第45話 舌戦は終結する
元の世界にも警備会社や
だが大前提として『大きな政府』を実現するためには、強大な徴税システムを構築するなど大幅な近代化が必要になる。
事実上、少額被害で捕まることが無い日本だが、アメリカやイギリスのように約14.9万円や約8千円以下なら捜査しない。不法侵入も暴力がなければ捜査しない。国よりはマシだが捜査しても捕まらないことは多い。
前世の自宅に空巣が入った時も結局捕まらなかった。
確かに暴力装置は、軍や警察組織だけにすることが理想的だ。
しかし現実問題としてコストパフォーマンスを考えれば地球の近代国家でも難しい。
だが自分の利己的な欲望のためだけに騎士や兵士を増やすと言うのは許容できない。
「現実を見なさい。あなたの意見は机上の空論です。私は兄弟姉妹で言い争いをするつもりはありません。苦言を呈することはあってもあなたの人生です好きにしない。だけどコッロス公爵家の顔に泥を塗ることだけは許しません」
「判りました……」
渋々と言った様子でオットー姉さんの意見を受け入れたミナは顔を伏せた。
「……」
「しかし、あなたの意見も一理あります」
オットー姉さんはニッコリとミナに微笑みかける。
「え?」
「軍以外の優れた武力を持つ者がいては治安維持に問題が出る……この意見には私も賛成します。なのでこう考えてはどうかしら? 優れた冒険者を騎士として取り立てるために顔を繋ぐ……その結果あなたは自分のやりたいことに繋がると……」
オットー姉さんは傲慢なミナの鼻を折ることが目的だったようで、騎士を優遇し冒険者を冷遇することについては特に芯のある意見を持ってはいないようだ。
「……考えを直ぐに変えることは難しいでしょうが、物事に優先順位をつけそのために妥協することは、これからを生きる上では重要なことだと私は思うわ」
「ありがとうございますお姉さま……」
「ヒトやムシもいいですね?」
「僕らは」「別に」「「ねぇ?」」
と息の合った会話をする。
「身内の恥をお見せして申し訳ございません。今回のお詫びはまた後日させていただきます」
そう言って頭を下げるオットー姉さんに続いて全員で頭を下げる。
「いえいえ。コッロス公爵家の方々は継承権が低い子女でもこれだけ、ベネチアンのことを考えて頂けているのだと知ることが出来て領民の一人として嬉しい限りです」
――とマルコ副神殿長は
微笑ましいと小動物を眺めいるようなそんな表情だ。
高位の神官には、魔術の腕だけではなく外交的などの政治的手腕や、高度な内政能力が必要とされるため必然的に高位神官の子弟や弟子と言った関係者や、貴族や騎士の子弟果てには商人の子弟が多いと訊いた事がある。
この様子から見るにその話は事実のようだ。
「ささ、騎士や冒険者達が首を長くして待っていますよ」
そう言って先導し神殿の大きな扉を開ける。
神殿の中には複数人の神官や巫女が往来しており、患者の領民も複数居る。
正に病院の待合室と言った感じだ。
神官が医者、巫女が看護師と言ったところだろうか?
騎士達の病室は士官が個室で、それ以外は少人数の部屋だった。
全ての部屋を回り今回のサラマンダー討伐に関して、善戦したと褒めることを繰り返す。
ハッキリ言って必要なこととは言え一日に何度もやるのは飽き飽きする。
確かにミナのように騎士だけとか条件を付けたくなる気持ちが十二分に判った。
この国の王侯貴族や前世の議員や高官なんかは、こんな精神的疲労が溜まることを出来るのか……手を振ってスピーチをするだけのパンダと思っていたことを心から謝罪したい。
騎士達を労い終えた俺達は、高位騎士達と共に食事を取りながらあの日の話を訊いていた。
「同じ釜の飯を食う」と言うのは連帯感を生む。
こんな戦記モノによくある展開は、春秋戦国時代の将軍である【
「兵士と同じ物を食べ、同じ所に寝て、兵士の中に傷が膿んだ者の膿を自分の口で吸い出す」と言う。いわゆる美談で多くの創作物で、現場型の理想の上官を描く際に用いられる。
そんな【
古今東西、兵から慕われる上官と言うのは名将になりやすい。
「地の果てを求めた征服王アレクサンドロス」や「ローマ絶対殺す登山家ハンニバル」、「禿の女たらしカエサル」、「皇帝にまで昇りつめた男ナポレオン」などがそれらに当てはまるだろう。
前世に身に着けたテーブルマナーで食事をしていると、ミナ姉さんが口を開いた。
「ナオスは古風なマナーで食事をするのね」
「古風ですか?」
魔王を倒して四十四年も経過したのだ。
あの時金持ちなクラスメイトに付き合って貰い。習得したマナーも形骸化するのも頷ける。
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