに勝らずとも劣らない逸品だぞ! 一体何をした!」
「何も? ただ強いて言えば肉のポテンシャルを引き出す仕事をしました。そして、仕掛けはそれだけにとどまらない。よく冷やしたワインを肉を食べた後に口に含んで見てください」
言われた通りに実行する二人。
そして実行した直後、両名の表情がとろけた。
酔ったと言うわけではない。
ただ、これほどまでの味の変化を体験したことがなかったからだ。
肉汁が白ワインと混ざり新しいソースに生まれ変わった。
口の中が新しいソースでいっぱいになった後に肉を放り込めば、その料理がもう一つの顔を覗かせる。
食べて、飲んで。また食べて。
気がつけば空っぽになった皿にフォークを突き立てる二人がいた。
その顔はもっと食べさせろ、と言っているかのようである。
「お口に合えばよかったですが」
「あんた、どこかのレストランで働いていたことがあるのか?」
「この国ではありませんが、15年間世話になってた高級レストランがあります」
「15年? あんたは見たところ20に登ったばかりだろう?」
「こう見えて、俺35なんですよ。ティルネさんにも驚かれましたが」
「嘘だろ。こんなに若そうなのに俺たちより年上?」
だから思う。ヨルダは洋一が魔力持ちでは無いのかと。
ただし魔法使いでないことは髪色から明白。
単純に使う必要がない境遇に居ただけではないかと勘繰っている。
でなければ説明が使いないことがあまりにも多すぎた。
「言っただろう? ワシにとっての恩師殿だと。年配であると言うだけでなく、人としてのあり方がワシなんかより随分と真っ当だ」
「お前がそこまで惚れ込む相手かよ。角が取れたなんてもんじゃねぇぞ? 今のお前は別人だよ」
まるで別人だ。
久しぶりに出会うティルネをそう評するワイルダー。
「合格だ、と言いたいが」
「まだ何か?」
「あんたを雇うのは問題ないが、そっちの子供はどうする? ティルネと騎士様はそれぞれ帰る場所がある。だが、そっちの子はそんな服装であんたと一緒にいる時点で訳ありだ。違うか?」
「ヨルダはどうしたい?」
「オレも、師匠と一緒に働いちゃダメか?」
「本人は仕事を希望してます。雇ってもらうことは可能ですか?」
「髪色から察するに貴族だろう? 雇うのは構わんが、うちは場末でね、あんまり多くは払えんぞ?」
「むしろお金くれるの? ぐらいに思ってる。師匠のご飯が食べられるだけでラッキーだからね」
「そりゃそうだ。大金積んでも食いたいと思わせる料理だった。その対価を労働で払うのか? 悪くない考えだが。うちは酒場だ。お嬢ちゃんは可愛いから酔っ払い客の相手を任せられるかどうかになるな」
「皿洗いとかじゃダメなのか?」
「魔法使いに皿洗いなんてさせたら俺の首が飛ぶわ」
「オレはどっちでもいいよ。なんだったら男装するし」
「うーん、まぁそれでも食い下がる客はいるだろうけどな」
「そういう客は師匠が何かしてくれるから大丈夫!」
「お貴族様からこんなに信頼を得られるなんて、あんた何者だ?」
「ハハハ、ただの料理人だよ。なぜかそうは見られないけどな」
「じゃあ、二名。うちで預かる。短期の募集でいいか? 流石にずっとは預かれない」
「じゃあ、ギルドに募集をかけてくれ。彼らは最近登録したばかりでね。お給料はそこで払う感じでいい」
「冒険者か。あんまりそういう連中を雇ったりはしないな」
「なら一度始めてみたらいい。お前のお眼鏡に敵わなければ追い払えばいい話だ」
「まぁな」
こうして洋一の他にヨルダも働き口を見つけるのだった。
それを見届けて、ティルネとアトハは店を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます