絶叫昂国日誌・マテリアル解説コント

西川 旭

1 麗央那の串、数種(ゲスト:除葛姜

麗央那(以下、麗)

「さて唐突に始まりました、本編の時系列とは別次元で昂国や周辺地域の文物を紹介するこのコーナー。記念すべき第一回目のゲストは首狩り軍師、尾州(びしゅう)の魔人、あるいは幼麒(ようき)こと、除葛(じょかつ)姜(きょう)さんです。みなさん拍手~~~」


「いやコーナーとか、ゲストとか、聞き慣れん外国の言葉は勘弁してや央那(おうな)ちゃん。いきなり呼ばれて、なんのこっちゃわけわからへんねやけど?」


「私たちが身の回りで使っているものとか、たまに手に入れた珍しいものとかをここでは紹介していきます。私が知らないことは物知りな姜さんが説明してくれるでしょう。しっかりやってください」


「教えろっちゅうんやったら教えたるけどね。で、なんの話やねん?」


「毒の串ですね。私が持ち歩いてるやつです。姜さんに貰ったものもあるので、解説役としてお招きしました」


「のっけから物騒なこっちゃなあ」


「麗央那と言えば毒串、毒串と言えば麗央那、そんな芸風で広く売って行きたいので。商品化も目指してますので。ボタンを押したら七色に光るDX毒串! とかキッズたちにバカ受けですよ。売れたロイヤリティで豪邸を建てて猫とか犬をいっぱい飼います」


「央那ちゃんの言っとることがさっぱりわからへんねんけど、僕まだ寝とるんかな」


「商品化と全国展開の野望は置いといて、まず最初に紹介するのは私がはじめて作った記念すべき毒串ですね。後宮の物品庫の隅で一人でニヤニヤ笑いながら作ってました」


「ただの危ないやつやんけ」


「後宮の庭とかお城の内郭、探せば結構、毒草が生えてるんですよ。代表的なのはトリカブトですけど、スズランとかイチョウなんかも、多少は毒がありますからね」


「銀杏(ギンナン)食い過ぎたら死ぬで~、って子どもの頃にオトンによう言われたもんやわ。それか青い梅とかな」


「毒性が弱いのでその手の植物から毒を抽出することはまずないですけどね。あとは物品庫にあった水銀朱と砒素が主成分ですね」


「水銀朱って辰砂(しんしゃ)の石のことやろ。僕の地元はちょっとした有名どころやねんで」


「そう言えば姜さんの故郷は丹谷(たんこく)って名前の街でしたね。丹は朱の別名だからそれが採れる谷間の地域ってことですか」


「せやせや。まあ今となってはほぼ掘り尽くしてもうたから、ろくに残ってへんねやけど。昔の王さまは水銀で池を作って、街の建物を全部真っ赤に染めたそうや。景気のええ話やね」


「政治経済の中枢が尾州(びしゅう)から毛州(もうしゅう)に移って王朝が替わったのも、水銀朱の採掘状況が影響してそうな話ではあります。それは良いとして私の毒串ですけど、最初は木製のやつを使ってました」


「後宮を覇聖鳳(はせお)が襲って来たときに持っとったやつやな」


「手に入りやすかったトリカブトが主体で、串自体は木製です。表面がガタガタギザギザしてるのは毒の塗布量を増やすためと、刺さったときに引き抜きにくく、返しの役目になるようにですね」


「冷静なんが怖いんやけど。ほんまにはじめて作ったん?」


「そりゃそうですよ。それまでの人生で毒串が必要な場面なんてありませんでしたし」


「それまで幸せに暮らしていた無垢な少女が、覇聖鳳のせいで狂人の仲間入りをしてしもうたんやね。おじさんは哀しいわ」


「うるせーバカ。心にもない薄っぺらい同情はやめろ。と、話を戻して、これは思いのほか、毒が強すぎて人間相手だとオーバーキルにしかならないんで、木製の八本を使い切ったあとは、いろいろ考えて毒の量を調整してます」


「暗殺だけに毒串を使うなら強い方がええけど、脅迫や交渉に毒を使う場合は、あっと言う間に殺してもうたら意味ないからね。いやそこを冷静に考えとるんがやっぱり恐ろしいんやけど」


「そこで便利なのが、姜さんに貰った鋼鉄製の串です。詳しい説明をお願いします」


「ほいほい。僕が央那ちゃんにあげたんは、小指より少し細いくらいの鉄の串で、中央縦に溝、へこみが切ってある形なんや。この溝に毒の練り物をぎゅっと埋めれば、毒の種類も量も、強さも思いのまま変えられるっちゅう寸法やね」


「実際これが凄く便利でして、私はこの形の串を、致死性の高い怪魔退治用の串と、毒性が弱くて体が痺れる程度の人間制圧、脅迫用の串とに分けて使っています」


「毒の量はどないして測っとるん?」


「翔霏(しょうひ)や軽螢(けいけい)に協力してもらって、中型や小型の怪魔を実験台にしてます」


「鬼や」


「どうせ殺すんだし、こうして彼らの命は人々の役に立って終わるんですよ。怪魔も喜んでくれてると思います」


「なわけないやろ。きみを呪って苦しみながら死んどるに決まっとるわ」


「やめて、そんな正論は聞きたくない。人を傷つけずに私の学びとなって死んでいった怪魔は良い怪魔。私はそう思い込むようにしているんです」


「きみがええならそれでええんちゃうか……」


「そんな感じで記念すべき第一回はそろそろ〆ようと思いますけど、姜さんはなにか喋り足りないことはありますか? 次にいつゲストで呼ばれるかわかったもんじゃないんだから、ここで思う存分に話しておいた方がいいですよ」


「尾州はええとこやで、みんな遊びに来てな~」


「内乱の後始末で姜さんが過酷な厳罰政治やってるとこじゃないですか」


「そんなん、州都とか一部だけや」


「否定はしないんだ」


「僕の田舎の丹谷とかはのんびりしたもんや。山の方に行ったら、竹林の中に珍しい白黒熊(しろくろぐま)とかがおんねんで。コロコロ肥えとってな、これがまた可愛ぇねん」


「パンダいるの!? めっちゃ行くわ。もう今行きましょうハリアップ早く早くこんな串の話なんかしてる場合じゃねえ!!」


「きみが始めた話とちゃうんかい……ほな、みなさんごきげんよろしゅう。また会えたらええね」


「ねえ尾州って暑い? 夏服いっぱい持って行った方がいいかな?」


「僕に〆させんな」


「パンダに抱きつくのが私の百八ある『生きてる間に叶えたい夢』の七十七番目なんですよ~。待っててねパンダ~! 今行くからね~!!」



                                (つづけ


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