第18話 真冬稽古レポート 持たざる大賢者の基礎鍛錬 [マリンside]
私は、マリン・ティツール。
10代目大賢者。
白銀の山の中、マリンたちは先生に再び稽古をつけている。
最初の1週間は、基礎が課題。
柔軟運動で体をほぐしてから、開始される。
「あっれ~? おかしいぞ。テレジアお姉ちゃん、床まで頭がつかないや。先生、背中押・し・て?」
カッチーン!
「じゃあ……
「君たち。真面目にしろ」
石段約20,000段を10往復。標高0〜5,000メートルを上り下り。目的は、身体能力の底上げ。
空気抵抗が少ない分、マリンは素早く階段を駆け上がれる。
けれど、クレアは程よい大きさで、マリンより早い。
勇者、ズルイ。
それが終わると、今度は標高5,000メートルでの素振り。風速20メートルの猛風の中で、剣術の基本の型――唐竹・袈裟斬り・逆袈裟・右薙ぎ・左薙ぎ・左斬り上げ・右斬り上げ・逆風・刺突――をランダムで4,000回。目的は、上半身の筋力増加、動作の練成、太刀筋の
「コラァッ、クレア! 剣筋が一瞬ブレたぞ。何やっているの!?」
「こうすれば、ボクと先生だけここに残ってワンツーマン指導できるかなって、テヘッ」
あ、先生、キレた。表情が鬼みたいに険しい。
「成程。余裕があるのだけは分かった。だったら、この巨大バーベルで1から素振りをやってもらうか」
「えっ? ちょっ、すっごい重くて風に
クレア、自業自得。真面目にやらないのが悪い。
こんな調子で素振りまで終わったら、道場に引き返しての
「そこ、かかとがついてる。それでは、スムーズに突けないぞ! やり直し!」
「すみません、先生」
先生に指摘されたリーゼロッテ。戻るときも、足捌きをしている。
「マリン。余所見をするな。左足が右足のかかとを超えているぞ。やり直し!」
不覚。視線を下にすると、左足の親指が1センチだけ、右足のかかとのラインを超えていた。
素振りと足捌きは先生曰く、剣術の基本の基本。だから、少しでも無駄な部分を先生に見つけられたら、最初からやり直される。
これら3つを午前、午後でそれぞれ1セット。
マリンは今日で、3回やり直し。
久々に筋力の疲労を味わった。
「懐かしいですね。私とマリンはもう3カ月半ぶりだからねぇ~」
「うん……。先生、相変わらず容赦無い」
温泉でテレジアと話し合う。この温泉のおかげで、マメが残ることはない。
横を見てみると、憎らしげに水面で浮かぶ2つの
それに比べて、マリンは何も浮かばない。空気漏れしてないはずなのに……。
どうして天は格差社会をつくったのか……。
なぜこうも、テレジアやクレア、リーゼロッテと違うのか……。
毎日牛乳を飲んだり、バストアップのトレーニングをしているというのに……。
こればかりは、魔導書に書かれていない。
先人たちはことごとく
風呂から上がり、マリンたちは久しぶりのパジャマパーティーで盛り上がった。
妹弟子であるリーゼロッテ、S級冒険者入り。
戦乙女、S級パーティー昇格。
こうして姉妹のように語らっているクレアたちは、まだ20にも及ばない女の子。
かくいうマリンも、この道場は第二の故郷と感じている。
ここに連れて来たおじいちゃんに感謝。
おじいちゃんはかつて、先生から『教え』について説かれた。その思想におじいちゃんは感銘を受け、今の『ティツール』をつくった。
――魔力や魔法の才能だけで人を評価する、悪しき自国を改革して。
それに、先生はただ『教え』を説くだけでなく、当時のおじいちゃんの味方をしてくれた……。敵の多い中で親身になって支えてくれたと、おじいちゃんは言っていた。
今のティツールがあるのは、先生のおかげ。
それ程に、『教え』を行う先生は真剣だった。
今は本気でマリンたちを強くしようと、いつも以上に厳しくしている。
だから、マリンは先生にはじめて会った時から、先生が好き。全力でサポートしようとする所が、大好き。
だけど、先生は時々、悲しそうな顔をしている。
