第29話『シーラ幼稚園はじまるよー』
シーラ孤児院を作り、シーラ学園を作り……気が付いたらシーラ幼稚園を作る事になっていたシーラです。
どうも。
いや、しかもこの幼稚園。ロイヤル仕様なんですよ。
そう。高貴なる方々のみが通う事の出来る幼稚園でございます。
いやね? 最初は違ったんだよ?
最初は誰でも通えるようにしましょうね。っていう学園と同じ仕様だったんだけど。
王族とかが無造作に集まり始めたらさ。おいそれと普通の子とかを入れられなくなってしまったわけです。
まぁ、身分問題もあるしね。
私は良いのかって話なんだけど。そこは毎度のスルーで話題にもなりませんでした。
かなちい。
という訳で、ロイヤル仕様幼稚園が出来て、入学する為には何故か多額の寄付金を学園の私宛に入れる事になっていた。
いや、別にお金とか要らないんですけど。
子供なら、私が養育してますんで。
と言ったが、これもスルー。
もう良いよ。
それと、よくよく考えたら平民とかの子は孤児院があるしね。
青空教室的な事をやってるから、そっちで勝手に来て勝手に学んでくれ。という感じらしい。
という訳で、ロイヤル仕様にも関わらず、大勢集まった幼稚園に私は今から行く訳ですが……正直胃が痛い。
だって高位貴族しか居ない部屋だよ? 前世なんて平民オブ平民だったし。
今世なんてそもそも人間ですらない。
場違い感が凄いのだ。
「失礼しまーす」
故に、私は緊張で固まった体で、やたら豪華な教室へと入った。
ちなみにこの幼稚園は、各国の技術者が集まり作り上げた転移ゲートが併設されており、子供たちは授業の時間になるとその転移ゲートを使って、この部屋に来るという事になっている。
まぁ、流石に私が全員の子育てをするとか無理なので。
「あー。今日も元気に集まってますねぇ」
「「「おはようございます! シーラ様!」」」
「はい。おはようございます」
子供ながらにしっかりとした挨拶が出来るとか、礼儀正しいとか、流石はロイヤルな方々だ。
その辺りの教育はしっかりとされている。
というか、ここが既に簡易な社交場みたいな物だから、そういう教育が出来ていないと、駄目なんだろうなと思う。
……一部を除いて。
「あー。えっと。リズちゃん? そこは先生の椅子なので、向こうの、違う所に座っていただけると嬉しいのですが」
「シーラは、ここ。リズも、ここ」
「えっと……はい。じゃあ仕方ないですね。あはは」
表情の読めない顔で、マイペースにそう呟くリズちゃんに私は苦笑いをしながら、リズちゃんのすぐ隣に座った。
幼女エルフと幼女が一緒に座った程度では、椅子に問題はない。
椅子には……。
「おい! リザベル! シーラ様にご迷惑をかけるとは、貴様! 何様のつもりだ!」
「リズ様」
「貴様ァ!」
「まぁまぁ。落ち着いてください。ラウル君」
私は何とか噛みつき合う二人をなだめながら、場を収める。
そして、一応リズちゃんに浮遊魔法を使って、ちゃんとした生徒の椅子に座ってもらうのだった。
非常に不満そうであったが。
ちなみに、この教室でいがみ合う二人は、おそらくこの中で最も才能がある二人であり、ゲームでは将来学園の教師となる存在である。
感慨深い。
まだまだ若いが、既に才能は輝いており、同年代はおろか、大人に混じってもおかしくないくらいの力を持っている恐ろしい子供たちだ。
まぁ、言うて、まだまだ可愛い姿なのだけれど。
「という訳で、実際に試してみましょうね。魔法は理論も大事ですが、実践も大事なので」
私はてくてくと教室の中を歩きながら、話をする。
子供たちが頑張って何もない所から水を生み出し、コップに入れようとしているのを見ながら。
「分からない事があれば、何でも聞いてくださいね」
前世での授業を思い出しながら、それと同じように私は先生の真似事をするのだった。
「はい! シーラ様」
「どうしました? ラウル君」
「見てください! 水を生み出す魔法が使えました」
「おー。素晴らしいですね。流石はラウル君です」
私は褒めて欲しいと顔に書いてあるラウル君の頭を撫でて、笑う。
そして、ラウル君は私に褒められた事で、心の底から嬉しそうに笑い、すぐ横に座っているリズちゃんを見て、ドヤる。
「なんだ? まだ出来ていないのか。リザベル。シーラ様にご迷惑をおかけしている割には、大した事無いんだな! ワッハッハ!」
