第41話 風歌先輩の手作り弁当
明日は体育祭準備で朝から体育祭実行委員全員が駆り出されることとなっているため、今日の実行委員会はなしである。
『久しぶりに早い時間に下校するんじゃない?』
「その代わり明日も休日なのに登校だけどな」
「鏡夜くーん」
オレが下校しようとしていると風歌先輩とばったり出会う。
「鏡夜くんも明日の体育祭準備も参加するんだよね?」
「そうですね」
「明日もお弁当?」
「ん?あー、どうしようかな~。明日は妹のお弁当ないんですね~。テキトーに買って食べるかもしれないです」
「そうなんだ!よかった……。そ、その、明日私がお弁当作ってあげる…あげたい……とか……思ってるんだけど……」
このタイミングで!?
雷歌先輩のあの様子的にちゃんとオレをターゲットにしてるよな?
風歌先輩の目論見通りいってるんじゃないのか?
ダメ押しとか?いや、もしかしたらまだ食いつきが浅いのか?
雷歌先輩のことに関しては、姉妹である風歌先輩に一日の長があるだろう。
ここは乗っかるのが無難だろう!
「本当ですか!?楽しみです!」
「あまり期待しないでね?大したものは作れないから……。じゃあ、明日お昼休憩になったら屋上に一人で来てね?」
「わかりました」
「またね!」
風歌先輩は走り去っていった。
手作り弁当のイベントか……マンガとかだと一般的なんだが、ゲームだと意外にレアなんだよな。
──翌日。
オレは予定通り、体育祭準備に駆り出された。
眠い……。
体育祭が終わるまでには、確実に雷歌先輩攻略の足掛かりをセットしないといけない。そして、当日は忙しくなるだろうし、一緒にいることは難しいかもしれない。
となると、今日中に何とかしなければ。
とは言え、一睡もせずにゲームはやり過ぎたな……。
それなりの気温の中、重たい荷物を担ぎ何度も往復する重労働。
疲労感が溜まって抗いがたい睡魔が……。
「鏡夜くん、はいお水」
「ありがとうございます、風歌先輩」
「大丈夫?」
「先週とは比べもんになんないくらいきついっすね」
この程度で息が上がるとは、最近ゲームばっかだったせいで運動不足かな?
完璧な兄であるために、ちゃんと体を鍛え直すか。
「あとちょっとでお昼休憩だし、頑張ろうね!」
「そうっすね」
風歌先輩張り切ってんなー。
まぁ、みんな張り切ってんだけど……。
特にここ最近オレに対し、だらけまくっていた雷歌先輩はまるで別人のようだ。
みんなに頼られ、的確に指示を出し、常にキビキビと動く。岩筋先輩よりリーダーといった感じである。
『結構形になってきたわね!体育祭が始まるって感じ!』
「楽しそうだな、トーカ」
『初めての高校の体育祭だもの!あーあ、アタシも参加したかったな~』
天使でも体育祭に参加したいとか思うんだな。
まぁ、トーカは俗っぽいし特殊なのかもしれんが。
「湾月くーん、こっち手伝ってもらっていいかなー?」
「はーい」
『雷歌先輩を堕とすんだから負けてらんないわよ!アピールしないと!』
「へいへい」
昼休憩になるとオレは約束通り、屋上へと向かう。
一人で来てほしいと言われたが、オレは昼に誘われることはないから、簡単に抜けられた。
悲しいね……。
「トーカ、周りの様子を頼む」
『はいはーい!』
オレが屋上に上がると、すでに風歌先輩は敷物を敷いて待っていた。
敷物だと!?
イベントではベンチで隣に座っていたが、敷物の場合はどうすんだ?
横か?いや、互いに顔が見える正面に座った方がいいのだろうか?
しかし、悩む必要はなかった。
「座って座って」
風歌先輩は敷物をポンポンと叩く。
オレは素直に指定された場所に座る。
「お邪魔します」
『鏡夜、周りには誰もいないわよ』
誰も?