その顔は、いつか訪れるマリンたちの旅立ちを名残惜しんでいる。以前まではそう決めつけていた。
……甘い考えだった。
1,000年の間、先生は弟子の死とどれだけ向き合ってきたのだろうか……。
1,000年の間、先生はどれほどの修羅場をくぐってきたのだろうか……。
それは一生、分からない。
だから、マリンが生きている間だけでも、先生を永久から解放してあげたい。
「そう言えば、そろそろ胸当てを変えようかな」
「クレア。最近、成長していると聞く。私も、そろそろワンカップ大きくするべきか悩んでいるのだが」
「だったら。私のお古を試着してみる? 確かここの
※マリンの心を傷つけないため、サイズは伏せさせていただきます。
……チッ。
マリンを蚊帳の外に置いて、3人でブラを試着。
3人の持つ者が、6つの丸餅に黒いブラをつけて、磯辺焼きをつくっている。
アレに対抗するためには、新しい魔法の開発が必須。
闇属性の魔法。
これで先生を、低身長で貧乳の少女に欲情させる。
状態異常『つるぺた貧乳フェチ』。
あ。『ロリコン化』、『性癖固定』も忘れずに組み込んでおかなきゃ。
魔法はこういう時に便利。
元気がなくなって干からびそうになったら、光属性で『回復』することができる。
半永久的に奉仕できる。
ーーー
[補足説明]
1.剣術の斬り方
・唐竹
上から下に斬る。
・袈裟斬り
相手の左肩から右脇腹に斬る。
・逆袈裟
相手の右肩から左脇腹に斬る。
・右薙ぎ
右→左の水平の太刀筋に斬る。
・左薙ぎ
左→右水平の太刀筋に斬る。
・左斬り上げ
袈裟切りの逆(下から)に斬る。
・右斬り上げ
逆袈裟の逆(下から)に斬る。
・逆風
下(股下)から上に斬る。
・刺突
突き。
2.
・送り足
右足が前に出て、左足がついてくる動き方。イメージは背筋を伸ばした状態で前後に移動する感じ。踏み込みはこの送り足の1種とも言われている。
前に進むときは右足を前に出して、左足を引きつける。
後ろに進むときは左足を下げて、右足を引きつける。
・継ぎ足
左足を引きつける足さばき。相手との間合いをつめるときなどに有効。
左足が右足のかかとのラインを超えないようにするのがポイント。
・歩み足
構えてから3歩進む動き。
すり足であり、かかとは少し上げて、つま先で歩く。
かかとが地面について、つまさきが地面から離れている場合はOUT。
・開き足
横移動。かわして斬る場合や応じ技などに有効。
右に動いたときは右足が前、左に動いたときは左足が前が基本となる。
3.ファウストとシン
当時8歳だったファウストは、魔法を練習するため、1人外出をしていた。そんなファウストの魔法が誤射し、森で狩りをしていたとある1人の少年へと向かった。
ファウストはなんとか制御を試みるが、すでに魔法は斬られていた。
ファウストは少年の持つ緋色のオーラを魔法の力と決めつけ指摘したが、シンは魔力でないと答えた。
当時、魔法至上主義に囚われていたファウストは頑なに信じず、シンに魔力測定を行ったが、シンは魔力0という結果のみを残した。
これがファウストにとって、魔法とは無縁の新たな力との会遇であった。
その日以降、ファウストはシンと森で模擬戦をするようになり、お互いのことを話している内に、ファウストは今の魔法国の在り方に疑問を抱くようになった。そこでシンに相談した所、彼から次の言葉を授かった。
「探究心が存在する限り、常に『教え』がつきまとうものだ。『教え』を放棄すれば、人は育たなくなる。人が育たなくなれば、国は滅びるものだ」
これにより、ファウストは魔法国の魔法至上主義を無くし、『誰でも学びの機会を得ることのできる』国へと変えることを目標とするのであった。
なお、シンはこの時、星霊峰の冬を乗り越えるため、食料調達を泊まりがけで行っていた。
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