第10話 Sideフローリア
「再会のご挨拶が叶ったようでなによりでございます。フローリアお嬢様」
「ええ、あっという間のお時間でした。本当にあっという間のお時間でしたわ」
レオンとの挨拶を終え、別れてすぐのこと。
遠くから様子を窺っていたフローリアの侍女と合流を果たしていた。
「それはそうと、あなたには我慢をさせてしまいましたわね……。本当に申し訳ない限りですの……」
「お気になさらず。レオン様がお元気そうにされている姿を見られただけで、私は満足ですから」
「配慮あるお言葉、心より感謝いたしますわ」
「とんでもございません」
レオンとは同僚だった侍女であり、フローリアと同じ期間、会えていなかった侍女でもある。
本来なら二人一緒になって再会の挨拶を交わすべきところだが……前日、実に珍しいワガママを伝えたフローリアなのだ。
『明日だけは、一人でご挨拶に向かいたく……』と、弱々しさのある上目遣いで。
——久しぶりに会うからこそ、一対一で話したい。
その気持ちがいっぱいに溢れてしまい、子どもっぽさが前面に出てしまっていたのだ。
そのくらいにレオンとの時間を過ごしたかったのだ。
「ところで、よろしかったのですか? お早いお別れでしたので、レオン様とはまだまだお話足りなかったのでは」
「……ええ、本日は十分ですの。『話が長い』と思われることだけは避けたいことでしたので」
欲望の気持ちを漏らすのならば、十分なわけがない。
レオンの挨拶回りの時間を全て独り占めしたかった。
その目に『フローリア』だけを映してほしかった。
自分のためだけに時間を使ってほしかった。
しかし、専属の使いを卒業した今となっては現実的なことではない。心のうちで留めておくべきところ。
「レオン様に限って、フローリアお嬢様のことをお嫌いになるようなことはないのでは」
「そればかりはわかりませんよ? なんせたくさん甘えてご迷惑をかけてきましたので」
「可愛らしいとお思いになっていたはずですよ。レオン様からフローリアお嬢様への悪い言葉は一度も聞いておりませんでしたから」
「ふふ。ではそう願うばかりですわ」
『心の底から』と、胸中で呟くフローリアはご機嫌に口を開く。
「さて、それでは迎えの馬車へと向かいましょうか」
「承知しました」
入学式への参列が終わった2年生、3年生にはもうこれといった用事はない。
あとは帰路に着くだけ。
時折、他貴族と挨拶を交わしながら、フローリアと侍女の二人は繋ぎ場へと足を進めていく。
——この矢先。
「……彼、以前と変わらずカッコよかったですわ」
「同意いたしますよ」
頬を赤らめながら熱っぽい吐息をこぼすフローリアに頷く侍女は、懐かしむように、それでいて尊敬の念を含みながら言葉を続ける。
「優秀さも相まってご令嬢からの人気や信頼も凄まじい方ですからね。夜会の中で『好みの女性を聞いてきてくださいませんか』というご要望や、『二人きりになれるように』というお願いを何度耳にしてきたことでしょうか」
貴族間で噂をされ、王家へと出世ができているだけに、レオン・アルベールの働きぶりは常に満点と言えるものだったのだ。
夜会で一人になっている参加者を見つければ、すぐに会話の相手となる。
次にその人物と相性がよいと判断した参加者を紹介し、双方にとって実のある時間を発生させる。
体調が悪そうな参加者を誰よりも早く発見し、様子を伺って。
緊張をしている参加者を見つければ間に入って安心をさせ、自信のない参加者を見つければ、率先して褒めて。
『彼に助けられた』という貴族は数知れず、レオン・アルベーユという使用人がいるだけで、夜会への参加者が増えていたほどである。
「……ねえあなた。念のために確認をするのですが、『二人きりになれるように』という後者のお願いはしっかりとお断りしておりますわよね?」
柔らかい声色で、ニッコリと微笑みながら細い首を傾けるフローリア。
上品であり、どんな答えを出しても許してくれるような優しい雰囲気を纏ってはいるが——。
「無論です。私の領分からは異なることですから」
「うふふ、ならよいですの」
——目の奥はなにも笑ってなどいない。
事実を答えたのは当たり前として、しっかりと正解を引き当てる侍女だった。
そうして、繋ぎ場にたどり着き、迎えの馬車に乗り込んですぐのこと。
ポケットの中に手を伸ばし、昨日、レオンから届いた手紙を出したフローリアは登校時と全く同じようにご機嫌に読み直していくのだ。
『フローリア・ミステア様へ』から始まるレオンからの手紙に、なぜか筆圧が違うハートのマークが描かれたその文章を。
*
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