ショッピングモールに行こう(3)
「あれ? 成海くんと来見さんじゃん」
千聖くんと揃って声が聞こえた方向を見ると、春川さんたち三人組がいた。
「偶然だね。二人で買い物してるの?」
「もしかしてデート中?」
「なっ」
声がひっくり返った。
デートって、なんでそうなるの!?
「あたしたち、お邪魔しちゃった?」
吉田さんはニヤニヤ笑っている。
「違うよ、デートじゃないよ! ただ買い物に来てるだけで――」
「デートだろうが何だろうが、吉田さんたちに関係ねーだろ」
冷たく言う千聖くんを見て、私は心底驚いた。
クラスメイトの前なのに、千聖くんが猫被ってない!!
素で対応してる!!
「え……それは……」
「仮にデートだったら何? 何か問題でもあるわけ?」
「そ、そんなことはないけど……」
吉田さんの顔はひきつっている。
千聖くんにずばずば言われたことがショックだったのか、『王子様』の仮面を外した素顔がショックなのか、それともその両方か。
「わざわざ声をかけてくるってことは、おれか愛理に用事があるんだろ? 何? 春川さん」
千聖くんはグループのリーダーである春川さんを名指しで呼んだ。
春川さんの肩がびくっと震える。
「う、ううん、特に何も……」
「そう。じゃあ、おれたちはこれで。行こう、愛理」
千聖くんは私の手を掴んで歩き出した。
「え。あ。うん」
私は取り残された春川さんたちと千聖くんを交互に見た後、足早に千聖くんの後を追った。
――ちょっとミキ、あんたが余計なこと言うから成海くん、怒っちゃったじゃん、どうしてくれるの!
春川さんの押し殺したような怒り声がする。
えっ、春川さんってあんな子だったんだ。
教室では穏やかで優しい優等生なのに……千聖くんと同じで、猫被ってたのかな。
ちょっと怖かったから、聞こえなかったふりをした。
「ね、ねえ、千聖くん、良かったの? 関係ねーとか言っちゃって。明日にはクラス中に、もしかしたら学校中に噂が広がっちゃうかもしれないよ? 成海千聖は全然王子様じゃなかった、猫被ってた嘘つきって言われるかもしれないよ? 女子って噂大好きなんだから」
「知ってるよ。でも、いい。猫被るのはもう止めた。嘘つきでも何でも、言いたい奴には言わせとく」
「なんで、もういいの?」
戸惑って聞く。
「昔さ、クラスの奴と喧嘩したとき、相手の親に『これだから父親のいない子は』って言われたことがあるんだよ。母さんまで馬鹿にされて、すげームカついた。そのときからおれは自分を偽ってでも『良い子』になるって決めたんだ。大人が子どもに望むような、おとなしくて、従順で、成績優秀な優等生に」
「…………」
「片親だからって偏見の目で見てくる奴はどうしてもいる。おれが馬鹿なことをしたら母さんに迷惑がかかる。だから、おれは『良い子』でいようとしたんだ」
「そうなんだ……」
千聖くんが家の外で猫被っているのは知っていた。
でも、そんなきっかけがあったなんて、知らなかった。
幼馴染といっても、相手のことを全部知ってるわけじゃない。
当たり前のことを、いまさらながらに痛感した。
「でも、いまは誠二さんがいる。まだお試し期間ってことで、籍こそ入れてねーけどさ。あの二人、すごく仲が良いし。誠二さんといると、母さんも幸せそうだ。このままいけば多分、予定通り、おれたちが小学校を卒業した後、中学に入る前に結婚すると思う。だから、いまならおれが素を出しても、ちょっとくらい羽目を外しても、大丈夫じゃねーかなって思ったんだ。誠二さんならおれの味方してくれる……よな?」
あんまり自信はないらしく、千聖くんは確認するように私を見た。
つい、噴き出す。
「うん。絶対味方してくれるよ。私だって、何があっても千聖くんの味方だよ」
私は笑って、繋いだ手に力を込めた。
「ありがと。おれも愛理の味方だ。何があっても」
千聖くんは私の手を力強く握り返してくれた。
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