17327回勇者から追放されても、僕は諦めない

羽田 共

【17327回目】①


「トライ、お前はこの勇者パーティーから抜けてもらう」


 はあ。代わり映えのしない言葉に、僕は飽き飽きする。これで僕は勇者レオンのパーティーを17327回追放されたことになる。


 もはや、追放されることに何の感情も動かない。17327回目の今日も朝に限っては、晴れている。夕方から次第に暗雲が立ち込め、夜には暴雨となるのだが。天気が良いということの方が、まだ心を動かすくらいだ。早くこのどうでも良いイベントを終わらせてほしい。


「聞いているのか?」


「うん、聞いていたよ。『トライ、お前はこの勇者パーティーから抜けてもらう』でしょ?正直レオンたちと離れるのは辛いけれど、仕方がないね」


 本当は今すぐにこの宿屋の一室から出て、ダンジョンへと潜り始めたいところだけど、万に一つ、今回・・に限り、全てが上手く運ぶかもしれない。よって、素直な気持ちを伝えておくことにする。まぁ、実際には一万七千三百二十七に一つの可能性だから、一万なんかでは、効いていないのだが。


「……やけに物分かりがいいな?」


「自分の実力不足は自分がよく分かっているから」


 「……そうか」と、短くレオンは呟いた。


 勇者レオン。黄金色の清潔感溢れる短髪と、端正な顔立ちから女性からの人気は高い。

 鎧の上からでもわかるくらいに、身体は鍛えられ、引き締まっている。彼ぐらいの実力が僕にあれば、17327回もの自分の命を投げ打たなくて済んだのに。


「レオン、あんたが俯いちゃってどうすんのよ!! 本人も納得しているんだし、しゃんとして言い放ちなさいよ!!」


 魔法使いのマミが割り込んでくる。マミの役割はいつも同じだ。勇者レオンの残っている良心を取っ払う役割。外見だけなら美少女に分類されるが、いかんせん、この強気な性格があだとなって、近寄りがたい雰囲気を出している。きっと、もう少しお淑やかであれば、男子からも人気が出たのに。といっても、17327回もの間、勇者を激励できるのが、彼女の魅力なのだろうが。


「マミの言う通りだな、つい、情が移ってしまった。断言することにしよう。トライ、君は“お払い箱”だ」


「そっか……、ナイツも同じ意見なの?」


 最短でこのイベントを終えるには全員が1回はしゃべってもらう必要がある。仮に、誰かがしゃべらない場合は、結局、勇者レオンが意見を求めるのだ。ダンジョンにこれから潜り、最下層に辿り着かないと、また次の命・・・を繰り返すことになる。そのことを考慮すると、一分一秒すら惜しい。戦士であるナイツにも話題を振っておくことが賢明だ。


「……ああ、トライ、諦めるんだな」


 戦士ナイツは丸太のように太い腕を組みながら、僕をさとすように訴える。僕が諦めるように伝えるのは17327回とも彼の役割だ。僕が兄貴分とナイツのことを慕っているからこそ、突き放して、諦めさせたいのかもしれない。この輪廻を終わらせてくれと懇願こんがんしているようにすら、聞こえてくる。無理だ。長い付き合いなのだから、僕が諦めないことくらい簡単に予測できるだろうに。


「そっか。キュア、君もレオンと同じ意見?」


 僕と同郷の村出身であり、子供の頃から顔馴染みであるキュアに意見を求める。白く透き通った肌と、空色の瞳はまるで人形みたいだ。金色こんじきの長髪に日差しが当たり、煌めいている。


「……。うん、ごめんね、トライ。私もレオン様と同じ意見。今回のボスは手強いと思うの。だから、ね。ここはレオン様の言うことを聞いて、引いてくれないかな?」


「そう」


「これは決定事項だ、いいな、トライ」


 レオンは剣を携えて、この部屋を後にする。マミ、ナイツも、僕に目も暮れずに、この部屋から立ち去った。


 最後にキュアが僕に近寄り、肩に触れようと、白く透き通った右手を近づける。17327回繰り返しても右手の薬指に嵌められた指輪は色褪いろあせず輝き続ける。


 だが、キュアはその手を引っ込めて、扉へと向かった。キュアはこちらを振り向くことなく、背中越しで話した。


 キュアが次に語りかけてくる言葉は、一言一句間違えずに予期できる。「トライ、私たちが無事にこのダンジョンから帰ってくることが出来たら、どうしても伝えたいことがあるの。だから、お願い。私たちの帰りを待っててね」だ。勇者レオンから始まる最初の追放の言葉と、僧侶キュアで終える最後の約束の言葉は17327回で一回とも変化がない。


「トライ、私たちが無事にこのダンジョンから帰ってくることが出来たら、どうしても伝えたいことがあるの。だから、お願い。私たちの帰りを待っててね」


「わかった。全員の帰りを待っているから」


 僕が諦めない限り、彼らは生き続ける。大丈夫、僕が絶対に死なせない。今回こそは必ず全員を救ってみせる。僕は全員が部屋からいなくなることを確認してから、行動に移すことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る