じゃあ、雷歌先輩もいないのか。
いや、よく考えたら当然か。
この場に雷歌先輩を呼んでしまったら二人きりじゃなくなって、雷歌先輩に対して「オレを狙ってません、ただの友達です」と宣言するようなもんだ。
それじゃあ雷歌先輩は食いつかない。
雷歌先輩が風歌先輩を探して、ここまで探しに来る読みってことか。
そのために、練習していた場所である屋上指定……風歌先輩考えてるな。
「こ、これ……口に合わないかもしれないけど、作ったから!」
「ありがとうございます」
風歌先輩から差し出された手作り弁当をオレは受け取る。
オレが蓋を開けようとすると、トーカが覗き込んできたためオレは首を傾ける。
「ど、どうしたの?やっぱり嫌だった?」
「え?」
ああー、しまった。
風歌先輩にトーカは見えていないんだった!
今のオレ、眉間にしわを寄せながら首を傾けたすげー嫌な奴に映ったんじゃ!?
ったく、いらんことすんじゃねーよ、トーカ!!
「いや、先輩からお弁当をいただけた嬉しさと緊張でつい」
「そ、そうなの?」
「はい」
お弁当の中身は卵焼きに唐揚げ、サラダにご飯と、非常にスタンダードなラインナップだ。
オレはとりあえず、最も手作りの可能性が高いであろう少しだけ崩れた卵焼きを食べる。
うん!普通だ!
「ど、どうかな?」
「おいしいですよ」
「ほんと!よかったー」
「普段から料理とかするんですか?」
「え゛!?ま、まあ、そうだね……」
なんて大根役者なんだ。
風歌先輩ってなんかこう、意地悪したくなるんだよな~。
「他になに作ったりするんすか?得意料理とかあったら今度教えてくださいよ」
「え!?あっ、えーと……いじわる……」
「アッハハハハハハ!見栄を張ろうとする先輩が悪いんすよ」
「もう!」
談笑しながらオレは風歌先輩の手作り弁当を完食した。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。ねえ、本当は味どうだった?鏡夜くんは普段から料理するんでしょ?それに比べたら全然だったんじゃないかなと思って……」
「本当においしかったですよ。それに料理には味以上に重要なものがありますからね。その点では風歌先輩は完璧です!」
「そうなの!?重要なものってなに!?」
「相手のことを考えて作ることです。この弁当からは風歌先輩のオレに対する愛がひしひしと伝ってきましたから!」
「……そ、そう」
冗談を本気で照れられると、こっちもなんだかムズムズするなぁ。
満腹になったオレは屋上で寝転がる。
少し雲がかかっていて風が気持ちいい。
日がな一日こうしてたいな~……。
「……鏡夜くん……鏡夜くん」
あれ、枕変えたっけ?
目を開くと、オレの上に風歌先輩の顔がある。
へ!?
「おはよ!」
オレは飛び起きる。
風歌先輩の膝の上で寝てたのか!?
「すみません!寝ちゃって!どんくらい寝てました!?」
「ちょっとだけだよ。たぶん10~15分くらい」
「……そうですか」
「休憩終わっちゃうから行こ?あ、でもお手洗いに行きたいから先行ってて」
「わかりました」
まさかまた寝落ちするとは……。
いや、今回はターゲットじゃない風歌先輩だ。雷歌先輩じゃなかっただけよしとしよう。
オレは気を引き締める。
そう言えば結局、雷歌先輩は来なかったな。
午前中にあらかた機材やテントなどが運び終わっているため、午後は残りの用具や白線を引くなど軽作業が主である。
「気温が上がってきたから、こまめに水分を取るように!」
「私、用意します」
重いものを運ぶのが苦手な風歌先輩が率先して、飲み物を用意しようとする。
それに追随する人はいない。
雑用感強いとは言え、手伝ってあげろよな。一人じゃきついだろ。
「じゃあ、オレも──!」
「待って!鏡夜はこっちやって!風歌は私が手伝うから」
「わかりました」
そこからはオレの仕事は全て雷歌先輩によって割り振られた。
うーん。体育祭に向けて本気状態って感じだな……これは体育祭中の攻略は厳しいか?
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