救済のタイムトラベル

さとうはるき

第1話 プロローグ(1,007文字)

 ピッ、ピピッ、ピピピピ——


 目覚まし時計のアラームで、俺はぼんやり目が覚めた。目はまだ開けていない。


 聞き覚えのある懐かしい音。


 ゆっくりと目を開ける。ベッドに仰向けに寝ている俺の視界に入るのは天井。いつもの天井ではない。


 夢か……そう思いながら見覚えのある懐かしい天井から視線を逸らし、上半身を起こして部屋を見渡す。時刻は午前五時三十分。


 やはり夢か……俺は今、十年以上絶縁している実家にいる。部屋を見渡してすぐに気づく。中学の頃に使っていた自分の部屋。何も変わっていない。


 目をこすり、顔もこする……? 夢にしては皮膚を触った感覚がはっきりとしている……ん? リアルな夢だな。


 俺は気配を殺して静かにベッドから降りて部屋を出て廊下へ。そして洗面所へと移動。移動中は誰にも会わず、洗面所にも家族はいない。やはりこれは夢だな。朝は必ず誰かに会っていた。


 洗面所の鏡を見る。そこに映る俺の姿は中学生時代の少年。中学二年の一年間は金髪にしていた。金髪にしていたのは後にも先にも、この頃だけだ。


 いま見ると、なかなかの馬鹿っぷりだ。アホ丸出し。この頃の俺は金髪はカッコいいと本気で思っていた。


 鏡に映る自分を眺めていると、洗面所の扉が開いた。視線を扉の方へ向けると、妹の樹里が洗面所に入らずに廊下に立っていた。


 妹も俺と同じで幼い。俺が中学二年とすれば、妹は小学六年生。確かにそのくらいに見える。


 妹の樹里は眉間にシワを寄せて俺を睨む。そして『チッ』と舌打ちをして扉を閉めた。


 俺はすぐに扉を開けた。そして洗面所から出て廊下へ。トイレへと入る妹の背中を見ながら自分の部屋に戻った。


 部屋に戻るとベッドに座った。脳が混乱している。ここは本当に夢なのか? もしかすると現実世界なのでは?


 いやいや、ありえない。そんな非現実な……だけど……リアルすぎる。


 本来の俺は、実家から遠く離れた場所にいる、斉藤祐一さいとうゆういち、二十八歳。彼女もいないボロアパートに一人暮らしで住んで、アパート近くのスーパーマーケットの精肉コーナーで働く一般人。


 過去に戻る能力なんてものはない。じゃあ、どうしてこんな事になっている?


 落ち着け俺。俺に何が起こった? 少し前の俺の出来事を思い出してみよう。


 そうだな……ゴールデンウィークの同窓会に行ったくらいから思い出してみるか。


 確か……地元の居酒屋で開催されたよな。俺は地元に帰り同窓会に参加した。そこには幼馴染の月野宇華つきのうかや、唯一の友達の立花唯たちばなゆいもいて……。

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