魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

のすけ

第1話 おっさん、地上(人間界)に追放される

「バートスさま~~、午前の分はこれで全部だって~~」


「ああ、カルラか。今回はトカゲが多いな」



 大量の魔物が次々に焼却場に運び込まれる。

 あたり一面に転がるトカゲの死骸。赤いトカゲに水色、緑、あとピカピカのやつなど種類は豊富だ。


 ここは魔界のゴミ焼却場である。


 魔界は魔王様を中心に魔王軍および、幾多の組織で構成されている。

 俺の職場は清掃局と呼ばれる組織で、そこのゴミ焼却班だ。


 そして俺の名はバートスという。


 もう36歳になった。いいおっさんである。


「ふわぁ~~さっきバートスさまが片付けてくれたのに~~」

「まあじっくりやるさカルラ。焦らなくてもいい」


 俺と話しているカルラは、同じ清掃局の管理部職員で新人さんだ。

 俺が古株だからか? なぜか俺の事を様付けで呼んでくる。


 若いのによく勉強しているし。わざわざ現場まで様子を見に来てくれる熱心な女の子だ。

 ちょっと制服の露出が多くて目のやり場に困るが。


 ちなみにカルラは魔族である。その証拠に魔族の象徴である角が生えている。

 俺にはない。


 理由は簡単で、俺が人間だからだ。


 俺は赤子の時に魔族である親父に拾われた。

 その育ての親父もすでに死んでしまったが。


 なので俺は魔界育ちの人間という事になる。



「―――さて、仕事にかかるか」



 俺の眼下に広がる大きな焼却場。


 魔界のゴミが全てここに集まる。

 生活ゴミから、よくわからん鉱物やら魔物やら。


 ちなみに魔界にうじゃうじゃいる魔物は基本害獣だ。魔族の住処に近づく奴は駆除の対象になる。

 このトカゲたちも魔王軍が討伐したやつらだろう。


「ひゃあ! バートスさま~~! 何匹か普通に生きてるぅ!」


 またか……。いつものことだが雑な処理をして焼却場に送ってくるなぁ。

 魔王軍にもいい加減なやつがけっこういる。最後はおまえたちが燃やしとけよって感覚なんだろうが、きっちり処理してから送って欲しいものだ。


 とまあ、そんな愚痴を言ったところで仕事量が減るわけではない。それにもう慣れっこだ。



「とどめを刺し切れていない奴か……まあ任せろ、

 ―――ボウッ!」



 俺は【焼却】しょうきゃくの力を発動して、生きている個体を中心に燃やしていく。


「ふわぁ~~やっぱりバートスさまの固有能力は凄い!」

「トカゲだろ? そんな褒められるもんじゃないぞ」

「そうですね~~バートスさまにとってはトカゲでした~~」


 カルラがいつものごとく褒めてくれる。

 どうこからどう見てもただのトカゲなんだけどな。親父からも「トカゲごときはまとめて燃やせるようになれ」と言われたもんだ。まあ、かわいい子に褒められるのは悪くないけど。


