夢のなか、昏い街

昏い街の改札を抜けて

わたしは、ただ歩いていた

何処かに行きたくて

誰かを探しながら

身軽になる為に

小さな鞄ひとつ持って

残りの荷物はロッカーへ


歩き続ける街の風景は

何処か懐かしいのに

何故か心細く気持ちは焦る


露店に売られているのは

珍しいものばかり

足をとめては覗くけれど


オ金ガ、ナイカラ、買エナイ、の


行き先も

帰り道も

わからなくなって

彷徨うわたし

街では次々に店じまい

あちこちでシャッターが閉まる音


店の途切れた場所に

ちいさな美術館

入ってみると

何かのお知らせか

大きなポスターが貼ってある


特別なものではないのに

不思議に気にかかる

ずっと魅入っていると

声をかけられる

一人の男性がいて

「宜しければ差し上げましょう」

と言う


ポスターを丸めてもらって

大切に抱えて

お礼を言って

美術館を出ると

今度は女性から声をかけられる

「ごめんなさい。そのポスターは差し上げられないものなの」


ああ、そうなのですね

わたしは、お詫びを言ってから

ポスターを返して一礼する

「かえって申し訳ないことをしてしまいました」


昏い街は、いよいよ薄闇に覆われ

行く場所も

探す誰かもみつからない


もう街を出なければ


気づけば改札の前

ポケットを探ると

切符が一枚だけ


改札を抜ける

風が冷たい

ああ、上着を

ロッカーに預けたままだった


ロッカーの鍵はない

ポケットは空っぽ


立ち止まる

けど、もう戻れない

失くしたものを想う



そういえば

列車には乗ってなかったんだった

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