第25話『対決! ロリコン魔王』
正直な所、私は誰かが傷つくのが好きじゃない。
前世でも格闘技とかを見るのは苦手だったし、路上で暴れている人も苦手だった。
だから、私の相方をめぐって戦うというのは見たくも無かったし、やらないで欲しかった。
でも、結局止める事は出来なかったから、せめて降参したら終わりというルールを作って、いつでも止められる様にしたのだ。
したのだけれど。
「……私が馬鹿でした。本当に愚かだ」
「ほぅ。今のを止めたか」
試合だからと言われ、介入しない様にしていたが、もう限界だ。
自分の大切な家族を傷つけられて、見ているだけなんて、出来るわけがない!
「試合はこれで終わりです。これ以上続けるというのなら、私が相手になります」
「ほう。それは願ってもない事だがね。良いのかな? 確かルールでは君と共に居る権利を得るための戦いなのだろう? であるならば、商品である君が介入するというのは」
「関係ないです。私の事は私が決めます。他人にどうこう言われたくないです」
「ほぅ……くく。クハハハハ! そうだな! まさにその通りだ。確かに我らを人間ごときが縛ろうなどとしている事が傲慢であったな!」
「我ら……?」
「あぁ、自己紹介がまだであったな。私は純雪の魔王。無垢なる物を愛する魔王さ」
「そうですか。それでここに来た目的は?」
「君に愛を告げに来たのさ」
「お断りします」
「何を言っているんだ。君に断る権利なんてある訳が無いだろう? 子供は大人のいう事を聞かなくてはな」
「私は……!」
子供じゃないと言おうとした瞬間、魔王は私の前から姿を消し、魔力の痕跡がすぐ背後に移動している事に気づいた。
急いで、地面に倒れているエミリーを庇う為に飛び込んで、左肩に激痛を受ける。
「この世界で、最も価値のある物はなんだと思う!? シーラ」
「っ」
激しい痛みを感じている右肩を上から踏みつけて、男は叫ぶ。
「そう、それは純粋さ。無垢なる魂だ! どんな生命も時が過ぎれば穢れ、生まれた時の純粋さを失ってしまう。だからこそ、無垢なる命というのは価値があるのだ。いずれ消えていくものだからな! 故に私はこの無垢なる命を穢れる前に集め、保護する事に決めたのだ」
「うるさい、ですよ! このロリコン魔王!!」
私を踏みつけていた魔王に魔法を放ち、どかそうとするが、器用にもそれらは全て受け流されてしまう。
魔力弾を撃とうにも、防壁が強すぎて届かないし、スカウターは持ってきていない。
つくづく自分の無能さにビックリする。
「ロリコン? 知らぬ言葉だな。しかし、言い方からして罵倒の言葉か。いけないなぁ。そんな言葉を使っては、穢れてしまう!」
「生憎と、私は生まれた時から穢れてますよ! 貴方基準だとね!」
そう。私は生まれ変わった命。前世の記憶がある。
しかも見た目はロリだが、しっかりと成人済みだ。エルフの成人が何歳か知らないけど。
でも、私は人の中で生きてきたエルフ。であるならば、人の基準で考えよう!
いくつも魔法を放ち、魔王の魔法を相殺しながら、直撃もさせる。
どうやら魔法対決は私の方が上手らしい。このまま押し込めば……!
