第58話 聖女リズ視点、聖女はおっさんにたこ焼きを作る

 王都に滞在して10日ほどが経ちました。


 厳罰を覚悟していたアルバート先生は、国王陛下のはからいにより「死ぬまで国の為に働け」という罰をもらいました。

 大好きなお孫さんとの再会もそこそこに、北の砦へ新兵訓練のために王都を立つことになった先生。


 まだまだ若いやつには負けんとか言ってるらしいですが、やりすぎないようにと出立前の先生に釘を刺しておきました。でも、ブツブツ言いながらも嬉しそうな顔をする先生を見れて、本当に良かったです。


 ちなみに、色々とやらかした……


 ザーイ王子ですが……


 ミスリル像のままです。


 とりあえず自室に置かれていたらしいのですが、今は地下牢に置かれているそうです。メイドさんたちが夜中に王子の部屋から声がするとか、アフロがたまに動くとか、変な噂が流れたからだとか。


 まあ、どうでもいいのですけどね。


 ちなみに私たちは王城でのんびりとした時間を過ごしています。


 近日中にパレードがあるので、それまではいて欲しいと。



「リズぅ~~うまくひっくり返らないよぉ~~」

「リズぅ~~これうまいのじゃ。こっちは~~ハフハフ、あちっ!」


 で、今日は何をしているのかといいますと。


 みんなでたこ焼きです。


 これがバートスへの褒美だからと、ファレーヌ第三王女が急遽開始したのです。


「ねえファレーヌ。こんな王城の一室でたこ焼きなんてしていいの?」


 ドレスの袖をまくって、姫らしからぬハチマキ姿の第三王女に視線を向ける。


「もちろんよ。お父様にも言ってあるし。 あら? もしかしてリズは嫌だった? 無理に参加しなくてもいいのよ? わたくしとバートス2人きりでも良かったのだけど」

「なっ! そんなのダメに決まってます!」


「なぜダメなのです? 国の英雄を王族が労う。自然なことだと思うのだけど」

「え……そ、その。たこ焼きは焼くのが難しんです。私がいないと……」


 難しいはずなのだが……


 ファレーヌの手元を見て、私の言葉は尻すぼみになっていく。


 カルラやエレナはうまくひっくり返せず苦戦しているのだが……この王女は。


 軽やかにピッピッとたこ焼きをひっくり返しているではないか。


「それなら大丈夫です。当然ながら予習してきてますから」


 フフっと微笑むファレーヌ。

 なんだかいつもの彼女の笑みとは違う感じがしてしまう。


 そして、負けたくないという感情が私の中で強くなっていきます。


 勝負でもなんでもないのに。


「リズ~~ファレーヌは出来てんるんだからこっちみてよ~~」


 カルラに呼ばれて一緒にコロコロ転がします。


「新たなライバル登場だけど、あたしは誰にも負けないからねぇ~~」


 ライバル……


 やっぱりそうなんでしょうか?


 ファレーヌは馬車に乗ったあたりから急に雰囲気が変わりました。

 そして、なんか私はずっとモヤモヤしてます。


「よ~~し、あたしのたこ焼きが一番おいしいんだから~もっとたくさんやこ~」


 鉄板に油を引いて、鼻歌交じりで生地を流し込んでいくカルラ。


 たこ焼きの中に入れる具材は、各々が調達してくることになりました。

 同じものを作るより、色んな味を楽しんでもらおうというわけです。


 生地を流し終わったカルラも、自身の選んだ具材を手際よく入れていきます。

 初めは失敗していたカルラですが、何回かやるうちに上手くなってきました。


 む……失礼ですが、ちょっと意外です。


 もしかしたらカルラは女子力が高いのかもしれません。


「さあ~て、とっておきの入れちゃお~~と」


 ……!?



 いや、ちょっとまって! なんか茶色っぽいの入れてる!?



「か、カルラ……これまさか?」


「ふふ~~ん。チョコレートだよぉ~~」



 ええぇ! それはどうなの? 



 たぶんダメなんじゃ……


 チョコレートはドロドロに溶けて、たこ焼きと一体化し始めている。

 なんだか茶色と黄色のマーブル玉みたいな感じに。


「おお! カルラのたこ焼きは変わった色だな」


 そこへバートスが後からあらわれて、カルラのたこ焼きに興味を示した。


「は~~い、あ~~ん」


 ええぇ。味見もしないで! 


 っていうか「あ~~ん」ってなにそれ!!


「うむ、なんか甘くて香ばしい」

「へへ~~、いま王都で流行っているチョコレートってお菓子なんだよ~」

「そうなのか。カルラは新しいもの好きだからな。さっそくたこ焼きにも取り入れたわけだ」


 意外にもバートスには好評のようですね……


 というかズルくないですか。


「あ~~ん」パクっとか!


 味はともかくとして、シチュエーションが大きく加点材料になっています。


 それにしても……


 なんか「あ~ん」へのアプローチが流れるようにうまい!

 くぅうう……やりますねカルラ。


 はっ! そうだ! 私もやればいいんだ!


 自分のたこ焼きを一つバートスの傍に持っていき……


「あ、あ、あ………」

「ん? どうしたんだリズ?」


 くっ……なにこれ!? 


 恥ずかしすぎてできない……


「あ~ん」って言うだけなのに!


 い、いったんやめましょう。


 バートスも頭のうえに「?」が浮かんでいる様子ですし。


 で、でも私の焼いたたこ焼きが、バートスの一番に決まってます。



「バートス! 我のも食すのじゃ!」


 次はエレナですか。

 ま、まあいいでしょう。バートスの意識もエレナの方に向いてくれましたし。


 ―――って! なんですかこれ?


 タコがそのままギュウギュウに押し込められている!?


「エレナ……生地はどうしたんだ?」

「きじ? バートス、なんじゃそれは?」


「ほら、リズやカルラが入れてるだろう?」

「ほぇ~~知らなかったのじゃ……というかわれたこ焼きってタコを焼くのかと思っていたのじゃ」


 ああ、ちゃんと見てあげれば良かったです。


 この子、調理がはじまるなりバクバク食べてたから、放置でした……。


「うむ、だがうまいな! これはこれで!」

「じゃろう! われは30個たべたからのう」

「おいおい、相変わらずだなエレナは」


 なんだかんだでバートスの好評をもらっていますね。


 はっ! ……なるほど。


 ドジを演出するのもありということですか……奥が深いです。



 次にバートスが向かったのは。


 ―――きましたね。


 ―――いちばんの強敵。


 第三王女ファレーヌの元へ。



 この戦い……


 ――――――負けるわけにはいかないです!!





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