第22話『学園構想』

阿鼻叫喚の地獄となっていた、ムイゼンの今後会議であるが。


少ししてようやく落ち着いてきたのか、皆が冷静に話せるようになってきた。


「シーラ様!! 最低でも10万ウィルベンにして下さい」


「え? 1000回分……いや、1500回分くらいのまとめ買いって感じですかね。五年分くらい?」


「1回分です」


「は?」


「1回分です。シーラ様」


「いやいや。何を言っているんですか? 1回? どんな値段設定ですか。10万なんて誰も来ませんよ」


「いえ。正直10万という値段設定が正しいのか、自分でも分からないのですが、少なすぎるとも感じています」


「いやいや。冗談が上手いんですから……って、え? あれ? 皆さん、なんでそんな真剣な顔をしているんですか?」


「個人的には100万でも良いと思うが。10万だと下級貴族でも出せるからな。最悪は学園が人で埋まるぞ」


「しかしな。100万を超えてくると、上位貴族しか出せない可能性もある。そうなった場合、技術の独占だと暴動が起こるんじゃないか? 平民も含めれば相当数が集まるぞ」


「なんだ、お前。シーラ様の素晴らしい話を安売りしろと言うのか!?」


「そうは言ってないだろう! ただ、権利を得る可能性があるのか、無いのかでは反応は大分変わると言っているんだ」


なんか凄い言い争ってる。


いや、だって安くすれば良いんじゃないの? 安い方が良いでしょ? ねぇ?


「では10ウィルベンとかにしますか?」


「シーラ様は黙っていて下さい」


「今はシーラ様について大事な話をしているんです。シーラ様は静かにしていて下さい」


「えと、はい」


「おい! シーラ様が退屈しているぞ! 子供を連れてこい!」


「はい! こんな事もあろうかと、朝からシーラ様がおらず、ぐずっていたリュカ君を連れてきました」


「でかした! エミリー!」


「はぁーい。リュカ。シーラ様ですよ」


「うぅ、しーらさま」


「あっ、リュカ君。はい。大丈夫ですよ。私はここに居ますよ」


私は流れるままに預けられたリュカ君を抱きしめながら、成り行きを見守る。


しかし、話し合いに決着はつかず、どんどんヒートアップしている様だった。


元気な事だ。


「なら、ならだ! ここまでの話をまとめよう。シーラ様の授業はいくらに値段設定しようとも、不満が出る。しかし、全ての人間に授業をする事は不可能だ」


「私、別に毎日起きてる時間分全部授業しても大丈夫ですよ。それを毎年続けても良いですし」


「シーラ様のご負担を考えれば、数日に一回とするべきだろう」


完全無視である。


こんな事ある?


様とか付けてる割には結構扱いが雑というか。何というか。


いや、別に恭しくして欲しいとかじゃないけどさ。


「故に抽選とする。授業に参加したい者の中から抽選を行い、受かった者が、授業を受けられる様にするのだ」


「でも、やはり不満は出ませんか? 運で決まるというのは、どこか理不尽なものを感じます。私だって、シーラ様のご指導を受けたい。しかし、その夢が自分の関係ない所で決まるというのは、納得できない所があります。これならまだ金銭で決まる方がマシです」


「うーむ。しかしなぁ」


私はみんなの話を聞きながら、あぁ、と頷いた。


「それなら、実力ごとに分ければ良いじゃないですか。私の授業を受けるにはそれ相応の実力が必要ですよ。とするんです。なんちゃって。なはは」


「「「……」」」


適当な事を言った瞬間、今まで完全無視だったみんなの顔がこっちにグイっと向いた。


無数の瞳が私を真っすぐに貫く。


いや、そんなに怒らなくても良いじゃん。ちょっと提案しただけなのに。


「シーラ様。今なんと?」


いや、滑ったネタをもう一回言うのって結構キツいんですけど。


これでさっきみたいにまた無視されたら、今度は泣くよ?


「その、ですね。いくつか授業を分けるんです。先生ごとに、一番下のランクから、一番上のランクまで。一番下には教えるのが上手い先生をおいて、基礎的な事を教える。一番上はもう教えるというよりは実践的な事や応用を中心にして、生徒の学びをサポートする様な形ですね」


「……」


「そもそもですね。皆さんは学ぶという事を勘違いしています。学習とは特定個人に教わる事だけを指す訳ではありません。その人が、新しい技術や知識を得る為に行うのが学習なのです。例えばジャックさん! 貴方は長く戦士として魔物と戦い、今は冒険者組合の管理をやっていますが、例えば管理者として必要な事、運営の知識を得たいと思った事はありませんか!?」


「えと、はい。あります」


「であるならば、まだ知識のないジャックさんは初級者コースに通い、知識をイチから付けるべきなのです。いきなり高名な先生の授業を聞いても理解が出来ないのですから、意味がありません」


「それは、確かに」


「そう考えれば私の授業に人が集まるなどという考えがいかに浅はかか分かるでしょう。私は所詮よく考えずいい加減に魔法を使っているだけの者。人が集まる事など、エルフの魔法を知りたいという好奇心がある方くらいで」


「実力ごとにコースを分けるか。流石はシーラ様だ。素晴らしい案だな」


「そうですね。それでシーラ様を最上位クラスに置けば、人が溢れる事もない。後は既に作られている貴族学園にも話を通して、協力させよう。これで学園に通いたい人間があふれる問題は解決だ」


「そうね。シーラ様が授業をして下さるんだもの。拒否する学園なんて無いわ」


「もしもーし! 聞こえてますかー!?」


意見を言ったのに、途中からまた完全に無視されてしまっている。


私はなんて都合の良い存在なんだろう。


よよよ。悲しくなってきましたよ。


「あぅー。しーらさまー」


「うんうん。私の相手をしてくれるのはリュカ君だけですよぉー。およよ」


「えへへ。あはは」


「笑った顔が今日も素敵ですね。リュカ君」


私はリュカ君をあやしながら、盛り上がっていく人々を眺めた。


そしてそれから何度か話しかけたが、完全に無視されていたため、孤児院に帰る事にする。




孤児院では、私が帰ってくるのを待っていた子供たちがおり、やっぱりここが私の居場所なんだなと再確認するのだった。


「あ、あの。シーラ様。おかえりなさい」


「アイヴィちゃん。ただいま帰りましたよ。って、様は要らないって前に言いましたのに」


「あの、いえ。シーラ様に申し訳ないので」


申し訳ないのに、なんで私の話を聞いてくれないんだ。と思いつつも、それが良いのなら良いかと流す。


そして、ちゃんとみんなに謝罪し、受け入れてもらえたアイヴィちゃんと共に私たちはお昼寝用の部屋に向かうのだった。


「はーい。皆さん。そろそろ寝ましょうね」


「「「はーい」」」


今日も今日とて私の隣を狙って子供たちの争いが起こるが、どうせ寝るまでの間だけなのによくやるなと、じゃんけん大会には参加しない子たちと寝るまでの時間を過ごすのだった。


しかし、よくよく考えると、じゃんけんに勝ち残り、横で眠る事が出来たとしても、大した時間は一緒にいられない。


しかしその大会中、ずっと一緒にお話ししている方が時間的には良いのではないか。


と、私は思ったが特にそれを言う事はなかった。


言えば、またここで争いが起きてしまうだろうから。


「しーらさま。ごほんよんでー」


「はいはい」


「「「じゃーんけーん!!」」」


今日も世界は平和だ。

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