 そんな考え自体がおっさんになったと思う今日この頃である。


 魔族は1人1つ固有能力という特殊な能力を持っている。名前のごとく多種多様な能力がある。

 固有能力が使えるようになる年齢はバラバラだが、なぜか人間の俺も6歳の時から使えるようになった。


 魔族である親父に赤ん坊のころから育てられたからなのか、理由はよくわからん。


 ちなみに俺の使用した【焼却】とは死んだ親父の固有能力と同じものだ。

 固有能力は近しい者の影響を受けやすいと言われている。親が最たる例である。


 親父は魔王軍を引退してからは、ずっとこの焼却場で仕事をしていたらしい。

 そして俺は物心ついた頃からずっと親父の傍で仕事を手伝っていた。そいう事情もあって俺は【焼却】という力を使用できるようになったのかもしれない。


 親父が死んでからも、ずっとここで燃やし続けている。


 昇進や管理部への転勤などは一切なく、ずっとここにいる。

 もう完全に古株だ。そしていいおっさんになってしまった。



「バートスさま~いつもながらにとんでもない量ですよぉ」

「ハハハ、そうだな。だが仕事だからきっちりやるさ。俺にはこれしかできないからな」

「へへ~あたし知ってるんだもん! バーストさまは凄いって」

「何言ってんだカルラ、おれはただの人間だぞ。毎日燃やし続けているだけだ」



 カルラと会話を交わしながらも【焼却】し続ける俺。トカゲはすぐに灰になって消えていくが、量が多い。まあ、仕事があるってのはありがたいことだけどな。


 それに、俺はこの仕事が好きだ。



「ああ……あたし管理部に戻らないと。じゃあ、バートスさま~~またね~~」

「ああ、カルラ。気をつけてな」


 カルラはその豊満なお尻をフリフリ振りながら去って行った。


 やはりおっさんには刺激が強すぎる……


「いかん、いかん。仕事に集中しよう」



 しばらくの間、もくもくと燃やし続けていると、急に怒鳴り声が飛んできた。



「おい、そこのクズ人間! おまえだ! ぼ~~と燃やしているおまえだよ!」


 あ~~嫌な声だ。あまり振り返りたくないが……

 仁王立ちでふんぞり返った魔族がいた。


「はい、お疲れさまですゲナン副局長。なにかご用でしょうか?」


 この魔族は最近就任した清掃局の副局長だ。たま~に現場に来て、嫌がらせをしては帰って行く。

 たぶん暇なんだろうな。


「なにかご用じゃねぇんだよ! おまえはもう用無しになったんだ!」



 はい?



「えと、言ってる意味がわからんのですが?」

「わかるだろうが! お前は今日限りで清掃局を解雇だ! ついでに魔界からも追放だ!」 


「いや、ですから言ってる意味がわからないですよ? なぜ俺……じゃない私が解雇なんですか?」


「ひとつのことしかできないクズはいらん! おっさんになっても底辺職員の無能が! そもそも人間ごときが俺様の部下とか虫唾が走るんわ!」



 なんだそりゃ?



「しかし、仕事はしっかりこなしてきました。それに親父から引き継いだ仕事ですから、簡単に辞めるわけにはいきません」


「クハハハ~~仕事だとぉお? ただゴミを燃やしているだけじゃねぇか」


 いや、それが俺の仕事なんだが。


「それにな~~おまえ処理速度が遅すぎなんだよ! 1か月前に搬入されたゴミをまだ焼却してないだろうが!」

「ああ、10本ですね。あれは、まだ死んでおらず随分と暴れたんですよ。いまじっくりと【焼却】している最中です。それ報告したはずですけど?」


 10本はトカゲの上位種だ。トカゲよりもデカくて、首が10本ある。こいつはけっこう燃やさないと灰にならない。

 上位種はきっちり灰にしないと、いずれ復活してしまうからやっかいなのだ。


「いい訳すんじゃねぇ! だいたいダラダラ燃やしているだけで給料もらえるとかなめてんじゃねぇよ!」


 ゲナン副局長の怒りのボルテージが勝手に上がっていく。

 なぜ上がるのか、意味がわからんが……


「ケッ! 僕のカルラたんにちょっかい出してたろ! ちゃんと見てるんだからな! 今日もカルラたんの後をずっと追ってたんだ! このクズやろうが!」


 ダメだこりゃ。何言っても聞いてくれなさそうだ。

 あとつけ回すとか、完全にストーカー行為だからやめた方が良いぞ。

 というかカルラたんってなんだ?


