第16話『世界の正しさは常にシーラ様の傍に』
ハッキリ言おう! 私は天才であると!
この町に来てから、絶望的に農業が発展していない事に疑問を感じていた私であったが!
遂に、遂に! その原因を突き止めたのだ!
そう! ズバリ! この町は害獣の被害が多すぎて土地がどれだけあっても農作物を安全に育てる事が難しいのである。
ふふふ。
おかしいなと思っていたんだよ。
こーんなに広い土地があるのに、なんで農業やらないんだろう! って。
だって本当に遠くまで土地が広がってるんだよ? やらない理由がないでしょ。
ほら。森で魔物を倒したり、植物を採取したりじゃあ安定しないじゃない?
でも、農業ならある程度は安定させる事が出来るわけだし。
ある程度文明が発展すれば自然と発展していくと思っていたんだけど、まさかこんな所に罠があったとは。
このシーラの目をもってしても読めなかった!!
という訳で、ムイゼンで農業を発展させるために、一肌脱ごうじゃないか!
これで安定してご飯が食べられるようになるぞー!
私は冒険者組合の前に人を集めて、町長さんであるジャックさんにお話をしていた。
「それで……シーラ様。お話というのは」
「はい。実はムイゼンの未来に関わる重要な話があるのです」
「ムイゼンの未来に関わる重要な話!!?」
ざわざわと集まっていた人たちが騒がしくなる。
まぁ、当然だろう。
これからとんでもない新事実が判明するのだから。
「実はですね。ムイゼンの農業についてお話があるのです。ズバリ! ズバリなお話があります」
「ムイゼンの農業についてですか? しかし、ムイゼンは魔物の被害が大きく農業経験のある人間は外部から来た人間ばかりですから、シーラ様のご要望にお応えできるかは分からないですね」
「……へ?」
「しかも土地が弱く、何とか作物を育てようとしたけど、状態も悪くてとてもじゃないが、続ける事は難しかったな」
「あぁ。しかも色々と試したが、どれも育ちが悪かったな。土地の相性が悪いのかもしれないが」
「水回りだって問題だぞ。結局広いだけで、用水路だって無いんだからな。井戸水にだって限界はある」
「結局色々試したが、命がけだろうが森の恵みに頼る方が良いって結論だった訳だし」
「……」
やばい。
やばい!
やばい!!!
え? なに? この、このくらい常識だよね。みたいな空気!
え? え? もしかして、知らなかったのって私だけ?
孤児院に住んでる子供たちもうんうん頷いてるし!
ちょっと待ってよ! 私だけなーんにも知らなかったの!?
「みんな! 静かにしないか! シーラ様が大事なお話があると言っているんだ」
「あぁ、そうだな」
「そうか。シーラ様はこの状況を何とかしようとしているんじゃないか?」
「流石はシーラ様だ」
「みんな、早く黙れ。シーラ様のお声が聞こえないだろうが」
私があわあわとしている間にも、ムイゼンの町の人たちは完全に話のを止め、私をジッと見つめていた。
ゴクリと唾を飲み込む音が妙に大きく私の中で響く。
「え、えと……その」
「はい。シーラ様」
「その、ですね。私、実は、本当に、何も知らなくて……もしかして、魔物の被害が多いから、農業が出来ないのかなって、その、ごめんなさいぃ……こんな、大げさに人を集めて、しまって」
緊張と、恥ずかしさと、いたたまれなさで、私はポロポロと涙を流しながら大人しく白状した。
だって! この状況で何も言える事なんてないもん!!
隠せば隠すだけ酷い事になるよ!
なら、この場で責められた方がマシだい!
「シーラ様」
「ひ、ひぇ。な、なんでしょうか?」
「シーラ様は農園に魔物を近づけない術を提案される予定だったという事で、よろしかったでしょうか?」
「え? えと、はい。そうですね」
「承知いたしました。ではここからは私にムイゼンの農業発展の責任者に一任して下さいませんか?」
「ふぇ?」
「おい! 何どさくさに紛れて勝手な事言ってるんだよジャック。責任者には俺がなるぜ!」
「いや俺だ!」
「私よ私!」
なに?
