第11話 箱入り娘と勇者と魔法使い1

魔族の少女が現れて2週間が過ぎた.

前線基地が片付き,過ごしやすくなった以外は特に変化がない平穏な時間が流れていた.

魔族の少女はこの場所にいる事が目的なのか,出ていく事なく意外にも上手く共存していた.


アリエスは,日課にすることにした剣の素振りをやめて,北の方向を見る魔族の少女に話しかけた.

「まだ,名前を教えてくれないんですか?不便なんですよね.」


「……この髪型をどうにかしてくれれば教える.」

魔族の少女は,メイド服に身を包み,不服そうに赤色のツインテールを触り,アリエスを睨みつけた.


「それは,僕には無理ですよ.諦めてツインテールしててください」

アリエスは『ツインテールって可愛いでしょ』そう言ってドヤ顔をして,圧をかけているエリを思い浮かべて,苦笑いを浮かべた.


「なら名前は教えない.そもそも知りたいなら実力行使でもすれば良いのにまわりくどい事をする理由は何.」


「……贖罪とかですかね.」


「……そう.勇者がした行為を怒っている魔族は少ないわよ.少なくとも私は,恨んではいない.それが戦いだもの.それは,それとしてそれで勇者はいつここから出ていく.」


「いつって言われても,他に良い感じに住める場所無いですからね.それに後から来たのは君ですよ.」


「不法侵入.ここは,サウスの領地だった.少なくとも勇者の領地ではない.」


「でも,君の領地でもないでしょ.だから,まあ一緒に使えば良いじゃん.僕たちも,家事は手伝いますよ.」


「それは,やめて,それとここは,私の仲間の領地.まだ来てないけど.」


「……でも,サウスは.」


「サウスは君たち勇者が倒した.でも,四天王の領地は次の四天王が継ぐ.次の四天王サウスが継ぐ.」


「どういう事ですか?同じ名前何ですか?親族?」


「……あなたに説明する儀理はない.」


「多分四天王の称号がサウスなんでしょ.アリエス.ここにいたのね.」

ツインテールを揺らしながら,エリが杖を回しながら現れた.


「……あとは,お二人で.」


「いや,まだ名前を聞いてないし,話は終わってないですけど.」


「……鈍い人間.勇者はそう言う生き物なのかしら.」


「ち,違うから,そういうののじゃないから.」

察しが良い魔族の少女と素直ではないエリと何も気が付かないアリエス.


「何がですか?エリ」


「良いから,少し頼めるかしら.」

エリは,口を膨らませて,顔を赤くして,ツインテールを触っていた.


(何を私は見ているのだろうか?)

魔族の少女は小さくため息をついた.


「頼み事?何ですか?」


「刺客が来たわ.」


「何人?」


「30人ぐらいかしら,たくさんいるわね.宮廷魔法使いかしら.ちょっと行ってきてくれるかしら.」


(宮廷魔法使い?確か,前線に出てきたら,勇者パーティーと同等の戦績を上げることが出来る.そう言われていた集団.……対してこちらは,聖剣がない勇者一人で行くのか.)

魔族の少女は,焦った.今,もしここに宮廷魔法使いがやってくれば自身の命もないことは確かだった.


「……結構来ましたね.じゃあ,ここは守らないといけないので.とりあえず,倒して一人捕まえて話を聞けば良いんですかね.」


「そうそう,出来れば,女の子を連れてきて.そっちの方が私が話やすいから.……いや,でも.まあ,そうね.仕方ないわ.女の子を連れてきて」

焦る魔族の少女に対して,アリエスとエリは呑気に会話を繰り広げていた.


「まあ,頑張ります.とりあえず,書類や文章とかは持ってきます.」


「じゃあ,方向は,まあ魔力探知で分かるわよね.いってらっしゃい.」

そう言って,エリが手を振るとアリエスがその場から消えた.


勇者がいなくなり,魔族の少女は口を開けた.

(待って.)

「勇者は,宮廷魔法使い30人を一人で相手にするの?無理よ.追いかけましょう.逃げれば良いわ.」

魔族の少女は,そう言って声をあげた.


「それは,無理よ.逃げる選択肢はないは.多分,そういう選択肢は元々アリエスにはないわよ.君はここに残りたいのよね.そしたら,アリエスはここを守る行動に出るでしょ.」


「何で?何で?意味が分からない.私は魔族よ.」


「それは,アリエスが勇者だから,いや,魔族もみんな助けるって決めただろうから,もうその呼び方も違うわね.アリエスだからよ,としか言えないわね.」

エリは,そう言って腕を組み,ニヤニヤと上機嫌に笑っていた.


「……」

(何で?それに,魔法使いの人は,それに反対してたんじゃないの?何で?)


「それに,アリエスは負けないわよ.見立てが,甘いわね,魔族ちゃん.いや,そうね.前の魔王の娘さん.」


(……何で分かった.)

「……何でそれを,それにそれが分かってるなら.」

魔族の少女は,魔王の娘の一人である彼女は,声を荒げた.


「当たったかしら.まあ,これはアリエスが気が付いたんだけどね.魔力が似てるって,分かったなら言えばいいのに.あくまで話すまで待つって,その気遣いを少しは私に向けてほしいわ.まあ,良いけど.」


「………」

何も言わない魔王の娘に対してエリは言葉を続けた.


「そろそろ,全部話しなさい.じゃないと君に付きっきりなのよ,アリエスが.それに大丈夫よ,話しても.もう勇者じゃないんだからね,アリエスは.」


魔王の娘である彼女は,数秒間黙り,数秒して

「……ガーネット.魔王の3番目の娘のガーネットです.」

そう口を開いた.


「ふっ,アリエスに勝ったわ.私が先に名前を聞いた.」

それを聞いてエリは上機嫌に笑った.


「……詳しいことは,アリエスさんが戻ってきたら話します.」


「そう,しなさい,私は味方をしなくても,アリエスが多分,味方をするわ.そしたら,仕方ないから私も助けてあげる」

エリは,そう言うと魔王の娘の頭を撫でた.


「……」


「それじゃあ,ご飯でも,作って待っておきましょうか.多分,すぐ戻ってくるわよ.それと,ご飯作るの手伝うわよ.」


「……それだけは,絶対にやめて」

ガーネットは,そう言って,本気で頭を下げた.

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