蠱毒の鏡

@thread

僕は自分も他人も理解できない

第1話 学校

”十人十色”この言葉は僕が一番嫌いな言葉だ。


7時30分、僕は教室に着く。

一番乗りだ。

まあ、学校が始まるのが8時30なので、一時間前に来る生徒はまずいないだろう。

僕は窓際の端の席に座り鼻歌を歌いながら分厚い本を取り出す。

窓の外から聞こえる風の音と虫の声を聞きながら僕はページをめくる。

誰もいない空間。

僕はこの時間が一番好きだ。


8時過ぎ。

クラスメイトたちが次々に教室に入ってくる。

静かだった教室は徐々に賑やかになっていく。

僕は気配を消し、黙って本を読み続ける。

「よお、アオくん」

突然クラスメイトが話しかけてきた。

なぜかクラスメイトが全員僕の方を見ている。

彼の名前は何だったか。

「・・・僕の名前はアオじゃないけど。」

「まあいいじゃねえか。なんかアオのほうがしっくりくるし」

彼の言っていることはよくわからなかったがクラスメイトが遠巻きにクスクス笑っているのが見えた。

おそらく良い意味ではないのだろう。

「なんの本読んでるの?」

彼がニヤニヤしながら聞く。

「答えないといけないの?」

なんかムカついたのでそう聞き返した。

「いや?ただ興味があっただけ」

彼がそう返してきたので僕は読んでる本のタイトルを読み上げた。

「ムカデの生態について」

バカ正直に述べたのが悪かったのか、クラスが急に静まり返った。

その時クラスメイトが僕に何を思ったのかはわからない。

ただ、冷たい視線と好奇の視線、いろいろなものが僕に突き刺さってくるのを感じた。

「キモチワル」

誰かが静寂を破るようにつぶやいた。

かわいらしい声とは裏腹に発言はなかなかに厳しい。

声の主はクラスメイトの女子の一人だった。

この女子の名前も僕は覚えていない。

覚える気もないが。

ただ、とにかく顔と言動が可愛いとかでクラスの男子からの人気が高いのと、クラスの中心的存在で目立つ子なので顔は見覚えがある。

めんどくさいやつに嫌われたもんだと思いながらも、僕は人に面とむかって気持ち悪いと言える性格の女子でも男子からの人気は得られるんだなと感心した。

だから僕は言った。

「僕としては、ムカデの本を見ている男よりも、男に媚び売って生きているお前のほうが気持ち悪いよ。」

一瞬、その女子が顔を歪ませるのを見た。

小さな声でその女子はぼそっと何かを言ったが僕にはなんと言ったのか聞こえなかった。

一部の女子はくすくす笑い始め、一部の男子は僕に対して激しくキレ始めた。

残りのクラスメイトは目をそらし友達と何事もなかったように話し始めたり、スマホを取り出しゲームや動画を見始めたりしている。

僕はこれが人間の本性なのかと少し悟ることができた。

その後、僕も何事もなかったように本を読み始め、クラスメイトもこれ以上話しかけることはなかった。

そして朝のホームルームを知らせるチャイムが鳴り、一日が始まった。

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