お世話した王女様、ずっとくっついてくる
夏乃実
第1話 今はまだ
社会的な身分や血統、財産などにより特権をもつ少数者が支配する政治体制、貴族社会。またの名を、階級社会の世界で——。
伯爵家の“末っ子”として生まれたことで、跡継ぎになる資格を得られなかった男は、幼少期から一般教養に行儀作法、家事に護身術など強制的に学ばされていた。
将来は格上の貴族に仕えることができるように。
必要とされる人間として求められるように。
なにより家名に傷をつけない人間になるように、その場に応じた気遣いや気配りまで徹底した指導を十数年、1日も欠かさずに行われていた。
そんな男——レオン・アルベーユは17歳を迎えた年に、独り立ちをすることになる。
同じ爵位を持った
そして、幼少期から長年に渡って行われていた指導は、レオンに大きな力をもたらしていた。
『どうしてそんなにも気が回るのですか』
という疑問をご令嬢から投げられるほどに、完璧に仕事をこなしていたことで。
また、12歳というのは思春期の難しい時期。
『わたしのことは気にしないでください。あなたはどこかに行ってください』
父親に怒られてしまったご令嬢から突き放す言葉をかけられた際には、甘いお菓子と紅茶をすぐに準備し、何時間も静かに寄り添う選択を取ることもできていた。
時に衝突することもあったが、毎日を一緒に過ごすことで信頼関係を築き上げることができ、小さなことでも頼ってくれるようになった。子どもらしく甘えるようにもなってくれた。
——この2年間はあっと言う間。
今までの仕事ぶりを大きく評価してくれた伯爵家当主は、レオンの親方の意向を受け止め、泣き腫らす次女を説得しながら公爵家への推薦をしてくれた。
『最後に、あなたから娘になにかプレゼントを贈ってあげてくれないだろうか』という当主のお願いを快く叶え、贈り物を渡し、受け取ってもくれた。円満の別れができたのだ。
それから、推薦の通りに進んだ。
次に公爵家の三女、当時は15歳となるご令嬢の世話役として2年間の契約を結んだ。
公爵という格上の貴族の下に仕えることになったが、ここでもレオンは同じような言葉をかけられていた。
『どうしてアナタは人から言われる前に行動することができますの? 少し気味が悪いですわ』
怪訝な顔を浮かべ、世話役としては最上級の褒められ方を何回もされたのだ。
また、いつの日だろうか。
『と、特に深い意味はないのですけれど……アナタにはあたしの髪のお手入れも任せたいと思っていますの』
ご令嬢にとっても、女性にとっても、大切な御髪に触れることも許されるようになった。
——そんな2年間もあっという間。
幸いなことに、この度も仕事ぶりを大きく評価してくれた公爵家当主は、レオンの親方の意向を受け止め、部屋に引きこもってしまった三女を説得しながら、これ以上の出世はないと言える身分を持つ人物に推薦をしてくれた。
『最後、我が娘になにかプレゼントをやってあげてはくれぬか』という当主のお願いを快く叶え、贈り物を渡し、受け取ってもくれた。前回同様に円満の別れができたのだ。
そして、今現在。
出産前休業に入る女性との入れ替わりで今年で16歳となる第三王女の世話役に充てがわれた21歳のレオンは——。
「……この紅茶、美味しくない」
「それは大変申し訳ございません。すぐに別の紅茶を淹れ直してまいりますね」
「別に……そこまではいいわよ」
「それは安心いたしました。おかわりもご用意しておりますので、是非」
「っ……! ふんっ」
同性から異性に世話役が変わってしまったことが不満だという王女様と。
また、異性に慣れていないらしい今年が新学期となる王女様と一からの信頼関係を築いている最中だった。
伯爵家から公爵家、王家と若いうちに大きな出世を手にしたレオン。
そんなレオンだからと言えるだろうか、幼少期から厳しい教育化に置かれていただけに、一つだけ欠けていることがあった。
『主人を支えることが自分の役目であり、その役目は全て主人に作っていただいている』
この固い教えを受けてきたことで、主人から特別な感情を向けられる。という概念を今はまだ持ち合わせていないことに。
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