第六章 67~77

第67話 印籠と営業

 

 そうその当てと言うのは印籠いんろうだ。

 印籠とは本来は印鑑を入れておくものだったのだが、香料や薬、火打石などを入れる小物入れへと役目を変えたと言われてる。


 今日こんにちでは、水戸の副将軍として知られる『徳川光圀とくがわみつくに』公をモデルにしたドラマの見せ場で「この印籠が目に入らぬかっ!」のセリフと共に掲げるため、警察手帳や身分証のようなモノと、誤解されることがあるが実態は異なる。


 印籠は和紙か木、または金属を加工したもので三から五段に分割でき紐を使って開閉し、帯紐おびひもを使い腰に下げたりできるそうだ。

 よく使われるのは和紙らしいが、漆を使うのは怖いので今回は金属を使う。


 密閉し直接水が当たらないことに加えて、湿気を遠ざければいい。

 乾燥材としてはシリカゲルが有名だが似たようなもので、二酸化ケイ素シリカを含有した微生物の化石である珪素土けいそうどを使う方法がある。


 この方法は近現代でも使われており、太平洋戦争時には食品用乾燥剤として現在では建材や風呂マットとして利用されている。

 他にも重曹などが使えたと記憶している。


 珪素土はこの世界ではあまり利用されていないため、魔法の土とでも偽って定期的に交換が必要だとうそぶいて金を稼ぐのもいいな……。

 金に困っていないことと金にがめつい訳ではないことはイコールではないからな。


「俺は少し部屋に籠ろうと思う、今日は神殿に行く用事もないから飯時になったら声を掛けてくれそれまでは各自仕事をしておいてくれ」


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 自室に戻った俺は、付与魔術師エンチャンターと魔道具師の仲間に習った術を駆使してある道具を作ることにした。

 それは「水分を奪う魔道具」だ。乾燥材は完ぺきではない。

 しかし魔道具ならそれに近いことが出来る。


 魔道具とは魔力を原動力に効果を発動させるもので、非常に素材から作りてまで少なく非常に高価なものだが、生命線であり、一生ものの道具だと思えば、そこまで高くはないだろう。

 だから購入する限界まで値を釣り上げる。


 そしてターゲットは小金を持った中級冒険者ではなく、金も地位も名声もある上級冒険者や王侯貴族や金持ちが携帯することを想定している。

 さらに家系や集団を表す紋章を細工すれば価格を跳ね上げることも出来る。


 値段何てあってないようなものである芸術を取り入れることで付加価値を簡単に付与できる。

 そう考えるとうるしなどの仕上げ材で綺麗に塗ることも視野に入れるべきだろう。

 先ずはオニ兄上に営業をかけるべきだ。

 俺は作業が終わった足で執務室に向かった。


 商業都市ベネチアンは商人の街である。

 帝国、王国、共和国、公国、聖教国、連合国など様々な国と地域と接する東西貿易の要所だ。

 そのため高度に政治的な判断を求められる立場でもある。


「さて兄上、取引をしようじゃないか」


「取引だと?」


「俺が作成したポーションの軽量化と――」


 説明をし終える前に兄は俺の言葉を遮った。


「ポーションの軽量化だと!!」


 父が居ない間、この都市を預かる者としては切り捨てられない話題のようで食いついて来る。


「そう軽量化、ポーションがなぜ効果は知ってるよね?」


「ああ、魔法薬のため魔力が霧散しやすいことに加え、容器が瓶のため輸送中に割れやすいことなど理由を上げればきりがない」


 原材料は植物のため天候の影響を諸に受ける。

 日照り、大雨、強風、曇りなどでポーションの値は跳ね上がる。


「このポーションを見てください」


 そう言って俺は緑色の板を机に乗せた。


「コレが水薬ポーションだと?」


 兄は驚いた様子で緑の板を確認する。

 板チョコ状にして割って調節すると言うのもありかもしれない。

 まあ改良は後でやればいい。売れている間はそのままでいい。


「正確にはポーションにもなる薬です。血や唾液で溶け液体に戻りますから飲ませるのに水のほぼ不要です。また好みの濃度に薄めることでポーションの等級をある程度調整できます」


 喋っていて思いついた話だが、殺菌・抗菌力を強化して水の浄化にもある程度使えるようにするのも、面白いかもしれない。


「――っ!?」


「通常のポーションに比べ遥かに軽量で割れるリスクもない。まあ湿気には弱いがそれも容器を用意すればいいだけのこと。保存もしやすくほぼ腐ることはありません。魔力がどのくらいの期間で飛んでしまうかは判りませんが、推定では改良型魔法陣よりも少し短い程度だと思われ、これも容器で解決できる問題です」


「改良型ポーションがゴミになったな……」


「ゴミではありませんよ。予備になったのです」


「フン、モノはいいようだなこれがあるなら先に出せばいいものを……」


「今日作ったものなのでそれは無理ですね」


「……」


「……ん? 待て今『今日作った』と言ったな?」


「ええ、色々実験しながら今できるものの中で一番楽で役に立ちそうなものを用意したつもりです。この家のことは嫌いですけど姉上は好きですし、それに……兄上にはある程度力を持って頂かないと……」


「――はあもういい。他に売りつけようと言うモノはないな?」


「容器を職人に発注しているのでそれぐらいですかね……あとこのポーションはオススメはしませんが、傷口に詰めることで消毒と回復をさせることが出来ます」


「将兵の損耗を避けられるということか……」


「兵も騎士も立派なベネチアン市民です。税をかけ鍛えているのですから薬一つで戦場に戻れるのです十分な効果だと思いませんか?」


「……」


 オニ兄上は兵士をあまり大事にするタイプではない。

 どちらかと言うと、兵は畑から採れる。と思っているタイプだ。


「罪人で一度試す。おい死刑囚を庭に連れて来い!」


 メイドに命令して騎士に死刑囚を連れてこさせる。


「オニ兄上彼は?」


「強盗・放火・殺人・強姦・無礼を行った大悪党だ」


 日本と異なり石や煉瓦造りの家が多いものの多くの死者が出かねない放火は古今東西問わず大罪だ。

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