2節 箱入り娘と現実
第9話 魔族の少女1
「あっ,起きたわね.まずは,名前を聞かないと不便よね.」
魔族の少女が目を開けると,そう言って,笑っている,エリが魔族の視界に移った.
魔族は困惑した.まず,自分の背中にある柔らかな布団の感覚に,そして自分が拘束されていないことに.
「何が,目的だ.勇者パーティーが魔女が,何故,私を助ける.勇者は,何処だ.」
エリは,ゆっくりと魔族の頭にチョップした.
「その,魔女って言うのはやめてくれないかしら?何が目的って,呼びずらいでしょ.アリエスは探索中よ.」
(どうして,名前を,呼びづらい?そんなのは嘘だ.そうか,契約魔法のためか.契約者の名前が必要なのか.)
魔族の少女はエリを睨みつけた.
「教えない.」
エリは,その様子を見てため息をつき,ツインテールを振りならノビをした.
「はぁ,めんどくさいな.良いじゃない,名前ぐらい.」
「私は,喋らない.私は契約魔法も自白魔法も通用しない.」
(そうだ,そもそも,その手の魔法は,私には効果が薄いはずだ.それだったら,何とかなる,私がここで待っていれば.あの子が来るはずだ.)
「……いや,契約魔法はもうしたわよ.」
「えっ?」
魔族の少女は,素っ頓狂な声を上げた.
契約魔法,そう呼ばれる魔法は古来から存在していた.魔法を発動する条件が難しいが,その効果は絶大であり,人などに使う場合は,約束を守るための正式な使い方から,現在では禁止されてはいるが,奴隷を作るために使用されていた.
基本的には条件が厳しいものであり,また条件がクリアされても,個人の耐性などによって成功するかが決まる高度な魔法であった.
「契約内容は,私たちを攻撃しない.私たちの代わりに家事をする.私が着せたい服を着るの3つよ.」
一つ目は,安全のための保険,二つ目は,必要性,三つ目は,エリの趣味であった.
(何故,出来る?それに,何故,そんな内容で.意味が分からない.そんなことが出来るのか?それに,出来たとして,何故この程度の契約内容なんだ?私を奴隷にするか,売るかが目的ではないのか?何を考えている.いや,これは,嘘だ.それに出来てるなら強要すれば.)
「嘘だ.」
「元勇者パーティーの魔法使いよ.このぐらい余裕よ.証拠に,服を見てみれば良いわよ.」
エリは,そう言うと魔族の少女を指さした.
「……服」
少女は,そう呟きながら,自分の服を確認した.
それは,普通のメイド服であった.それは,彼女が着るべきと認識している服だった.
(ただのメイド服.……何で?何で私はこの服を着ている.)
「似合ってるわよ.次は,髪形をアレンジしたいわね.」
エリは,ご機嫌に笑っていた.
(魔法は,本当だ,ブラフなどではない.この服を着せる意味は分からないが.……)
「……私は何もしないし,何も喋らない.何をされても,意地でもその契約魔法に抗う.この服も……」
魔族の少女はそう言いながらメイド服を着替えようとしたが,出来ずに動けずにいた.
「可愛いでしょ.メイド服.着るぐらい良いじゃない.私は,本当は助けたくないのよ.それを助けた恩人よ.服の着せ替えぐらいしても良いわよね.にしても,メイド服.王宮からパクってきて良かったわ.」
「……パクってたんですか?」
そう,言いながらドアを開けてアリエスが部屋に入ってきた.
「アリエス,お帰り,国家反逆罪なんだから,誤差でしょ.」
「そういう問題ですかね.」
「良いのよ.そんなことは.それで,何か見つかったの?」
「特に何も,ああ,いや地下室とかは行ってないですけど.鍵が掛かってたので.他は,普通に部屋があるだけでしたよ.」
「地下室も,行きなさいよ.ドアは,蹴とばせば良かったんじゃない?アリエス」
「いや,明らかに魔法が掛かってめんどくさそうだったので」
ツインテールを振りながら,威嚇するエリをアリエスは,宥めながら言葉を返した.その間も,魔族の少女は話を聞きながら,メイド服に抗っていた.
