第30話 計画通り(震え)

 ──抜く暇がない。


 これは由々しき事態である。

 またかよお前、というツッコミは無粋だぜ? あの時とは状況が違うんだ。


 暗殺者に向かって放った【性の握撃タッチ・ザ・リビドー】によって吸収した性欲は、一発抜いたとはいえ、未だに俺の中で燻っている。


 しかし、聖女さまの修行が始まって以降、朝から聖女さまに付きっきりで修行を見て、夜は護衛任務。そして仮眠を取る、というハードスケジュールをこなしている。


 そのため、抜く暇があったら体力回復のために寝なければならない。多分このスケジュールで抜いたら死ぬ。マジで。


「くっ……」


 俺の強靭な精神力で今の今まで抑えてきた……抑えきれてるのかお前? というツッコミは無視をさせてもらうが、性欲は限界を迎えている。

 なにせ、抑えてるのにどんどん向こう側から性欲の補充があるのだ。


 修行中の艶めかしい聖女さまの姿……例のちっぱい事件……リースを除く美女たちの笑顔……笑顔フェチである俺は、彼女たちの楽しそうな表情を見るたびに性欲が過剰装填されていく。


「このままだと俺は……っ、性の獣ハウンド・リビドーになってしまう……!」

 

 今の俺は心があるからヘタレ童貞の精神性によって人を襲わずに済んでいるが、このままだと本能のままに──女性の襲い方が分からず勃起しながら立ち往生する変態になっちまう……ッ。


「一体どうすれば……」


 ……抜く以外に性欲の発散方法があれば……。

 聞いたことがある。


 芸術家や戦闘職のものは、絵を描いたり戦闘することで欲そのものを発散させるらしい。

 だとすれば【性騎士】は? ……字面的に抜くしかねーじゃねーか!!

 

 ──いや、待てよ?


 どうして今まで考えつかなかった?


 一つだけ方法があるじゃねぇか。抜くより簡単で、都合良く性欲のみを消費してくれる技が。


「【性騎士】のスキル無駄打ちすればええやん」


 いつもお世話になっている【性なる盾ホーリーシールド】先輩は、性欲を消費して盾を作る技だ。


 だが、別に攻撃の防御手段だけに使うというルールは存在しない。別に性欲を発散させる方法に使っても良いはずだ。


「……まあ、最終手段だけどな。息子に申し訳ねぇ」


 スキルを使って性欲を発散する……これは性への怠慢だ。なあなあで性欲を発散することは俺の主義に反する……が、非常事態なんで仕方ねぇですね。

 

 そうと決まれば早速っ!!


 今は聖女さまの修行の真っ最中なため、場所は鍛錬場と丁度よい。だがしかし、いきなりスキルを展開すれば聖女さまが驚いてしまうため、俺はおーいと彼女に呼び掛ける。


「聖女さまー! 今からスキル使うけど気にしないでな!」

「え……どうして」

「あー、非常事態!」


 すると、聖女さまは警戒をあらわにして辺りを見渡した。……ごめん、なんもないよ。


 とはいえ都合が良いので、俺は鍛錬場全体を覆う程度の性欲を使用して、スキルを放った。


「うおおおお!! 【性なる盾ホーリーシールド】ぉぉぉ!!!」


 ──瞬間、輝かしい光が俺を起点に広がる。


 凄まじいまでの性欲消費量。それでも未だに吸い取った性欲は四割ほど残っている。

 光が収まると、そこには鍛錬場を覆うように張られたシールドがあった。


「これじゃ盾じゃなくて結界だな」


 性なる盾ならぬ性なる結界の完成だぜ。

 なんて考えていると──


 ──ドガァァン!!


 という爆発音とともに、結界で守られた区域以外の鍛錬場の壁が吹き飛んだ。


「はえ?」


 え、今なんか俺やっちゃった? 性欲込めすぎて攻撃スキルに変わっちゃった??


 ヤバい、折角昨日壊した壁を直したばっかなのに、また壊したとバレればリースにめちゃんこ怒られる。


 あわあわと慌てふためいていると、壊れた壁から一人の男が現れた。


「いやはや……よく不可避の一撃を護ったねぇ。流石は【聖騎士】だぁ〜」


 現れたのは、黒い装束に身を包んだ男。

 しかし、前の暗殺者と違うのは、顔が明らかになっていること。

 ……金髪でやけに胡散臭そうな顔をしているこの男は、状況から見るに帝国の暗殺者だろう。……まさかこんな白昼堂々と仕掛けてくるとは。


 ……フッ、あんな雑な攻撃は、来ることが分かっていれば守るのも容易いぜ……偶然だけどな!!


 俺は冷や汗を流しながらニヤリと笑って言った。



「お前を……待っていたぜッ!」



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