第26話 おっさん、石化をぱきぃーんする

「うわぁあ! 聖女様だ! 聖女様がきてくださったぞ!」


 ストーンシティの町に入ると、いきなりテンション高めの男に絡まれた。

 リズの法衣と聖杖を見るなり、騒ぎ始めたのだ。


「こ、これで……あいつを! 憎っき、あいつをぉおお!」


 目の焦点が合っておらず、息も荒い。


「あれ? お供の騎士団は? あいつを始末する大軍はどこにいりゅぅ?」


 呂律もうまく回っていないな、この男。

 俺はリズの前にスッと出る。


「どうした? 大丈夫か?」


 俺は男に問いかけたが返事はなかった。

 そして、そのままフラフラと俺たちから離れて行った。


「ああ……すいません。兄は婚約者を石に変えられて以来、ずっとああなんです。大変失礼致しました」


 うしろから駆けつけた女性が、俺たちに頭をさげる。


「いえ、構いません。お兄様もさぞお辛い思いをしたのでしょう。いまは時間が必要なんだと思います」


 リズが女性に優しい視線を送る。


「ありがとうございます。あの……聖女様はキングコカトリスの討伐に来てくれたのでしょうか?」

「はい、そうですよ」

「ではお気を付けください。以前教会の神官さまが町の近くまで来たキングコカトリスに石にされてしまいまいした。聖属性の魔法結界もあまり効果がなかったようです」


「はい、ご忠告ありがとうございます。ですが、私は聖属性の魔法が使えないのです」

「ええ? 聖女様なのに? ……っ! ごめんなさい、わたし失礼な事を……」


「フフ、いいんですよ。使えなくてもなんとかしますから。それに、私には頼りになる従者がいますしね」


「……聖女様」


 そう言うと、女性は頭を下げて去って行った。


 最近リズは良く自らのことを他人に話すようになった。

 聖属性の魔法が使えないことを。治癒魔法が使えないことを。


 俺と出会う前はひたすらに隠していたようだが、彼女の中で何か心境の変化があったんだろう。


 もちろん言わないという選択肢もあると思う。本来の聖女としての力が無いと言うと、他者に無用な心配を与えることになるかもしれない。


 が、それでも。


 リズはあえて自身の事を話したように思う。


 それは聖属性の魔法が使えなくても、治癒魔法が使えなかったとしても、聖女として活躍できるということが、実体験を通じて分かってきたからなのかもしれない。


 そんな聖女がこちらを振り向いて口を開く。


「バートス、カルラ。早急に対策を立てて行動しましょう」


 リズの瞳には強い決意が込められていた。


「わかった。まずは道具屋に行って、あとは情報取集ってとこか?」

「はい、そうです。バートスも私の事がわかってきましたね」

「やった~~道具屋って初めて行くの。あたし楽しみ~~」

「フフ、とにかく装備を整えましょう」




 ◇◇◇




「リズ~~これが石化解除薬かな?」

「はい、カルラ。それは多めに購入しましょう」


 早速、この町の道具屋に入った俺たち。

 カルラの手にしている小瓶が石化を解除する薬らしい。


「おっちゃん、あの薬を使えば石になった体を元にもどせるのか?」


 俺は奥で座っていた店主に問いかける。


「ああ、石化解除薬かい。通常であれば石化後1時間以内に振りかければ元に戻るよ」

「通常でない場合もあるのか?」


「あいつに出会っちまったなら、まあ……10分以内に使用しないとダメだな」


 あいつ。


「つまり、キングコカトリスさ」


 だよな~。


 やはり相当ヤバいやつだな。通常よりもはるかに強い石化攻撃をしてくるってことだ。


「おっちゃんは、キングを見たことがあるのか?」

「ああ、一度だけ遠目にな」


「ど、どんなやつだった?」


 俺はゴクリと生唾を飲んだ。


「とりあえずデカい。大きな怪鳥の体に3本のヘビの尻尾をシュルシュルさせているんだ。ばかデカいくちばしから石化の光を出してくるんだよ」



 なにそれ……やはりヤバい奴だな。



 俺が店主にビビらされていると、リズたちが買うものをまとめたらしくこちらにやって来た。


「あれ? リズの持っているのは鏡か?」


「キングコカトリスは石化の光を出すらしいですから。もしかしたら防ぐか、ダメージを軽減できるかもしれません。うまくいけば跳ね返せるかも」


 なるほど、光に対して鏡か。色々考えてるんだな。


 もとからリズには工夫できる才能があった。

 無いものねだりではなく、あるもので工夫して選択肢を増やす。

 ダメを見つけるのではなく。出来そうなことを探す。


 旅路を重ねるにつれて、その才能はどんどん伸びている。


 やっぱりリズは立派な聖女だ。


「どうしたんです? バートス。私になにかついてますか?」

「いや、俺は良い聖女の従者になったなって思ってただけだ」

「フフ、おだてても何も出ませんよ」


 俺の聖女は綺麗な銀髪をなびかせて、ニッコリ微笑んだ。




 ◇◇◇




 俺たちは装備を整えたのち、町を出た。

 少し進むと、大きな平原地帯にでる。


 あたりには石に変えられたであろう石像が増えてきた。



 うわぁ……いかにもでそうな雰囲気。



「ここがキングの出没が多い場所か」

「はい、キングコカトリスは突然上空から現れるらしいですから。各自警戒をしっかりしてください」

(キエェエ)


「リズ~~これが石化解除薬だっけ?」

「カルラ、それは体力回復ポーションです」

(キエェエエエ)


「じゃあこれかな? リズ?」

「いえ、これは解毒薬です。ってなんで半分ないんですか!」

「へへ~~ちょっとのど乾いたから~~」

(キエェエエエエエエ)



「なあ? さっきからキェエエって声が頭上から聞こえるんだが?」


 取り込み中の2人に声をかけると、2人とも固まってしまった。


 え? なに、怖いよ2人とも。


「バートス! 頭上にキングコカトリスです!!」


「へ?」


 上を見上げると……

 眩い光が俺の体に直撃する。



「ば、バートスっ!!」

「バートスさま~~~!!」


 リズとカルラが俺の周りで騒いでいるな。


 んん? なんか体が重いというか固い感じがする。


「リズ~~はやく石化解除薬かけないと!」

「わ、わかってます! カルラ!」

「はやくぅうう!」

「焦らせないでください! いま出しますから!」


 あ、もしかして俺は石になっているのか? 


 だが、この感覚は……魔界の焼却場で幾度となく経験したものと同じ。


 だったら……


 フンッ!


 俺は下腹に少し力を入れる。



 ―――パキィン!



 ほら、簡単に石から復活できる。



「リズ、カルラ。これ大丈夫なやつだ!」




「「――――――ええぇええええええ!!」」






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