「アリエスなら呪いとかの類のわなだったら大丈夫でしょ.」
「いや,それ以外だったら.僕以外の人が.」
「私は,ああ,まあこの子は,大丈夫じゃないわね.」
エリは,契約魔法を受けている魔族の少女を見て,納得したように溜息をついた.
「それで,何か喋ったりしましたか?名前とか.」
「喋ってないわよ.契約魔法をしたから,私たちに攻撃は出来ないわ.後は,家事を命令したりは出来るわ.まあ本人は,何もしないし何も喋らないらしいわね.」
エリは,趣味で行った点はいったん伏せてアリエスに報告した.
「ええ,まあ,そうですよね.普通に.まあ,とりあえず,しばらく置いておいて考えましょう.それぐらいの自己満足の償いはしても良いですよね,エリ.」
アリエスは,少し俯きながら,そう少し不安そうにエリに尋ねた.
「………まあ,良いわよ.しばらくよ.それと,追い出す前に魔法でこの子の記憶は読み取るわよ.」
(何で,それをしない.この二人は何が目的だ.分からない……)
困惑する魔族の少女と
「……まあ.」
何か言いたげだが,エリの主張も間違ってはいないので何も言い返せないアリエスと
「仕方ないでしょ.周りの国とか魔族の知識は必要よ.良いわね.」
アリエスからの反論がない事に少し落ち込んでいるエリがいた.
「はい……まあ,そうならないように,頑張って話を聞けば良いですしね.」
アリエスのその言葉に,エリは,ニヤッと笑って,ツインテールを指で巻いた.
「それじゃあ,ご飯にしましょう.あの子が,作ってくれないってことだから,次は,アリエスよ.」
「僕ですか.どっちが作っても同じですけどね.調味料がないですし,合っても味付けとか出来ないですけど.適当に魔物を切って焼くだけなので.ああ,果物を取ってきました.」
「果物,良くやったわ,アリエス,久しぶりに甘味ね.」
二人に料理の概念はほとんど無かった.勇者パーティー時代も一回も調理をしたことが無かった.
「嬉しいですよね,魔物の肉は,お腹には溜まりますけど,味は不味いですからね.その点,果物は安心ですよね.」
(……この人たちは,料理が出来ないのに,こんな所に二人でいるのか?頭が悪いんじゃないか?それに,平民の出の人間が,どうして私以下の調理スキルなんだ)
魔族の少女は引いていた.
「そうね,じゃあ,火は私が魔法で起こすわ.外で適当に焼けば良いわよね.」
「そうですね.3人分ですからね,時間掛かりますね.」
(3人,私の分も?……)
「待ってください.勇者と魔……魔法使い,それは,私も食べるのですか?」
「食べないつもり何ですか?それは,困るんですけどね.」
アリエスは,そう言って笑っていた.
(……ふう,なるほど,家事はこういう意味か.でも,私が家事をするのは,何か負けた気がする.それにあの子が来れば何とかしてくれる.それまでは)
「……料理はします,私が.家事はしないけど.料理だけはしても良いです.させてください.」
魔族の少女は,そう言って頭を下げた.
(不味いものを善意で渡されるほうが,拷問より,もっと拷問だ.)
「「……本当」」
アリエスとエリは声を揃えた.
「毒を入れられるとか疑わないんですか?こんな事言うのもあれですけど.」
魔族の少女は,本気で二人がアホなのではないかと心配になった.心配する筋合いなどは無いが心配になった.
「私は,魔法で分かるから問題ないわよ.」
「そもそも毒とか効かないので大丈夫ですよ.」
アリエスとエリは呑気に笑っていた.
「……言っておますけど.料理以外は何もしないし,何も喋らないですよ.」
「それでも,良いわよ.最大の問題は解決したわ.」
「じゃあ,料理を待っている間に魔法の本でも読みましょう.エリ」
「良いわね.」
そう言うと二人はご機嫌に,魔法の本を読み始めた.
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あとがき
久しぶりの更新です,なるべく更新出来るように頑張ります.
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