何が起きてるの?
「俺だ! 俺が確実に成功させてやる!」
「いや。ここは王都で教師をしていた私が、担当しようじゃないか!」
「いやいや。魔法でどんな硬い土だって掘り起こして、畑だろうが、田んぼだろうが、用水路だろうが、全部通す事が出来る俺が適任だろう!」
「お前は作業員として働け! 責任者ってのは頭で選ぶんだよ! 頭で!」
「なんだと!? 俺の頭はどんな岩だってぶっ壊せるぞ!」
「そういう頭じゃねぇ!」
「え、えと。みなさん?」
「「「はい!」」」
「ひぅ」
私は一斉に視線を浴びせられ、思わず後ずさってしまうが、何とか気持ちを奮い立たせて顔を上げる。
大きく息を吐いて、震える手で服を握りしめながら問うた。
「あの、その……怒ってないのですか?」
「怒る? 何をでしょうか。怒る理由が見えません」
「そうですよ。シーラ様。むしろやる気が出てきたというか」
「ここで活躍すれば、シーラ様に好感を持っていただけるというか」
「なにぃ!? お前! そんな邪な気持ちで責任者をやりたいだなんて言っていたのか!?」
「別に良いだろう! どんな形だって! シーラ様が笑顔になって、俺はお褒めいただく! 何も問題はない!」
「問題だらけだ!? 馬鹿野郎!」
私は争う人々を見ながら、ふと前世の事を思い出していた。
あれだ! これは、アレ!
アイドルだ! なんか可愛いアイドルが馬鹿な発言をしても、みんな可愛いねって言って終わらせるアレだ!
まさか私がアイドル扱いをされる日が来るとは!
やはり見た目。見た目は全てを解決する。
幼女ってだけで大体の事が許せるもんね。
な、なるほど……そういうカラクリだったのか。
おかしいと思ってたんだ。
みんな私にやたら構うなぁって。そうか! 全部幼女だったからなんだ!
良かった。良かった。
って、良くなーい!!
全然良くないぞ! 私!
何の為に王城を出たんだ! 子供たちを養う為だろ!
孤児院で働いてくれている人たちを、養う為だろ!!
甘えたままで良いのか?
いーや! 良くない!
汚名返上だ。
「皆さん! 静かにしてください!」
「……」
「あ、いや、少しくらいは、話してても良いですよ?」
「……」
私が静かにしてほしいと言った瞬間に、全員が一切口を開かなくなり、静寂の中で私を見つめる。
その光景はまさに恐怖という言葉が最も相応しかった。
これが果たしてアイドルか? と問われると正直自信がない。
なんかもっと別の存在じゃないかな。
怪しい団体のボスとか。そういうの。
大丈夫かな? 私。何かあった時、捕まったりしないかな?
怖い。
「えと。その、ですね。責任者は私がやります。それで、何かあった時の責任は私で、成功した場合は皆さんの頑張り。これで行きましょう。それで、ですね。まず決めたいのは」
「何か問題が発生した際に、シーラ様の代わりに責任を取る人間ですね?」
「違います! そうではなくて! 責任は私が取ると言っているじゃないですか! その、食料が足りなくなった時は、森で魔物を捕まえてきますし。森の木の実とか、果物とかも取ってきます。そういう責任です」
「なるほど」
「分かってくださいましたか」
「えぇ。このジャック。全てを理解しました」
「ほっ……良かったです」
私は安堵の息を吐いた。
心が落ち着いて。ようやく落ち着ける。
が、そんな風に考えている事が出来たのも少しの間だけだった。
「皆……聞いたな? これは絶対に失敗してはいけない計画だ! 例えその命が尽き果てるとも!! 何を犠牲にしようとも!! 必ず成功させる!! 良いな!?」
「「「おぉ!!」」」
「だから! 違いますってば!!」
私は必死に彼らの言葉を否定した。
しかし、私の声は届かず、農業発展決死隊が結成されてしまったのだった。
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