愛され転生エルフの救済日記

とーふ(代理)カナタ

第1話『転生したのはエルフの里でした』

『春風に囁く恋の詩』というゲームがある。


異世界で行われる王道の恋愛ファンタジー作品だ。


聖女と呼ばれる女の子が色々と苦労しながら、イケメン達と恋愛を繰り広げるというストーリーとなっており、ファンもかなり多い。


初めてこのゲームを買った時は、まだ中学生だったという事もあり、頭がおかしくなるくらいの時間やり込んだものだ。


そして、リメイクが大学生の頃に発売され、追加ストーリーが入ったものが社会人になってから発売された。


うん。


私はその全てをプレイした。


そう。真実全てをプレイしたのだ。


その上でハッキリと言いたい。


どうしていつもロリショタに酷いことをするんだッ!!


制作陣はロリショタになんか恨みでもあるのか!? もしくは、ロリショタをイジメる事に喜びを感じる鬼畜なのか。


分からない。分からないが、ただ新作が出る度に新しいロリショタがイジメられる事を考えると何かしらの趣味的な要素が入っている事は間違いないだろう。


許すまじ……!


私は怒りが燃え滾るままにご意見ご感想欄に、ロリショタへの扱いをもっと良くして下さいと書いて、一息つくのだった。


そして私がメーカーに怒りを叩きつけてから、何か飲み物でも飲もうと立ち上がった瞬間に、訪問を告げるチャイムが鳴った。


何だろうかと、インターホンのカメラで確認をしてみれば、そこに立っていたのは会社の後輩で。


『ごめんなさい! 先輩! こんな夜遅くに! どうしても確認したい事があって!』


「そうなの? 分かった。ちょっと待っててね」


私は通話を切って、急ぎ玄関に向かって、鍵を開け、扉を開いた瞬間に、お腹に衝撃を受けた。


痛み?


いや、違う。熱か?


熱って、何で……?


不思議に思って、自分のお腹に触ってみれば、手には真っ赤な血が付いていた。


「……っ!?」


「ふふ。いつもクールな先輩もそんな顔するんですね」


「……!」


余りの痛みに言葉を発する事も出来ずに、私は床に倒れ込んだ。


そして、後輩は家の中に入ってくると、玄関を閉めて、真っ赤に染まったナイフを持ちながら歪んだ顔で笑う。


「先輩が悪いんですよ。私の想いを知ってたくせに、男なんかと付き合おうとするから!」


今度は腕に激しい痛みが生まれ、痛みに呻いた。


しかし、こんな状況だというのに、私の喉は声を発する事が出来ず、意味のない音を僅かに漏らすばかりであった。


「先輩。痛いですか? でも、私はもっと、もぉーっと痛かったんですよ?」


ナイフがまた抜かれ、私は息を落ち着かせながら、何とか後輩を説得しようとした。


痛みを必死に堪えて口を開く。


「よ、宵闇、さん」


「嫌ですねぇ。咲姫って呼んで下さいよ。いつもみたいに」


正直名前で呼んだ覚えは無いけど、この状況でそんなことを言える勇気が私にある訳もなく。


私は、笑顔を作りながら、サキちゃんと呼んだ。


それだけで、サキちゃんは嬉しそうである。


このまま何とか助かる流れに持って行きたいものだ。


「愛してるよ。咲姫って言って下さい」


「あ、アイシテルヨ? サキ?」


「うふふ。私も愛してますよ。先輩」


満面の笑みでそう答える宵闇さんに、私がぎこちないながらも、笑顔を作り、何とか立ち上がろうとした。


このまま逃れる事が出来そうだ。


そう思っていたのだが、ここで不幸が訪れる。


何と付けっぱなしにしていたゲームから、放置音声が流れ始めたのだ。


この放置音声とは、ゲームを放置している時にだけ聞くことが出来るボイスで、わざわざこのボイスを聞く為だけにゲームを付けっぱなしにして、待つ人も居るくらいだ。


そして、素晴らしいダンディな声がリビングの方から響き渡った。


『いつまで待たせるんだ? 僕はもう我慢の限界だよ』


痺れる様な声と、素晴らしい演技でアンニュイなキャラクターボイスが聞こえてくる。


このキャラクターは私のお気に入りの声優さんがボイスを担当しているので、何度も聞きたくなる様な声なのだが……。


残念ながら、このボイスが私の人生を終わらせる事となった。


最期に見たのは、怒りに染まった宵闇さんの顔で、私はこれから少しして、意識を完全に暗闇へ叩き込まれるのだった。




さて。


酷い状態で終わりを迎えた私であったが、次に目を覚ました時、私は子供になって見知らぬ場所に眠っていた。


正直何も覚えていない……が、何となく想像は出来る。


これは生まれ変わりという奴では無いだろうか。


あの時、宵闇さんに刺された私は命を落として、新しい人生を歩み始めたという事だろう。


「我ながら中々鋭い考察なのでは無いでしょうか」


「きゃあああああ!!」


「っ!?」


ベッドの上に座りながら、腕を組んで考察を口にしていた私は、すぐ後ろから響いた悲鳴に体を震わせた。


そして、恐る恐る後ろを振り向くと、そこには両手で口を塞いでいる人? が居た。


いや、よく見ると、なんかおかしい。


あっ! そうか。耳が長いんだ。まるで、ファンタジー世界のエルフみたいに。


「シーラが喋ったぁぁぁああああ!!」


不意に大声を上げながら、私の元へ駆けてきたそのエルフと思われる人は、私を抱き上げると、その勢いのまま家の外へと飛び出して、おそらく集落であろう場所を走り回る。


発している言葉は私が喋ったという事ばかりで、それがどれだけ大事件かと分かるものだった。


それからぞろぞろと集まってきたエルフの話を聞いていると、どうやら私は随分と久しぶりに生まれた子供だったらしく、喋ったというだけで久しぶりの衝撃で大興奮だったという事らしい。


この日から約一年間は、お祭り状態であった。




そして、私が生まれてから約三十年ほどの時間が経った。


私は毎日エルフの里にある書庫に引きこもり、本を読み漁っていた。


内容は魔法に関する物とか、この世界に関するものだったりしたのだが、長い時間を掛けて調べた結果、とんでもない事実が発覚したのだ。


そう。私の勘違いで無ければ、この世界は、私が生前遊んでいたゲーム。


『春風に囁く恋の詩』の世界とほぼ同一の世界だと思われるのだ。


信じられない様な話であるが、世界地図や、歴史的な出来事。国の名前や場所などを見る限り、限りなくかのゲームの世界である。


これは何の偶然なのだろうか。


もしくは何かの運命とか?


でも運命だとしても私にやる事なんて……。


「いや、ある。あるよ! 私じゃなきゃ出来ない事が!」


そうだ。私は生前、中学生の頃から何度もこの世界と同じゲームをやって感じていたじゃないか。


ロリとショタに対する扱いが酷すぎると!


理不尽な事があまりにも多すぎると!


でも、この世界でこれから起きることを知っていて、エルフだからか、原作の主人公たちよりも強大な魔法が使える私が介入したらどうだろうか?


無意味に傷つけられる子供たちを救えるのではないだろうか!


「……やろう! どうせこの世界で他にやる事なんて何も無いのだから!」


私は両手を握りしめて、まだまだ小さな体で地面の上に立った。


そして、右手を空に突き上げて、不幸になると分かっている子達を助ける為に、里を出て行く決意をするのだった。


「おやおや。今日も元気だなぁ。シーラ。んー。可愛いぞ~」


「あ。長。私、この里を出て行くね」


「そうかそうか……って、えぇぇええええ!!?」


そうと決まれば、旅の支度をしようと里の書庫を飛び出して、自分の家に向かった。


世界は待ってくれない。


この世界に存在する理不尽はロリショタを狙って息をひそめているのだから。


「シーラ! 駄目だ! 外に行くなんて!」


「はーなーしーてー!」


私は次から次へと私の体に掴まって、邪魔をしてくるエルフの仲間たちを振り払いながら、里を脱出をするのだった。

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