お嬢様って呼ばないで!!!

夏和 祐雪

プロローグ

 高校受験と中学校の卒業式が終わり、長い春休み。


 初日から友人と遊び、家に帰ってくると中一の妹がいつも辛辣な目で見てくるが、


「今まで受験勉強で遊ぶ暇が無かったから、いいじゃん。」


 と軽口で言う俺に妹は、溜息交じりに


「いつか痛い目見るからね。兄ちゃん。」


 そう返される。


(この言葉も、ほぼ毎日のように言われてるような気がするが。)


 そんな悠々自適な日々を過ごしながらも春休みが折り返しである、日曜日の夕飯後。


 家族みんな食べ終わった後、俺は自分の食器を片付けて、すぐさまリビングに置いていた携帯ゲームの電源を入れ、リビングのソファーでダラダラとゲームを始める。


 妹や母さん、そしてあんまりこの時間に帰ってこない父さんも夕飯後、食器を片付けてからソファーの後ろのテーブルでいつものようにみんな座って何気ない会話をしていた。


 まぁ、いつものようとは言ったが、父さんが、


「飯食べ終わったら、大事な話をするからみんなリビングで待ってろよ。」


 と真剣な感じに夕飯の時に言ったから、妹も母さんも待っているのだろう。


 だから、俺もここでゲームをして待っている。


 で、話している途中に父さんは咳払いをし、話し始めた。


「じゃあ、さっきも言った通り、大事な話をするから、ちゃんと聞けよ。」


 何だか、俺に向かって言ってる感じだが、大丈夫ちゃんと聞いてるから、と言うような感じに手を振って見せた。


 …ゲームしながらだけど。


 そして、大事な話が始まったが、始まったと同時にゲームのストーリーが進行した。


 やっべ、こっちの方が大事過ぎる。


 しょうがないから、半分は父さんの方を聞いて、もう半分はストーリーの方に集中で。


 そんな感じに聞いていたから、部分的に「会社の関係」やら「来週に来る」と聞こえたが、何となく会社の関係で来週に先輩の誰か家に来るのだろう。


 二人とも嬉しそうな声を出してるし、知ってる人でも来るのか。


 となると、いつも何かしら手土産をくれる、父さんの仲の良い『たなんとかさん』って言う人が来るのか?多分そんな名前の…。


 そんな事を考えながらもゲームをしていたら、妹がこっちに来て、


「で、兄ちゃんはちゃんと聞いてたの?」


 どうせ聞いてないんでしょ。と言う感じに言ってきた。


「聞いてたって、来週来るんだろう。」


「じゃあ、誰が来るのか分かるの?」


「う~ん?あの人だろ。あの人。」


「あの人って、誰のことだと思ってるの?だって、」


 まだ話したい気持ちは分かるが、こっちは今いいシーンだから悪いが。と思って、ソファーから立ち上がって、ゲームの電源を切った。


「はいはい、もう部屋に戻るから、風呂の順番になったら呼びに来て。じゃ。」


「いやいや、風呂の順番って、ちょっと、兄ちゃん。」


 何かまだ言ってるが、二階の自分の部屋へと俺は戻っていった。


 部屋に戻って、またゲームの電源をつけて続きを見ていたが、そういえば父さんは、部分的にこんな事も言ってたっけ。


「~はる…。」


 うん?はるって春休みなのにそこを強調する意味あるのか?分からん。


 だが、そんな事を考えているうちにゲームのストーリーも終わり、戦闘が始まった。


 おっと!ここで戦闘ねぇ。さっさと倒しますか。


 なんだかんだ言って、このことは全部綺麗さっぱりと忘れるのだが、にこの話が重要だったと俺は知り、ちゃんと人の話を聞いた方がいいと反省するのだった。






 ―今から二日前の昼、とある家で―


「…今大丈夫か?また電話して悪いな。」


 私は二階の自室で高校からの春休みの宿題を終わらせて、お昼ご飯を作りに行こうとしたら、リビングで休日なのにお父さんが誰かと電話をしていた。


 ドア開けっぱなしで丸声こえなんだけど…、しょうがない。


 仕事のことかもしれないし、邪魔しちゃ悪いから、一旦自室に戻ろう。


 そう思って、途中まで下りていた階段を引き返して戻ろうとした時、お父さんの言葉に私は驚き固まった。


「五日前にも話したと思うが、俺の娘をしばらく預かる件はどうなった?」


 えっ、どういうこと?


 自室に戻ろうとしたけど止めて一階まで静かに下りて、廊下で聞き耳を立てていたけど、


「…あぁ、そうだ。それで、大丈夫そうか?…あぁ、良かった、助かるよ。」


 やっぱり、電話だったから話の内容までは聞こえなかった。


「じゃあ、七日後までには娘に荷物をまとめる様にいっておくから。本当にありがとな。」


 そう言って、お父さんは通話を切ったので、リビングに入って早速お父さんに問い詰めた。


「お父さん、ちょっと待ってよ。なんで、そんなことしなくちゃならないの?」


「何だ。お前聞いていたのか。」


「ドア開けっぱなしにしてたら、聞こえるよ。」


「あははは、そうだな。」


「あははって、高らかに笑ってるけど、それよりも…。」


「あぁ、分かってる。丁度、今から波瑠に話そうと思っていた所なんだが…。」


 そう言った後、お父さんは咳払いをして話し始める。


「実は、お父さんは四月から遠い所に転勤になったんだ。」


「え?それ初耳なんだけど。」


「それもそうだ。今、言ったことなんだから。」


 お父さんは、いっつも急に言ってくることが多いから、私は戸惑ってしまうんだけど。止めてくれないかな。


 まぁ、お父さんに言って変わらないから、もう諦めたけど、それよりも、


「なんで、そんな大事なことを今まで言ってくれなかったの?」


「それなんだが。お前が高校受験を終えたばかりの時に急に上司に言われたんだよ。」


 会社の事なら仕方ないはずなんだけど、お父さんは渋い顔をしていた。


「でも、今まで会社で大事なことを急に言うってことはなかったんだけどなぁ。」


「転勤なら普通の事なんじゃないの?良くは分からないけど…。」


「うん?まぁ、そうだな。」


 私が行っても納得が言ってない感じだったけど、私がいつもやられてることはその事だし、これを機に急に言われる事がどれだけ大変なのか分かってほしい。


「嫌止めよう。このことは波瑠には関係ないしな。それより、」


 お父さんは難しい顔をしていたけど止めて、また改めて話し始めた。


「転勤するから、私の親友に波瑠の事を預ける事にしたんだ。」


「だから、何で私を預けようとしてるの?」


「あのな、この家で女の子を一人何て、危ない事出来るわけないだろ。」


「その割には、私ひとりで家に居ること多いし、防犯カメラだってつけてるでしょ。」


「言い訳しない。」


 私ひとりでも生活できるのにお父さんは頑なに首を縦に振らなかった。


「それに、お前も預けるから大丈夫だよ。」


 そう言ったお父さんはにっこり笑っていたが、誰の事だか分からない。


 もう一度誰の家に預けるのかちゃんと名字を聞くと、私は不安もあったけど納得できた。


 まさか、


 そう期待をしながらも、昼食を取って、早速私は持っていくものの準備に取り掛かった。

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