「む」
「あ、リズちゃん。コントロールを」
「むー!! あっ」
リズちゃんがコップを見ながら魔法を使った瞬間、コップから水が一気に溢れ出し、机から床へと零れ……落ちて大惨事になる前に私が水を圧縮して、コップの中に適量落とす。
「……ふふん。出来た」
「シーラ様に助けてもらっておいて! 図々しいぞ!」
「ラウルはうるさい。お前なんて、ちょっとコントロールが上手いだけ。力は全然ない」
「力があれば良いってモンじゃないんだぞ! いつもいつもシーラ様にご迷惑をおかけして!」
「それでも、リズが困ってたら、助けてくれるから、良い」
「どこが良いんだどこが!」
言い争いを始める二人を何とか宥めつつ、他の子たちも手伝いながら、何とか全員今日の授業が出来た事を確認し、今日の所は終わりとなる。
そして、いつもの通り、二人が教室に残るのだった。
「なんだ? まだ帰らないのか? リザベル」
「……別に、ラウルには関係ない」
「関係ないという事はない。お前が帰らなければ、シーラ様がいつまでも授業を終わる事が出来ないからな」
「……シーラ。リズ、まだ帰りたくない。ここに居ても、良い?」
「私は構いませんよ」
「シーラ様! その様な事を許可してしまえば、不平等だと、また文句を言う奴が出る」
「なら! なら、リズ、シーラの子供になる!」
「リザベル……! お前」
「だって、別にリズ、あの家の子供じゃないもん。なりたかった訳じゃないもん……」
リズちゃんが泣きながら訴える言葉に、私はリズちゃんの両親という事になっている人たちの事を思い出していた。
どんな手段を使ってでも、私に近づこうとしていた人たち。
色々な意味で、私は今世界中に注目されているから、私を何かしらで利用したいのだろう。
歴史は変わっているけれど、リズちゃんやラウル君の境遇はゲームの時と何も変わらない。
「くだらない」
「……え?」
「リザベル! じゃあお前はそいつらに負けたってことだな!」
「なに、言ってるの?」
「俺の親は金が欲しくて俺をお貴族様に売った! お貴族様は表じゃあ俺を子供って事にしてるが、家じゃ、その辺に落ちてる石ころみたいな感じだ。でも、俺は負けない。踏みつけられて、蹴られて、殴られて、しがみついて、ようやく光に会えたんだ。ここから、始める。力を付けて、あいつらから逃げ出して、俺の世界を生きるんだ」
「……ラウル」
「俺はリザベルの事を知った時、俺と同じだと思った。同じように戦ってるんだって! でも、違ったんだな。お前は、そうやって逃げるんだな!」
「リズは……」
「俺は、逃げないぞ! どんな状況にだって!! だから、お前も負けるな!」
あぁ。これはゲームの通り。
リザベル先生が腐れ縁であるラウル先生との思い出で、語られる涙のシーンだ。
なんて素晴らしいシーンなのだろう。ここで、リザベル先生はラウル先生の手を取り、二人は苦難に立ち向かってゆく訳だが。
そんなの許すわけが無いだろ?
原作崩壊? シナリオを守れ?
知るか!!
「ラウル……リズも、戦う」
「リザベル!」
「うん。いつか……シーラと、ラウルと一緒に……」
「残念ですが、お二人の戦いはここで終わりです」
「っ!? シーラ様!?」
「シーラ……どういう事?」
「お二人に、私が最も嫌いな事をお教えしますね」
私は床を右足で強く叩き、三人が余裕で入れる転移門を作り出した。
「それは……子供を傷つける奴です」
そして、この日、ある貴族の屋敷が二つ消滅した。
無論中に居た人間は全員生きている。
が、数日はまともに言葉を話す事も出来なかったという。
まぁ、私には関係のない話だし。
「はい。では二人とも。みんなに挨拶をして下さい」
「あー。えっと。ラウルです! 得意な魔法は、特に無いけど。こうやって魔法で水の糸を作り出して、空中に絵を」
「リズ。得意な魔法は空に炎の花を咲かせる事。はい。どかーん」
「す、すごーい!!」
「リズちゃん! どうやったの!?」
「おい! リザベル!! 俺の話を邪魔するな!」
「ラウルの話は長い。こういうのはサッと終わるのが大事」
幸せそうに笑う子供たちにも、関係が無い話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます