第13話 勇者召喚

 宙に浮かんだカードに触れると、最上級カード特有の七色の輝きが彼方の瞳に映り込んだ。

 金属製のボディスーツを着た少女が目の前に現れる。


◇◇◇

【召喚カード:造られた勇者 メタセラ】

【レア度:★★★★★★★★★★(10) 属性:無 攻撃力:8800 防御力:7500 体力:6600 魔力:0 能力:メタセラを破壊した者にダメージを与える。召喚時間:1時間。再使用時間:30日】

【フレーバーテキスト:メタセラは本物の勇者ではない。だが、彼女はダークドラゴンを倒してカイルの街を守ってくれた。その命を捨てて…………】

◇◇◇


 メタセラは十四歳ぐらいの少女に見えた。肌はロウソクのように白く、ショートボブの髪は青色だった。右手には黄緑色に発光しているレーザーソードを持っている。


 整ったメタセラの唇が開く。


「彼方様…………ご命令を!」

「メタセラっ! ザルドゥを倒せ!」


 彼方はザルドゥを指差して、メタセラに命令した。


「了解しました。目標を…………排除します」


 抑揚のない声を出して、メタセラは動き出した。ブーツについた四つの車輪が高速で周り、一気にザルドゥに近づく。輝きを増したレーザーソードが斜め下からザルドゥの腹部を狙った。


「舐めるなっ!」


 ザルドゥはレーザーソードの攻撃を杖で受けた。そのまま、強い力で杖を振る。メタセラの体が飛ばされ、巨大な柱にぶつかった。しかし、メタセラは無表情で立ち上がり、すぐにザルドゥに攻撃を仕掛ける。


「無駄なことを…………」


 ザルドゥの前に赤い幕が出現した。その幕がレーザーソードの攻撃を受け止める。動きを止めたメタセラに向かって、ザルドゥが炎の呪文を放つ。オレンジ色の炎がメタセラの体を包むが、彼女は表情を変えることなく、左手の指先をザルドゥに向けた。五本の指から青い光線が出て、ザルドゥの肩を貫いた。


「グッ…………」


 顔を歪めたザルドゥにメタセラが攻撃を続ける。


「ザルドゥ様!」


 ザルドゥに加勢しようとしたミュリックの動きをティアナールが止めた。


「お前の相手は私だ!」


 ティアナールはウインドソードでミュリックに斬りかかる。


 同時に魅夜がトロスに攻撃を仕掛けた。


 彼方は三方の状況を確認しながら、カードを使うチャンスを狙う。


 ――ザルドゥを倒せば、残った二人は戦意を喪失するはず。呪文カードで遠距離から狙えれば…………。


 彼方は呪文カードを素早く選択する。


◇◇◇

【呪文カード:闇月の鎖】

【レア度:★★★★★★(6) 属性:闇 対象の動きを止め、闇属性のダメージを与える。再使用時間:10日】

◇◇◇


 カードが輝き、黒光りする鎖がザルドゥの巨体に絡みついた。


「ちっ! 小細工を!」


 ザルドゥの持つ杖の上部が輝き、絡みついていた鎖が切れる。その隙をメタセラは逃さなかった。レーザーソードでザルドゥの腹部を切り裂く。


 ザルドゥは顔を歪めながら、左手をメタセラに向けた。その指にはめられていた赤黒い指輪が輝く。空気を裂く音がして、メタセラの右足が切断された。


 メタセラは横倒しになりながらもレーザーソードでザルドゥの足を狙う。

 その手をザルドゥが踏み潰した。

 勝利を確信して、ザルドゥの口元が緩んだ。


 その瞬間――。


 倒れたメタセラの口が開いた。


「戦闘続行不可能…………自爆…………します」


 メタセラの体が青白く輝き、大きな音とともに爆発した。


「グウッ!」


 ザルドゥはうめき声をあげて、巨体を揺らした。ザルドゥの体には無数の傷がついていて、その部分から血が流れ出している。



「この程度の傷…………」


 ザルドゥのはめていた緑色の指輪が輝き出した。


 ――回復するつもりか。


 彼方は奥歯を強く噛む。


 ――そうはさせない! メタセラが命をかけて、ダメージを与えてくれたんだ。このチャンスを無駄にするもんか。


 メタセラに感謝しながら、素早く新たなカードを選択する。


 ――ザルドゥのダメージが回復する前に決める!


 触れたカードが七色の輝きを放った。

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