4-3 聖女の怒り
本日休む町に着き、無事に町長の屋敷でも問題を起こさずに部屋をもらった後、リヤンが合流した。青年にはきちんと話して理解してもらい、いい加減な噂は流さないようにと釘も刺したらしい。
「他の者にも説明するように伝えたので、今後同じことは起こらないでしょう」
リヤンのその言葉に、シュヴァルドは幾分か胸を撫で下ろした。
その後、改めて今後について話し合い、行程を変更する必要なしと確かめてから、シュヴァルドとモナ、リヤンは明日の予定について話すためにマリアの部屋に向かった。
フィリッテにドアを開けてもらって部屋の中に入ると、マリアは椅子に座って待っていた。いつもにこりともしない顔が、今も変わらずにある。いや、もう少し不機嫌かもしれない。
人を刺すような鋭い視線が順に三人を見た。
ごくりと唾を飲み込む。マリアのこの視線は苦手だ。だが逃げたいとは思わない。鋭い視線を受け止めて、明日の行路について説明する。
黙って聞いていたマリアは、シュヴァルドが「以上です」と話し終えると口を開く。
「その道は安全なの? また今日みたいなことは起こらないと言える?」
不安ではなく、苛立ちを滲ませた声だった。シュヴァルドは深く頭を下げて答える。
「道は安全です。仮に不審な輩が現れてもすぐに我々が対処します。ご安心ください」
「石を投げられるのは私なのだけれど」
頭を上げると、マリアと目が合った。
「あれはどういうことかしら? 薄汚い聖女ってなんのこと? メイドをぶって何が悪いの? 仕事でミスをしたら叱られるのなんて当たり前でしょう」
そもそも、とマリアの視線はリヤンに向く。
「私は言ったわよね。通り過ぎる町では不満が出るんじゃないかって。結果がこの通りよ? あなたたちのミスが私を危険に晒したってことでしょう」
「申し訳ありません。あの青年にはきちんと説明し、他の者にも話が伝わるように指示しましたので……」
「それで万事解決って、そう思ってるの。おめでたい頭ね。人の感情なんてもっと酷いものと知らないのかしら」
わざとらしく大きなため息をついたマリアは、立ち上がって窓際に移動しようとした。シュヴァルドはそれを見て、反射的にモナとリヤンを壁際に引っ張って、マリアの後ろに立つ形にならないようにする。こちらが意図して立ったわけではないが、マリアの考えは読めない。
窓の前に立ったマリアは踵を返し、シュヴァルドたちが場所を移動しているのを見る。叱責は飛ばなかったから、シュヴァルドの行動は正しかった。
だが、彼女の怒りが収まったわけではない。
「私は死ぬほど苦しい思いをしながら儀式をやってあげてるのに、なんであんなことを言われなきゃいけないのかしら? 薄汚いのは自分たちでしょう。頼るばかりで、相手を労うこともしない。自分たちの都合ばかり押し付けて、こっちには慈悲深い聖女像を求める下衆な人間よ! 私の言うとおりにしていれば、こんなことにはならなかったのに! 馬鹿で無能なあなたたちが、馬鹿で他人頼みな国民のことを理解せずに理想だけで進めるからこんなことになったんじゃない!」
ダンッと足を床に踏みつける。私のせいじゃない、あなたたちのせいだと、憎しみを込めて叫んだ。
「私がいなきゃこの国は大変なことになるんでしょう!? なら、もっと私の言うことを聞きなさいよ!」
怒りのままに、物を投げようとしたのだろう。ただの八つ当たりで、マリアがこちらを傷つける意図があったかはわからない。
だが、マリアがペンを握った瞬間に、モナが動いた。
剣を抜き、彼女の喉元に突きつける。
「モナッ……!!」
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