【18-78回目】
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【18回目】
『何回だって失敗したって良い、最後に成功すれば、その失敗は全部帳消しだよ』
『トライの長所は、絶対に諦めないことだよ!』
『トライは自分にできることを見極めて、前向きに取り組んでいる。これって凄いことなんだよっ』
僕はキュアの言葉を思い出す。
僕はレベルが低い。よってモンスターを倒すことは不可能だ。シャドーやスケルトン程度ならともかく、複数のモンスターを相手にすることなど出来はしない。まして、オークを斃そうなど、どうかしていた。
僕は最下層に向かうことだけを考える。そのためには、モンスターの行動を観察して、次の動作を予測して、攻撃の回避に努め、隙を知覚して先に進む。これしかない。
僕は挑む。再びダンジョンへ。
次。
【78回目】
18回目の僕が抱いた決意から既に60人分の僕が死んだ。その犠牲は無駄ではない。B5Fに関しては完全に攻略することに成功したのだ。
僕を苦しめた軍隊蟻に関しては、次のように突破した。罠を発動した後に即座に引き返し、最短経路となる通路に戻るというシンプルな手法だ。あえて罠を発動させることで、3体の軍隊蟻をすべて引き寄せる。そこに奴らを一点に集中させて、その隙に全速力で来た道を戻り、最短経路の通路を突き進むことで突破できた。
ちなみに、5秒も遅いと、軍隊蟻に見つけられて、食い殺される。ここでタイミングが合わずに、11人分の僕が死んだ。
さて、残りの人数分、大多数の僕が死んだ理由は、何かというとB10Fのオークだ。初めて棍棒持ちと出会ったのは8回目だったから、既に70人分の僕が死んでいることになる。
だからこそ、見える景色もある。僕は眼前の棍棒持ちオークに高らかに宣言する。
「今回こそは通させてもらうぞ!!」
オークは僕の言葉など気に留めずに、石の棍棒を振りかざす。この攻撃のパターンは至極単純。頭頂部を目掛けて、振り下ろされる打撃だ。
それを僅かな動作で回避する。回避した場合の次の行動は……。積み重ねてきた僕自身の死体の山が、次の行動を予想できるに至る。
横回転に弧を描く棍棒、だが、それも空を切る。しゃがんで回避をしたのだ。僕の頭上に振り回した棍棒による突風が吹き荒れる。
またしても攻撃を躱されたオークは僕に威圧感を剥き出しにする。棍棒を杖のように地面に突き刺して、怒声をあげる。
「GYOGYAOUU!!!!」
何を言っているのかは分からない。だが、お前みたいな雑魚はいつでも始末できるんだぞと言わんばかりだ。僕を威圧するために、怒り剥き出しの表情を浮かべながら、巨大な緑色の顔面を近づける。8回目の僕だったら、あまりの威圧感に腰を抜かして、ただ殺されるのを待つしか出来なかっただろう。
だが、今は。この瞬間を待っていたんだ。
「
突然の落とし穴でオークの足下が崩れて、奴の足が地に沈む。それにより、奴の目の高さが僕の瞳の高さと重なった。
「僕一人では君には勝てない。でも、70人分の僕が君に勝つ」
僕は奴の黄色い瞳にナイフを思いっきり突き刺した。
「GYO……GYOEAAAAAAAAA!!!!」
これでも、こいつを殺せない。そんなことは初めから分かっていた。あくまで、瞳に突き立てたのは、コイツから視界を奪うため。これで、オークは僕が前進することを止められない。
オークは片腕でナイフを突き刺した瞳の傷を抑える。もう片腕で痛みを与えた元凶である僕を必死に探す。闇雲に腕を振り回して。だが、当然だが、僕を捕らえることなど出来ない。
僕はオークを横目に通り抜けることにする。いや、一言オークに伝えたいことがあった。僕は歩んでいた足を止めて、オークの真横に立つ。
「ちなみに、この先、何回君と戦うことになるかは分からない。十回? 百回? 千回? もしかしたら、一万回かもしれない。その全てにおいて、僕は今と一寸も違わぬ精確性で君を屠る。これから先、未来永劫、君が、僕を、凌駕することなどあり得ない。……なぜなら、僕は絶対に諦めないからだ。僕は自分が望む未来になるまで、何度でも繰り返す。僕の望む未来を掴むまで、幾星霜繰り返そうと、僕は君を屠り続けてやる」
「GI……GI……」
オークは急に黙り、僕よりも一回りも大きい巨体を震わせる。言葉は通じていないかもしれないが、覚悟は伝わったのかもしれない。
僕を縛っていた、どうしようもない程の圧倒的絶望は、僅か、ごく僅かだが、好転したのだ。
「次」
僕は未知たる次の階層へと、一歩踏み出した。
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