第5話

 とんかつが出来上がるがとんかつだけじゃなく、山芋、すっぽんのガーリックスープ、ほっとチョコなどとんかつに合わない料理までも並ぶ。

 母さんがにやにやしていたが言ったら俺の負けが確定する。

 俺は黙って食事を食べて風呂に入った。


 風呂から出ると父さんは何度も電話をしていた。

 話の内容を聞く限りミルクをいじめていた件はうまくいきそうだ。

 俺も冒険者研修の予約を入れる。


 ミルクが風呂から戻ると母さんが使っているパジャマを着ていた。

 少し濡れた髪と火照った肌。

 そしてパジャマの胸が弾けそうになっていた。


 俺は思わずじっと見てしまった。


「今日はゆっくり休みましょう。伸の部屋で」

「姉さんと兄さんの部屋があるだろ」

「無いわ」


「あるって」


 俺が姉さんの部屋に向かうと皆ついてきた。


 俺は姉さんの部屋を開けた。

 ドドドドドドドドドド!


「うお!」


 ドアを開けた瞬間に荷物の雪崩が起きた。

 そう言う事か。

 父さんがトイレに行くと言って部屋のどうでもいい物を異空間から出して詰めていた。

 他の部屋全部で雪崩が起きるだろう。


「今偶然にも俺の仕事道具で部屋は満杯だ。開いているのは伸の部屋しかない」

「お仕事道具なら仕方が無いわね。ごゆっくりどうぞ」

「収納魔法は駄目だぞ、全部いつ使うか分からんからな」


「俺の部屋狭いから、3.5畳しかないから」

「イケるわよ」

「い、いやいや」


 俺は部屋を見た。


「母さん、俺の机は?」

「寝るスペースの為に取って置いたわ」

「布団が1つしかないんだけど、マットレスがいつものと違うし!」

「ダブルサイズのマットレスにしておいたわ。2人でイケるわね」


 ダブルのマットレス、そしてティッシュだけが枕元に置いてある。

 他の物はすべて撤去されていた。


「大丈夫よ、まずはヤッテみましょう」


 そう言って俺とミルクを部屋に入れた。


 グオン!

 窓と扉が光った。


「あ、」

「伸城君、驚いた顔をしてどうしたの?」

「窓と扉を封印された」

「えええ!!」


 本気を出せば封印を破れる気がするけど、多分家が壊れる。

 普通そこまでするか?



「多分朝まで開かないぞ」

「なんか、元気出ちゃった」

「ん?」


「さっきまで死のうとしてたのに伸城君のお父さんとお母さんは私を気遣って笑わせてくれて、家族以外にもいい人がいるんだなって思えたの」


 ミルクに接する女子はミルクをいじめる。

 その中にはいい女子生徒もいたのかもしれないがミルクが話しかければその女子生徒がいじめの対象になりかねない。

 気を使うミルクは声をかける事が出来ないだろう。

 

 ミルクに話しかけてくる男子生徒はミルクの胸をよく見る。

 俺もだけど。

 そして街で話しかけてくる男もナンパだ。


 ミルクの見た目が良すぎる為家族以外心を開くことが出来ないんだろうな。


 でもだ、父さんと母さん、特に母さんはミルクの思った意図で行動していない。

 母さんはただただ孫が欲しいだけだ。

 笑いで覆い隠した行動の裏には孫を作る目的で動いている。

 元勇者な母さんだけあって目的遂行能力が高い。

 そして勇者の見切り能力をフルに使ってくる。


 俺は冷静に罠をかいくぐる必要がある。



「わ! 伸城君!」


 俺はミルクをお姫様抱っこしてマッドレスに寝かせた。


「ここで、スルの? ……いいよ」

「いや、ミルクはこっち、俺はこの隙間」


 俺はマットレスの隙間にハマる様にして横になる。


「ベッド、空いてるよ」


 正確にはベッドではなく折りたためる薄めのマットレスだが言いたいことは分かる。


「駄目だ、これじゃあ俺が貸しを作って罠にハメたみたいになるだろ。まだ解決すらしていない」

「ふふふ、伸城君って真面目だよね」


 ミルクが俺の手を握った。

 胸がドキドキしてしまう。


「伸城君」

「ん?」

「おやすみ」

「うん」


 今日が終わる。

 だがミルクが気になって中々眠れない。

 ミルクも眠れないようで何度も寝返りを打つ。


 瞑想をしてから眠ろう。

 俺は瞑想をして眠りに落ちた。



 ◇



 カーテンから光が漏れて朝を告げる。


 昨日は色々あったけど父さんと母さんの思い通りにはならない。


 1つのマットレスを用意したなら俺がマットレスの外で寝ればいい。

 

 そう、抜け道はいくらでもあるのだ。


 何なら数日間寝ない事だって出来る。


 だが昨日、風呂上りのミルクには見とれてしまった。


 いかんいかん。


 今は計画を行動に移す時だ!


 目覚めて一日を始めよう。


 ぷにゅん!


 ぷにゅぽよん!


 おかしい、この揉み心地はおかしい。


 俺の上を見ると何も着ていないミルクが俺に抱き着いて眠っていた。


「ふぁ、伸城君、おは、よう」

「おはよう」

「……」

「……」


 ミルクが俺から離れた。


「ち、違うの!」

「落ち着け、事故だ!」


「違うの! いつもは服を着ないで寝る事が多くて! それに抱き枕をしてるの! それに眠れないと思って中々眠れなくて遅く寝ちゃったらこうなっちゃったの!」


「ミルク、大丈夫だから、まずは服を着よう」


 ミルクがもぞもぞとシーツで体を隠しながら服を着た。

 そして4人で食事を摂る。


「「……」」


「いい天気ね」


 母さんが言った。


「今日は2人で冒険者研修を受けるのよね?」

「はい」


 ミルクを鍛える事で夜道で絡まれても逃げられるようにする。

 体力的に強くなればみんなに囲まれても怖くない。

 それにいじめは自分より弱い者に来る。

 あれと同じだ。

 喧嘩を売られないように筋トレをしてでかくなるのと同じ方向性だ。


 それと、ミルクに自信を持って貰いたかった。


「ミルクちゃんは魔法が得意よね」

「そう、ですね。授業では魔法以外の運動は全然ダメでした」


「大丈夫よ。ナニかあって傷を受けても治せばいいわ」

「はい、頑張ります」

「肩の力を抜いて挑みましょう。伸の指導を受け続けましょう。仕返しの危険もあるわ。それまでここに住んで欲しいの」


「あ、ありがとうございます!」


 ミルクと母さんの会話が噛み合っていない気がする。

 このままではまずい。

 母さんは危険だ。

 すぐに家を出よう。


「ミルク、少し早いけど冒険者研修に行こうか」


 俺とミルクは冒険者研修に向かった。

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