風の配達人~鼠のセイルと妖精アマリリス~
きんくま
ep1.スラムの元孤児 セイル
「セイル~、なぁんでまた遠回りするのさ~」
風に乗って空を飛ぶボクの隣の妖精は不服そうだ。
「いや、ヤバそうな獣の群れがいるじゃん……」
「あ~あ、せっかく大冒険なのに相棒がよわよわでイヤんなっちゃう」
危険を回避しているだけなのにボロクソに言われる。
いつものボクたちの会話だ。
どうしてこうなったか。
そうして思い出す。
ボクがクソ生意気な妖精と旅をするようになった、きっかけの物語を。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1325年 / 春の月 / 黄昏の日 am 10:00
――スラム街 孤児院
「セイル兄ちゃーん!!」
石畳の中庭で遊ぶチビたちがボクを呼んでいる。
セイル、ボクの名前だ、この名前は親に貰ったものではない。
他種族国家アルコヴァン。
犬の特徴を持つ種族、猫の特徴を持つ種族、他にもたくさんの種族が争うことなく暮らす、周辺でも珍しい国……と聞いている。
でも、そんな理想郷みたいな国でも影の部分は存在する。
そしてもボクも
触れるモノを腐らせる魔法を使う、
ボクは運が良かった。
物心ついたときには両親はいなかったが、同じ境遇のスラムの子供たちに拾われて死なずに済んだ。
そして何より、ここ最近、スラムに革命とも呼べる変化があった。
この孤児院もその一つ。
路上で暮らしていたボクたちは家を得たんだ。
「セイル兄ちゃんってば!! 院長先生が呼んでるよ!!」
「わかった、すぐ行くよ」
過去を思い返し、ぼうっと空を見上げていたボクはチビの言葉で立ち上がり、孤児院の中へと戻った。
――院長室
「セイル、来てくれてありがとう」
穏やかな笑顔で迎えてくれたのは、この孤児院の院長エリーゼ先生。
スラム出身ではなく、街の教会から来てくれた金髪蒼眼のキレイな女性だ。
彼女はこの街でも珍しい種族の
「先生、どうしたんスか? 配達の仕事っスか?」
ボクは少しでも孤児院の為にと、ある商会の配達の仕事をさせてもらっている。
「ええ、貴方を呼んだのは街の外へ書状の配達の依頼があったからです」
「街の外……!!」
「セイル、貴方がこの街から出たことがないのは知っています。
それに最近にあった
「いや、絶対受けるっスよ!!」
先生の言葉を遮って返事をしてしまったが、仕方がない。
スラムで生きてきたボクは、外の世界を見てみたいとずっと思っていた。
そんなチャンスが舞い込んだのなら逃すなんてあり得ない。
「はぁ……わたくしとしては、貴方が心配なのでお断りしたかったのですが……」
「大丈夫っスよ! それに遠くの配達なら、依頼料も高いんじゃないっスか!?」
「それはそうですが……」
「チビたちの為にも寄付だけに頼りっきりはダメっス! ボクは受けるっスよ!」
少しズルいかもしれないが、チビたちを引き合いに出させてもらった。
こう言えば、優しいエリーゼ先生は嫌とは言えない。
「……わかりました。ではお受けすることにしましょう。
良いですかセイル、しっかりと準備し、くれぐれも無茶をしてはいけませんよ?」
「もちろんっス! じゃあボク準備しに行ってきます!!」
「あっ! セイル、ちょっと待ちなさ……―」
エリーゼ先生の制止を聞かずに院長室を飛び出し、自室の私物入れをひっくり返す。
肩掛けカバンに自作のメモ帳に先生に貰った鉛筆、元々孤児であるボクは多くを持っていないが、それでもここに暮らして手に入れたお気に入りの物ばかりだ。
「楽しみだなぁ、いつ出発なんだろう?」
意味もなくお気に入りを詰めたカバンを持って中庭に出る。
商人やベテランの配達人にはありふれた事かもしれないけれど、ボクにとっては街の外へ行くことがどれだけの大冒険か。
石段に座って、未だ見ぬ風景を想像して、興奮するボクの肩を誰かがポンと叩く。
振り向いたボクは驚いた、きっとおかしな顔もしていただろう。
だって自分でも目が限界まで見開かれていたのが分かるくらいだったのだから。
「セイルー、久しぶりだねぇ」
「姐さん!?」
一番に報告したかった人が向こうからやって来てくれた。
嬉しくて綻ぶボクの顔を一陣の風が撫でていった。
【セイル イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093077400000157
【エリーゼ先生 イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093078902016824
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