第7話 スローライフのための活動2

基地の構造は,城のようになっており,その廊下をエリとアリエスは歩いていた.本来は地図を描くべきなのだが,広さと複雑さでひとまず諦めて,ただの散歩になっていた.アリエスとエリがひとまず拠点(物を他の部屋に押し込んでスペースを確保した)部屋から,それなりの距離をダラダラ歩いていた.

「広くないですか?エリさん.」


「広いわね.こんなに広かったのね.この基地.」

アリエスは,キョロキョロと周りを見ながら,エリは,そんなアリエスを眺めながら髪の毛を触っていた.


「……ああ,そう言えば,最初にいた部屋の場所分かってますか?エリさん.」


「うん?アリエスが分かってるでしょ.」

その瞬間,二人は足を止めて顔を見合わせた.そらから数秒間無言で見つめあっていた.状況によってはロマンスが開始するかも知れないが,今回は違った.


「……えっと.エリさんが最初引っ張ってズンズン進むから.」


「待って,本当に言ってるの?それは,アリエスがある程度分かってると思ったから.前来たときは,迷わずに,四天王のサウスのいた部屋に行ってたじゃん.」

二人は,以前勇者パーティー時代に,この基地にいた四天王のサウスの所に戦いに来ていた.アリエスは迷う事なくサウスの部屋に辿り着いていた.


「……それは,強い魔力反応があるところに行くだけだから.道とか考えてなかったし,特に……」


「……確かに.じゃあさ,もしかしてさ,アリエス.」

エリは,ゆっくりと笑いながらアリエスの顔を見た.


「ははは」


「今迷子ってことかな?アリエス.」


「ははは」

アリエスとエリの二人は迷子になっていた.

勇者と魔法使いから迷子にジョブチェンジしていた.


エリは,ゆっくりとアリエスの前に立ち,

「はぁ,私が思ってるスローライフと随分違うのだけど.どうしてくれるの?」

ご機嫌に笑っていた.


「ええ,どうしようも出来ないんですけど.」


エリは手を叩き杖を出して

「……仕方ないわ.マッピング魔法を使いましょう.」

そう言ってツインテールを振った.


「……えっ何ですかそれ?」


「……マッピング魔法よ,ダンジョンに行くかもしれないと思って昔覚えたのよ.」


「……うん?じゃあ,なんで最初からそれを」


「……うるさい.(それだったらすぐ終わるじゃない)」

エリは,そう言って杖を地面に叩きつけた.杖を叩きつけると音が反響して杖の上に地図のようなものが浮かんだ.


「ええ,理不尽.」

(何でか分からないけど.まあ,良いや,これがゆっくりスローライフするってことかも知れないしな.ダンジョンか.)

アリエスは呑気に笑っていた.


「まあ,これでで適当に歩き回れば行けるわよ.行くわよ,アリエス」

エリは,アリエスに杖を渡して歩き始めた.


「行きましょうか.それにしても,ダンジョンか.」


「そう,ダンジョンにもそのうち行きましょう.いやダンジョンにもそのうち行くわよ.アリエスは嫌いかもだけど,そんなこと知らないわよ.私が行きたいから一緒に行きましょう.」

エリは,そう言いながらスキップをしながら少し先まで進み,アリエスを手招きした.


(ダンジョンが嫌い?何で?)

「いや,別に嫌いじゃないですけど.」


「だって,勇者パーティー時代に一度も行ってないじゃない.」


「ああ,確かに行きませんでしたね.」


「でしょ,嫌いじゃないなら何なのよ.」


「いや,だってさっさと魔王を倒す観点から考えれば時間のロスだから.」


「まあ,そうだけどさ,私はてっきり行くと思ってて,旅に出る前にわざわざ,魔法を調べて習得したのよ.」


「それは,知りませんでしたけど.でも,ダンジョンってそんな,エリさんが行きたい用な場所ですけ?」

(エリさんとダンジョンの関係性が分からない.)


「行きたい場所よ.古代の魔法の道具があったり,古代の神話や文献があるのよ.楽しいのよ.分かる?」


「ああ,なるほど.じゃあ,今度行きましょう.まあとりあえず,どうにか最低限度を整えてからだから,遠い未来の話ですけど.」

アリエスは,少し遠くを見て乾いた笑いを浮かべた.


「……現実に戻さないでくれる?別の話をしましょう.何かある?アリエス」


「えっ,僕が決めるんですか.」


「そうよ,何かあるかしら?」


数秒考えて,右の方向を見て,アリエスは,顔を上げて,小さくため息をついた.

それから,少し真面目な表情になった.

「えっと,魔族って何なんですかね?」


エリは,数秒黙って,先ほど変わり真面目な表情になっていた答えた.

「…………なるほど.まあ,良いわよ.魔族って何ってどういうことかしら?」


「いや,僕は,ずっと魔族は人類の敵で,人類とは相容れないって聞いてたんですけど.普通に人と変わらない気もしますしね.」

アリエスは,そう教えられた.勇者として育てられて,魔族を殺すことを教育された.もちろん,その間,勇者的な思想を刷り込まれたが,それでも,彼の価値観は少し前までは,国を追い出される前までは,魔族=悪であった.


「……そう,どうなのかしらね.分からないわ,少なくとも身体の構造は違うらしいわね.」


「どう違うんですか?」


「私も詳しいことは知らないわよ.私の身分は元々平民よ.貴族の屋敷にはそう言う資料はあるかもだけど,知らないわね.」


「そうですか,僕は何も考えずに魔族を殺してたなと.」


「まあ,少なくとも戦争をしてたのは事実よ.だから必要以上に気にしなくて良いわよ.アリエス.多分,お互い様よ.私たちは攻め込む側だったけど,他の場所では魔族に攻め込まれたのよ.難しいのよ.だから,考えるのは少し後回しで良いと思うわ.」

そう言うとエリはアリエスから杖を受け取り,手を叩いてしまった.


「そうか.うん……とりあえず,今は,後回しでいいか.」

アリエスは,そう言うと,自分の頬を両手で叩き,気合を入れ直した.


「そうよ,それと,お姫様抱っこでお願いするわ.それが一番早い移動手段よね.」


(どうだろう,エリさんが魔法で浮いて,いや,そんな死ぬほど,急ぐ必要があるのかな……まあ,エリさんが言うなら考えがあるのだろうし.それに素直に聞いてみるのも大事だ.そのお陰で仲良く喋れてる.)

そんなことをアリエスは一瞬で考えて.

「分かりました.」

そう言うと,エリを抱えて,走り始めた.

今回は明確な目的地があった.迷子な二人が絶対にたどり着ける目的地が現れた.


この建物の近くに強力な魔族の魔力反応が現れていたのだ.

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