【15話】不愉快なスカウト
モンスターフォレストの緊急依頼から数日後。
依頼を終えたマリアは、依頼完了報告のためにエリックと一緒にギルドを訪れていた。
今は、彼が完了報告を終えるのをテーブルで待っている。
キングオーガを討伐した功績により、マリアの冒険者ランクはEからCまで一気に昇格した。
本来であればBランクまで一気に昇格できるほどの功績なのだが、こなしてきた依頼数がまだまだ少ないらしい。
Bランク冒険者になるには、もっと多くの依頼をこなす必要がある。
とはいえ、Cランク冒険者になったことで受けられる依頼の幅がグッと増えた。
なんとも喜ばしいことだ。
しかし、良いことばかりではない。
「おい見ろよ。あれがキングオーガを一人で倒したっていう、例の冒険者だぜ」
「めちゃくちゃ可愛い顔してるのに、おっかねぇ姉ちゃんだな。人は見かけによらないぜ」
キングオーガを倒したことで、マリアの知名度は劇的に上昇したのだ。
(あー、なんてうざったいのかしら)
冒険者たちのひそひそ声は非常に煩わしかった。不愉快の極みだ。
苛立ちが抑えられず、表情に思い切り表れる。
「おやおや、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないか。なぁ、キングオーガを倒したマリアさん」
面識のない黒髪の男性が話しかけてきた。
とても整った容姿をしている。歳の頃は二十歳くらいだろうか。
彼はニッコリ笑ってから、マリアの対面の席に腰を下ろした。
ブラウンの瞳をじっくりとマリアに向ける。
(この人、嫌いだわ)
黒髪の男性の第一印象は、マリアにとって最悪だった。
元婚約者兼無能な第一王子であるヴィルテに、どことなく雰囲気が似ているからだ。
「あの、私に何か用ですか?」
不機嫌丸出しの低い声を出した。
男性は気にもしない様子で、「あぁ」と頷く。
「噂によると、君は自動で傷を癒す魔法を使えるそうだな。その素晴らしい才能を見込んで、王国魔術師団にスカウトしに来たんだ」
「はい? いきなり何を言うんですかあなたは?」
「おっと、俺の説明がまだったな。俺はラウド・ビファレスト。王国魔術師団の副団長をしている」
続けて、よろしくな、と手を差し出してきた。
こちらの話を聞く気などさらさらない、なんて一方的な勧誘方法なのだろう。
ラウドのことがますます嫌いになった。
「魔術師団の規則で、兼業はできないことになっている。悪いが、冒険者は辞めてもらう」
「あの、勝手に話を進めないでいただけますか? 私、冒険者を辞めるつもりはありませんから」
前世を思い出した時、自分のやりたいことをやって好き勝手生きていこうとマリアは決めた。
だからこそ、今の冒険者という道を選んだ。
国に仕える職業なんてもうこりごりだ。
絶対に引き受けたくない。
「それとお生憎ですが、魔術師団に入るつもりは絶対にありません。お引き取り下さい」
「釣れないな。冒険者のような不安定な身分でいるよりも、魔術師団に入った方が――ってあれ、エリックじゃないか」
「……ラウド兄さん」
完了報告を終え、マリアが座っているテーブルへやって来たエリック。
ラウドを見るなり、顔を強張らせていた。
兄弟仲は、あまり良くないみたいだ。
「久しぶりだな。元気にやっているか?」
いたって普通のやり取りなのだが、ラウドの言葉にはまったく心がこもっていないように感じる。
エリックを心配しているとは、到底思えなかった。
「それにしても、家を出て行った時とまったく変わっていないな」
ニヤリと口角を上げたラウドは、フッと小さく笑う。
含まれているのは、たっぷりの
「落ちこぼれは、どこまでいっても落ちこぼれのままなんだよ。どんなに努力しても報われることはない」
「そんなことはありません。報われる努力もあります」
「それは、お前がそう思いたいだけだ。世界というものはお前が思っているより、ずっと残酷に出来ている。人間は変わることなんてできない。だからお前は、俺の搾りかすのままだ。それは一生変わらない」
「そ、そんなことは――」
「エリック君に謝って下さい」
我慢の限界だった。
ラウドの言葉は、変わろうと一生懸命もがく人間を馬鹿にしている。
それは、エリックに対してだけではない。
過酷な運命に必死に抗っていた奏のことも冒涜している。
絶対に許してはいけない。
「どうして無関係の君が口を挟む?」
「エリック君は私のパーティーメンバーです。彼への侮辱は、私を侮蔑したのと同じことです。絶対に許せません」
「ほぉ、パーティーを組んでいたのか。それは失礼した。だが俺は、間違ったことを言ったつもりはない。故に、今の発言を取り消す気もない。それならどうする、力づくで取り消させるか?」
エリックがほくそ笑む。
見え見えの挑発だ。
「それをお望みでしたら。いいでしょう、しましょうか決闘」
あからさまな挑発と知りながらも、マリアは乗ることにした。
色々考えるよりも、この方が単純で分かりやすい。
「
「心配してくれてありがとうね。でも、私は退く訳にはいかないわ。それだけの理由があるの」
「魔術師団副団長である俺に、まったく臆することなく立ち向かってくるとは……気に入った」
歪に上がったラウドの口元から、クククと楽し気な声が漏れる。
「俺が勝てば、魔術師団に入団してもらおう。さらに、俺の婚約者になってもらう! 美しくて気の強い女は大好きだ!」
「私が勝ったら、全身全霊を込めてエリック君に謝罪してください。それと、金輪際私たちの前に姿を見せないと約束してもらいます」
「良いだろう。俺が敗けることは、万が一にもありえないがな」
勝ち誇ったようにラウドの笑みには、絶対的な自信が浮かんでいた。
かつて同じような笑い方をしたDランク冒険者がいたが、それとはまったく違う。
確かな実力に裏付けられた自信が、ひしひしと伝わってきた。
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