「まったく、たいした能力もないくせに俺様のカルラたんに手を出すなんて分不相応なんだよ!」


 さっきからカルラたんとしか言わなくなってきたぞ。こいつ。


「カルラたんからも苦情があがっている」

「え? 苦情? カルラが?」

「そうだ、おまえからセクハラを受けているとな!」

「ええ~~それは何かの間違いではないですか? 俺はカルラにセクハラなんてしていないですよ」


「ふん、これだからクズは……毎日カルラたんから苦情はあがってんだよ!」


 そうだったのか……


 良く俺に声を掛けてくれていたが、もしかした俺の目線とかがダメだったのだろうか。

 極力見ないようにしてたけど。


 俺にその気はなくてもカルラにそんな思いをさせてしまったなら……これは仕方ないのか……


 とはいえ、辞めるにせよ俺の仕事はしっかりと終わらせたい。



「副局長、私がいなくなる前に引継ぎをしたいのですが」

「はぁ? 引継ぎだと? クズからなにを引き継ぐんだ? おまえアホか?」

「さっき言った10本の件ですよ。あれは俺しか担当してないから、後任者にしっかり教えておかないと」

「ふん、おまえがサボっていた案件だろうが! そんなもんは誰でもできるわ!」

「万が一にも完全復活したら、どうするんですか? 魔界で暴れたらマズいし。間違いなく魔王様にキレられますよ」

「やかましい! こんな燃やすだけのクソ仕事など、だれにでもできるわ! クソ人間が魔界にいるんじゃねぇ! おまえは地上(人間界)に追放だ! すぐさま転移ゲートにむかえ!」



 結局ろくな引継ぎをする時間も与えてくれず。俺は片道切符を渡されて、強制的に転移ゲートから地上(人間界)に追放されたのだった。




 ◇◇◇




 ◇バートスの同僚視点◇



「あれ? バートスさんがいない?」


「あいつならもういないぞ。昨日解雇されて、人間界に追放されたからな」

「ええ!? 解雇? 追放? って……ゲナン副局長! なぜですか?」


「あんなクズおっさんに、なぜもクソもあるか! 無能だからだ! あとカルラたんにセクハラしてたしな!」

「いやいや、そんなことないでしょ。むしろカルラちゃんはバートスさんの事を……」

「おまえ! 俺様のカルラたんをチャン付けとか舐めてんのか! おまえもセクハラしてるんだな! そうだな、おっさんと同じようにそういうことにするぞ!」


 いやいやそういうことって……何言ってんだこの人。


「まあいい。おっさんがいなくなって機嫌がいいんだ僕は。おまえはさっさと仕事しろ!」

「ええぇ……無茶苦茶だ……仕事って今日の分はどうするんですか? バートスさんの代わりとなると数人はシフト増やさないと」

「はあ? 何言ってんだ、おまえが全部やるんだ」

「へえ! ぜ、全部!?」

「なんだ、今日はお前の番だろうが! それに焼却班の職員は足りているだろうが! クズおっさんが1人消えたところでなんの問題もないだろうが!」

「いやいや……バートスさんみたいに丸一日燃やし続けられる職員なんて……」

「グダグダうるさいぞ! あいつは去るべくして去ったのだ! ついでに親父に頼んで転移ゲートの許可証つけて追放してやったんだ! ヒャハハハ!」


 親の御威光で追放ですかい。ねじまがった坊ちゃんだなぁ。


 しかし、これは大変なことになったなぁ……

 たしかに焼却班の職員はオレだけじゃないけど。ぶっちゃけバートスさん並に燃やせる職員なんていないんだけどなぁ……



「あの……副局長、バートスさんの能力に制限(リミッター)はかけたんですよね?」


「はぁ? アホかおまえ。あんなクズになんの力があるんだ。制限などかける元がないだろうが! 制限をかける腕輪は高いんだぞ!」


「はあ……制限かけてないんだ…………」

「なんか言ったか! 俺様はカルマたんとのラブラブNEW職場作りの構想で忙しいのだ! こんな燃やすだけのクソみたいな仕事はさっさと終わらせろ!」


 ゲナン副局長はそう言い放つと、スキップしながらルンルンで去って行った。


 バートスさんをリミッターなしで人間界に追放とか……絶対ヤバいと思うけどなぁ~~オレ知らねぇぞ。

 しかもあの人……自分の凄さを良く分かってないんだぜ。



 究極の火力を持つ無自覚おっさんが、制限(リミッター)なしに地上(人間界)に放たれたのである。




―――――――――――――――――――

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