第65話 イノベーション必要は発明の母
前世では大往生とは言えないまでもそれなりに長く生きた。そんな人間よりも無鉄砲で根拠ない自身だけで突き進める若人のほうが、よほど面白いことが出来ると思う。
今回のこともパズルのピースを組みわせるように、既存のものを応用しただけでなんの目新しさもないからだ。
「私より若いのにじじ臭いこというのね」
「……それはそうですけど……」
危なかった。
思わず前世も含めた感覚で喋ってしまっていた。
するとキルケーは何かに気付いた様子でこう言った。
「あれ? ご主人様『ポーションタブレット』って血で溶かしたり出来ますよね?」
「確かに粘度を調節すれば患部に押し付けるだけで溶けてポーションの効果を発揮させられるが……」
「凄い発想だわ! これで破傷風などの感染症で死ぬ人間を減らせるわ!!」
グレテル先生の言う通り、近接戦闘の経験がある俺からしても極めて有用な使い道だと思う。
しかし同時に異物が傷口内部に残ってしまう可能性も高く、対処療法を考え実行することに加えて死ぬよりはマシと考えて貰うしかないだろう。
例えば特殊な塗料を混ぜ戦闘終了後に対応することなどが考えられる。
訴訟大国アメリカでもないので、自己責任の非推奨の使い方として広めればいい。
これはミリオタのクラスメイトが言っていた話だが、戦場のような極限状態では平時ではあり得ないような発想の工夫が行われる。
例えば、砂や水が入らないようにタバコの吸殻やコンドームを銃口せたり、銃創の止血にタンポンを使ったりなどだ。
他にもピックアップトラック――日本車のハイ〇ックスやランド〇ルーザー――を戦闘車両に改造した『テクニカ』やトラックを改造し即席の装甲車にしたりと目を見張るような努力がある。
【チャド・リビア紛争】後期には、日本車を改造した『テクニカ』が目立ちメディアが煽った結果『トヨタ戦争』などと呼ばれ、それを問題視し科学雑誌『
まあオチとしては、当時政府軍を支援していたフランスが送ったらしい。燃費の悪いフランス車送ってやれよ! ってはなしだが『プジョー』に始まり、『 シトロエン』、『日産』の技術におんぶに抱っこで『カルロス・ゴーン』で有名になった『ルノー』まであるんだからさ……
日本の製品は優秀なせいかか『カシオ』の時計がそのまま爆弾に使われたり、『イラン・イラク戦争』内での作戦の一つ『第5次ヴァル・ファジュル作戦』では『小松製作所』の建設機械がそのまま使われたり、秋葉原で北朝鮮がロケットを飛ばす材料を仕入れているなど日本万歳な話は枚挙にいとまがない。
これは技術力や製品の品質の高さとガバガバな輸出管理が原因だろう。
野営で交代交代に休む時にこう言った豆知識や雑学を訊いたことが今になって為になるのは面白い話だ。
人生勉強と言うのは本当のようだ。
「異物が残ったりした場合責任を取れと言われ兼ねないので推奨しない使い方に敢えて乗せておきましょう……」
「死者を減らせるのに?」
「間引きは必要です。モンスターから生存権を奪還しない限り養える人口は限られていますから……それに推奨しないけれど使えると知っていれば極限状態の末端は使わざるおえないでしょう」
「そういうこと……」
そうやら俺の意図は伝わったようだ。
「あのどういうことですか?」
社会経験の薄いクレアはピンと来ていない様子だった。
「“
「命が助かったのに文句を言う人なんているんですか?」
「
一瞬、悩むものの腑に落ちたのか短く「……たしかにそうかもしれないわ」と言った。
「それに殺菌も出来ていないし化膿が怖いよ」
「でしたら殺菌・抗菌の薬を混ぜてはどうでしょう」
「やっぱりそれが一番無難な解決方法だな。その分高くなるけど……」
「ポーションにも殺菌作用はあるわよね?」
グレテル先生は確認するように尋ねる。
彼女は出来るだけ安価で売りたいようだ。
「まあ多少は……」
ポーションは公開されているレシピ通りに作れば、『
しかし如何せん効果は低く、効能に挙げられるほどではない。
元の世界の代表的な万能薬と呼ばれた薬品は『ペニシリン』や、日本の『正露丸』や『キンカン』などだろう。
『ペニシリン』はその万能性から耐性菌など、未来への負の遺産を残したことが知られている。
『正露丸』や『キンカン』は万能薬的な効能を謳い文句にしていた過去を持つ。
事実俺の祖父母は「腹痛、虫歯なんでも最初は正露丸を呑めばいい」と言っていたほどだ。
『コーラ』も薬用シロップと炭酸水と言う当時の健康志向を取り入れた薬だった過去を持っている。
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