【14325-17326回目】
【14325回目】
マミを助けた後、レオンがバーサーカーモードとなったミノタウロスの周りを飛び回る。だが、このまま何も僕が行動しないと、レオンが犠牲になってしまう。だから、僕はタイミングを見計らう。
奴が斧を両手持ちして、回転斬りを始める。今だ!!その瞬間に僕はスキルを実行する。
「
僕の掛け声により、奴の真下に落とし穴が実体化する。バランスを崩して、倒れ込むことになった。
「ナイスタイミングだ、トライ!!」
「うん、今回は上手くいったよ。レオン、奴が回転し始めたら気を付けて欲しい。遠く離れていたとしても、斧を投げてくるかもしれない」
かもしれないではなく、ここまで辿り着いた329回全てにおいて、同一パターンでレオンは死んでいる。よって、確実に、というのが正しい表現なのだが、お茶を濁しておくことにする。
「斧を投げる、か……。自らの相棒である“聖剣”を投擲するという発想を思いついたことがなかった。武器は手元に、その価値観は共通認識かと考えていたが、確かに奴ならやりかねんかもな……。認識を改めておくことにしよう」
僕はこくりと頷く。よし、これで、レオンは大丈夫だ。
斧の投擲は不意打ちみたいなもの。逆に思考の外からの不意打ちや仲間への攻撃といった精神面での攻撃以外にレオンという人間に弱点は存在しない。真っ向勝負であれば、必ずミノタウロスを打ち破ることができるはず。
ミノタウロスは起き上がると、憤怒を宿した眼差しを僕へと向ける。仲間を何度も殺されて怒っているのはこっちの方だ。僕は奴の黒色の瞳を睨み返した。
奴は、のしり、のしりと、一歩ずつ僕に近寄る。だが、僕と奴の間に入り込む人影があった。ナイツだ。
「トライにばかり、良い格好させる訳にはいかないな」
「ナイツ! ダメだ!! 奴のスキル【バーサーカー】はナイツの【無敵化】を貫通するほどの攻撃力なんだッ!!」
「そんなもの、やってみないと分からんだろう!? ユニークスキル発動【無敵化】!!」
くっ。強情者め。こうなったら、サポートに徹するしかない。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア」
ミノタウロスは雄叫びを上げながら、斧を振るう。まるで嵐のように、斧の斬撃が次から次へと急襲した。小手を付けた両腕で自分の身を護るナイツ。だが、小手にひびが入り、身体の至る所にキズができる。
まずい。やはり、【無敵化】のスキルでは防ぎきれていない。僕は、落とし穴を発動させる。だが、奴の口角が上がる。待ってましたと言わんばかりに。
ミノタウロスは跳躍をして、落とし穴を回避する。
まさか、罠のタイミングが見破られるなんて。隙も無い状態で、【落とし穴】は多用するのは辞めた方がよさそうだ。僕が猛省していると、そんな僕を横目に、奴は想定外の行動を起こす。その跳躍のまま、全体重を斧に込めた渾身の一撃を振り下ろした。
「な!?」
罠を回避するだけではなく、その回避行動を攻撃に生かすなんて。一閃。巨大な斧が振り下ろされる。
ブン。
突風が吹き荒れる。気づいたときには、ナイツの右腕が吹き飛ばされる。そして、奴は、躊躇うことなく、再度斧を振りかぶる。
「やめろ。や、やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕が制止をすることで、余計に奴の行動は静止しない。僕への嫌がらせが、逆に奴の快楽へと繋がるかのように。斧は無常にも振り下ろされた。
ナイツの左腕は切断され、両腕が喪失する。既に致死量の血液が失われている。キュアは急いで駆け寄り、【
僕は唇を強く噛む。血が滲み、鉄の味がした。僕がちゃんとナイツを止めることが出来たら、こんな結末にならなかったのに。僕のせいだ。だから、僕がやり直さなくてはならない。
僕は、左手首にナイフを押し当てて、力を入れて切り落とす。血液がドバドバと垂れ流れ、僕の足元には赤い池が出来た。
僕は出血性ショックで命を絶った。
次。
【15003回目】
「トライにばかり、良い格好させる訳にはいかないな」
「ナイツ、僕よりも、マミを頼む! マミの詠唱が完了すれば、奴に大ダメージを与えることが出来る」
「だが……」
ナイツの瞳には心配の色が浮かぶ。マミを守る合理性は理解しつつも、僕を見捨てることは出来ないといった感じだろうか。いかにも、面倒見の良いナイツらしい。だけど、僕が死んでもリセットするだけ。守る価値すらないんだ。そんなものよりも、他のみんなを守って欲しい。
「僕なら大丈夫だ! 僕は仮にも、勇者パーティーの一員なんだから!!」
ナイツの性格はよく分かる。誰よりも仲間思いで、面倒見が良い兄貴肌。そして、熱血な展開が大好物なのだ。こう言えば、ナイツは引き下がるはずだ。
「死ぬなよ?」
またしても、約束出来ない呪いの言葉。だけど、リセットを繰り返した未来には、きっと、死ななくて良い未来が待っているはずだから。
「もちろんだ、死ぬ気なんてさらさらない!」
「そうか……、分かった、頼んだぞ!」
ナイツはマミの元へと駆け寄り、いつもの万全の布陣だ。これで奴が僕をターゲッティングしている限りは、ナイツが犠牲になることもない。
「来いよ、牛」
僕は自分を鼓舞するために敢えて強い言葉を使う。
「フガアアアアアアアアア!!」
ミノタウロスが人語を理解しているとは思えないが、僕のあからさまな敵意に呼応するかのように、奴は叫び声を上げる。つかさず、レオンは奴の気を引くために、周辺を飛び回り、斬撃を食らわす。だが、奴が見据えているのは僕のみ。かすり傷とでも言わんばかりに、レオンの攻撃は気にも留めていない。
そして、奴は、僕へとその巨体を生かした突進を繰り出した。ただの突進。それでも、奴がそれを行うと逃げ場のない必中、必殺の一撃となる。
さらに、バーサーカーモードとなっている奴の身体能力は、通常時とは比肩にならないスピードと威力だ。いままで、自分の足元に落とし穴を発生させて、身を隠してきた。今回も同じ手段をとることにする。スピードが速い分、タイミングがシビアにはなるが、合わせることは不可能ではないだろう。
「
その瞬間、違和感が襲った。奴が突如として、静止したのだ。そして、落とし穴に落ちる僕を目掛けて、投げ槍のように斧を構えた。まずい。この落とし穴には逃げ道がないッ!
「アイテムインベントリ!」
僕はロープを取り出して、鉤爪を地上へと引っかける。僕の身体は底へと放り出される寸前で宙ぶらりになった。奴はにたりと
本来であれば、僕は死んでいた。なのに、僕がこうして生きているのは、誰かが僕を庇ったからで。
僕を抱きしめるように彼女がそこにいた。膝をついて、祈りをささげるように。その姿は女神のように神々しくて。
「キュア……何で」
「ふふ、トライ。あなたを愛して……」
その告白を最後まで聞くことは出来なかった。死を
ぼとりと、彼女の右手が落ちる。薬指にはやはり、僕があげた不細工な指輪が嵌めてあった。
「ッざけるな!!」
僕はこんな現実を認めるわけにはいかない。一番容認してはいけない世界だ。だから、こんな世界とは一刻も早く、おさらばしなくてはならない。僕は、右手首をナイフで切り落とした。
次。
僕の命は紙より軽いんだ。だから、何度でも挑戦してやる。そう思った矢先、僕の脳に電流が
いや、正確には、5月2日、
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