「勝てると、考えているな? クハハハ。やはり良い。無垢なる存在は、素直で、真っすぐで、何も穢れを知らないのだ」
「っ!?」
「故に、追い詰められているのが自分だとも気づかない」
「なっ! 何を……!」
「さぁ、分かりやすく言おうか! 動くな! 動けばこの女の命は無い!」
魔王は私の背後で倒れていたエミリーに半ば無理矢理近づくと、その首を捕まえて、笑う。
人質のつもりか……。
私は魔王の言葉に両手を降ろして、魔法を解除した。
「良い子だ。そのまま大人しくしていれば、悪いようにはしないさ。当然だ。私は無垢なる命を保護する為にここへ来たのだからな」
「……シッ」
「なに!?」
私にばかり目を取られていた魔王が背後から完全に気配を絶っていたオリヴァー君に襲撃され、エミリーちゃんを掴んでいた右手を切り落とされる。
私は急いでエミリーちゃんの下へ転移して、その体をギュッと抱きしめた。
「ここにきて、乱入者とは! なんたる無粋! しかも男だと!? いったいどんな権利があって、私に触れたというのだ!? 下等な人間風情が!!」
「その下等な人間に今からお前は消されるんだが、最期の言葉はそれで良いのか?」
「っ! ふざけるな!! 人間!!」
魔王は怒りのままに魔力を集め、魔力弾の要領で、巨大な魔力の塊をオリヴァー君に向かって打ち出した。
しかし、オリヴァー君もそれを読んでいたのか、特に動揺することなく、剣で切り裂こうとして……目を見開いた。
何故なら、魔力の塊はオリヴァー君へ向かっている途中に方向転換して、私の方に向かってきたからだ。
「クハハハ! エルフであれば、この程度の攻撃で死ぬことはない! だが、瀕死の人間はどうかな!?」
「くっ」
私はとにかく急いで魔力を集め、エミリーちゃんを守るべく全力で壁を作ろうとした。
しかし、大きい。受け止めきれない。
そう判断し、私はエミリーちゃんに覆いかぶさりながら、腕の中に魔力を集めたもう一枚の壁を作る。
これならば、例え私が持たなくても、エミリーちゃんは大丈夫。そう考えて、目を強くつぶる。
「シーラ様!!」
だが、いつまで経っても痛みがこない。
不思議に思った私が顔を上げると、そこに居たのは、全身から血を流しながら、魔力弾を体で受け止めているオリヴァー君だった。
「……オリヴァー、君?」
「大丈夫。貴女にも、貴女の大切な人にも、傷一つ付けさせませんよ」
「よくやったと言っておこう! 人間! しかし! これで終わりだ!!」
「終わり? 誰がだ?」
そしてオリヴァー君はそんな状態でありながら、剣で魔王の攻撃を受け止める。
私は魔王の動きが止まった事を確認し、すぐさま魔王の両手両足を魔法の枷で捕まえ、空中に縛り付けるのだった。
「まさか!? こんな! くっ……なに!? 魔法が、使えん!」
「逃げられませんよ。その魔法は魔王すら拘束できる様にこの五年で作り上げた最高の魔法ですから」
「バカな!」
「オリヴァー君」
「あぁ」
「待て! よく考えろ! シーラ! 私が、私だけが君を永遠に美しい完成された存在にする事が出来るんだ! 私だけが君を永遠に愛する事が出来るんだぞ! 愛が欲しくないのか!?」
剣を構え、魔力を集めているオリヴァー君を一瞬見てから、魔王に視線を戻した。
「貴方の様な独りよがりで、自分勝手な愛なんて、願い下げです」
「だ、そうだ」
「おのれ……! 私の真実の愛が分からぬとは! 後悔するぞ! シーラ!!」
私はオリヴァー君の剣に突き刺され、命を保てない状況になってもなお叫び続けている魔王にため息を吐くと、右手に魔力を集めた。
そして、それをオリヴァー君の剣に向ける。
かつて人形遣いの魔王にやったのと同じ、消滅の魔法をオリヴァー君の剣を通して魔王に放つのだ。
「一つ、言い忘れていました」
光が溢れ、消えていく魔王を睨みつけながら、私は最後に怒りを込めて言う。
「シーラ、シーラと気持ち悪いんですよ。このロリコン野郎!」
こうして、魔王は消えた。
しかし、限界を超えていたオリヴァー君は魔王が消えると同時にその場に倒れた。
私はすぐさま人を呼んで、二人を助けて欲しいとお医者さんに言うのだった。
それから、大会の事はみんなで話し合う事になり。
初代シーラ様杯の優勝者は私という事になった。
は? なんで?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます