第21話 お風呂の準備と一緒に入浴
グレインと二人で晩ご飯を食べる。私も頑張ったハンバーグ。
「ご馳走さま」
「お粗末様でした」
私も手伝ってお料理をしたと伝えるとことのほかグレインは喜んだ。マリアさんの作ったものと変わらないと思うんだけどこうやって褒めてくれるとやる気が出る。
グレインがまた研究室に戻るので食器を片付けて、お風呂に自分の魔法を使って湯船を張って準備をしながらアリスティアのことを考える。
平民である彼女が騎士家とはいえ貴族階級の生徒である私と気後れせずに付き合うようになってくれてよかった。
まあ、この世界はゲーム世界だしルートがルートの場合ではあるけれど、逆ハーレムルートが解放されたら貴族世界のルールを全てぶっちぎるように平民の女の子がトップランカーとしか言いようがない高位貴族の子息を侍らせちゃうわけだし。
考えてみると、そのルートのベアトリーチェがアリスティアのことを嫌っているのは仕方ないことだと思うし、今のアリスティアならベアトリーチェと友達になれるかもしれない……もっとも、ベアトリーチェの取り巻きである「ベルタ=転生者」疑惑があるからすんなり友達になって貰っていいとは思わないけど。
椅子に座ってぼんやり魔塔の最上階の窓から見える空を見ていた。星座、全然違うんだなぁ。
「はぁ……なんで私ってこのゲームに猫として転生しちゃったんだろう」
思わず独り言が漏れてしまう。愚痴ってもしょうがないことだけど。いや、あのまま死んじゃうよりグレインたちと一緒の人生(猫生?)を生きられるだけましだけど。
「美弥呼? どうしたんだ?」
グレインに後ろから声を掛けられる。うわっ!? ひょっとして今の聞かれてた?
秘密の多いスパイ生活? をこれから送っていかなくちゃいけないんだから独り言のクセとかなしにしないと。
「な、何でもないよ」
「猫として転生させられたことがイヤだったのか?」
それでも後半部分は聞かれちゃっていたのか。
「い、いや、だって前も話しましたけどあれがなかったら多分今頃、交通事故で死んじゃっていたわけで……逆に感謝してるくらいです」
「そうか……それならいいが」
グレインも困るよね。自分の猫が
「あ、そう言えば私お風呂のお湯を自分で張ってみたんです! せっかくだから入って下さい。背中くらい流します」
もっとも私の魔力は結局はグレインから出てるのでグレインが自分で沸かしたみたいなものだけど。ちょっと照れ屋のグレインなら背中を洗ってあげるって言ったら動揺しちゃうかも。
「それなら一緒にお風呂に入ってみるというのはどうだ?」
グレインがそういうと椅子に座っていた私の肩を抱くようにして立たせる。
「にゃ、にゃ、にゃにを……何を言ってるんですかグレインさん!?」
私が動揺して真っ赤になる。私はそのまま自分で沸かした浴室に連れ込まれた。
…
……
………
うう、グレインに全身洗われた。隅々まで泡立って綺麗に。
その上、一緒に湯船につかって温まって……一人と一匹で……
そう、私は脱衣所に連れ込まれるとグレインの手で頭を一撫でされて黒猫に戻された。変身魔法を解除されたのだ。
「にゃ~~~~」
抵抗する間もなく全身隅々までシャンプーを泡だって洗われた。このところずっと私は人間状態になっていたからちょっと抜け毛が激しくて恥ずかしい。いや、猫の抜け毛が多いのが恥ずかしいことかどうか分からないけどね。
「たまには猫の体に戻ってしっかり洗わないと……まあ元々猫はそんなにお風呂に入らなくていい生き物だし。ミャーコの場合は人間に変身してる間、換毛期なんかがどう来てるのかが分からないけどな」
この世界の学校は4月はじまり。中世ヨーロッパ風の世界観だけど桜が咲く時期に入学式なのはやっぱり製作者が日本人だからだろうね。
現実逃避している間にもわしゃわしゃ洗われる。
ギニャーッ! お股は……お股はダメ~っ!
グレインは自分が濡れてもいいように全裸に腰に巻いたタオル一枚。めちゃくちゃ眼福なんだと思うし、こんなエッチなシーン、ゲームのスチルでも見たことないけど……ああ、シックスパックが綺麗に割れてて……
じゃぱぁぁあーーーー
お湯をかけられて石鹸を流される。
ブルブルブルブルブルッ
ミャーコ側に意識を寄せるとこういう猫っぽい動作をすることもできる。体をふるわせるようにして水分を飛ばす。
「わ、こら。ミャーコ。今から一緒に湯船につかるんだから」
そう言われると水に濡れてすっかり細く見える貧相な体になった私をひょいと抱き上げるグレイン。
だ、だれにゃ!? 貧相な身体とかいうのは? 猫としては標準体重は守ってるにゃ!
ざぱぁぁぁぁ
私が何も考えずに湯船いっぱいに入れちゃっていたから大きなグレインの体が入るとお湯が溢れて流れ出る。
猫には大きすぎる湯船だから私はせいぜい爪を出さずにグレインにしがみつくしかない。
超至近距離で全裸のグレイン。湯船の中にタオルが浸かってないから下に目を向けたら見えちゃう!?
人生で一番のぼせそうなお風呂だった。
お風呂を上がると超絶適温の風魔法で乾燥させられる。
ドライヤーとか嫌がる猫がいるけどこれなら世界中の猫が満足しそうな絶妙の乾燥温度。確実に猫を乾燥させるためだけに開発されたオリジナル魔法。
短毛種の黒猫であるミャーコだけどメチャクチャ丁寧にブラッシングされて……まさしく溺愛状態。
後ろ側からグレインにくしけずって貰ってるけど、くるりと顔だけを後ろに向けてちょっと恨めしい顔で抗議する。
『グレイン様はミャーコのことが本当に大好きですね』
「もちろん。元々可愛い飼い猫だったミャーコが世界で一番可愛いミヤコになったんだから、大好きに決まってるだろう」
『……』
猫じゃないと死ぬ。こんなの面と向かっていわれて平気でいられるはずがない。
「ミヤコ?」
私の明後日の方を向いて目を合わせなくなったのでグレインは驚いて手を止める。
「すまん。嫌ならやめる。美弥呼は美弥呼だよな? いや、女の子の美弥呼の方が俺としては好みなんだけど……でも、ミャーコはミャーコだ。猫は猫として可愛がってやりたい。でも美弥呼も可愛い」
私は思わず笑ってしまった。猫の状態で笑う時私はどんな表情をしているんだろう? チェシャ猫を思い浮かべる。
『どっちでもいいです』
「え?」
『どっちでもいいです。だって私は今こうして猫であり女子高生である庭月野美弥呼として生きてるんですから』
私は猫姿のまんまグレインのひざに乗り顔を見上げる。
『大好きです』
人間の姿でも伝えたけどまだ声には出せない。念話なんて素敵な方法を与えてくれたグレインに感謝する。
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