トリと一緒にお宝探し
にゃべ♪
第1話 謎のトリといきなりの冒険
3月1日の午後、帰宅部の私は家に直帰する。玄関のドアを開けると、誰もいないはずの家の奥から何かが近付い来る気配を感じた。
私は眼鏡の位置を指で直して、近付いてくるものの正体を見定める。まさか、泥棒? それとも――。
「ようやく会えたホー!」
現れたのは、丸っこいぬいぐるみのような鳥だった。どこかで見た事があるような? てかその前にこいつ喋ってるわ。妖精的なアレなのかしら?
鳥は私に向かって突進してくる勢いだったので、右手を伸ばしてそれを阻止する。
「何するんだホ!」
「それはこっちのセリフ! 何者?」
「ボクはトリだホ。よろしく水穂」
「いきなり呼び捨てかい」
トリと名乗るこの喋るぬいぐるみは、当たり前のように私の名前を口にする。と言う事は初対面ではないのかも知れない。一体どこで出会っていたんだろう?
私は自分の記憶を探りながら、目の前の喋るぬいぐるみをじいっと見つめる。
「何で私の名前知ってんの?」
「まだ思い出さないかホ? ボクだホ。10年前から君を見ていたホ」
「え? 知らんけど?」
「その頃のボクは本の中にいたんだホ」
トリは鼻息荒く胸を張る。10年前と言ったらまだ私は4歳だ。その頃の記憶はほとんどない。ただ、4歳の子供が読む本と言えば絵本と相場が決まっていた。
「あっ!」
「やっと思い出せたかホ」
「あなた、あの絵本の! でも何で?」
「水穂が目覚めるのを待っていたんだホ! 早速行くホ!」
トリはその小さな翼で私の右手を掴むと、突然出現した謎空間に私を引っ張り込んだ。この強引な展開に理解が追いつかないまま、気がつくと私は知らない森の中にいた。
「え? ここどこ?」
「どうやら森の中みたいだホね。どうするホ?」
「いやそれこっちのセリフー!」
どうやら引っ張り込んだトリもこの場所がどこか知らないらしい。そんな事ってある? 私はトリを両手でがっしりと掴むと、その顔をじっくりと見つめた。
「説明してよ。何もかも!」
「仕方ないホね~。じゃあ順を追って話してやるホ」
トリによると、彼は生粋のトレジャーハンターで伝説のお宝を探して様々な世界を飛び回っているらしい。10年前、そのお宝の手がかりを求めて私の家にやってきたのだとか。
ただ、手がかりの私自身が幼かったので、十分に成長するまで本の中にいたと言う事らしい。
父の自作の絵本のキャラだと思っていたのものの正体がそう言う事だったなんて――。ここまで話を聞いた私は、そこである結論に辿り着く。
「じゃあ、父さんも共犯なの?」
「源一が僕を本に封じたんだホ」
「えっ? 父さんって何かの能力者なの?」
「源一もボクがわざと封印された事に気付いてなかったホね」
トリはそう言うとホホホーッと笑った。大体の事情が何となく分かったところで、私は改めて周囲の景色を見回す。
「で、ここにそのお宝があるの?」
「おかしいホね。どうしてこうなったホ?」
「いやだから、それ私のセリフだよ」
私達が悩んでいると、そこに魔法使いっぽい黒いローブを着た怪しげな人がふわっと近付いてきた。いきなり視界に現れたので私は驚いて言葉を失う。
「何やら騒がしいので来てみれば……。お嬢さん、特異点じゃないか」
「え?」
「お前、誰だホ?」
「ワシはこの森に住むただの魔女さね。お嬢さんや、あんたには2つの力が眠っておるよ」
魔女は、私の姿を見るなり突然怪しげな事を言い始めた。私はゴクリとつばを飲み込んで言葉の続きを待つ。
「しかし驚いたねえ、光属性と闇属性の2つの資質を持っているだなんて。ただし、2つの力は正反対。能力を伸ばすならどちらかを選ぶしかないよ。どっちを選ぶんだい?」
「え? 両方」
魔女の質問に私は即答する。だってどちらかを捨てるだなんて、そんな勿体ない。答えを聞いた魔女は、びっくりするほど大きく目を見開いてあんぐりと口を開ける。
「何と、二刀流かえ? 面白いねえ」
「右手に光、左手には闇とかやってみたいし」
「ホホ、その面白いのに賭けてみようかねえ」
魔女はそう言うと、私に向かってゴテゴテとデコっている杖を振りかざした。次の瞬間、不思議な力が胸の奥から湧き出てくるのを感じて、私は思わず自分の両手を見つめる。
「え? 何これ?」
「力の門の鍵を開けたのさね。ほれ、この杖をやろう。せいぜい頑張んな」
魔女は木の枝のような杖を強引に私に握らせる。そうしてボワっと消えていった。そのタイミングでトリが声を張り上げる。
「ボク達はこれからどこに行ったらいいホ?」
「何も迷わず、そのまま歩いていけばいいさね」
魔女はそう言い残して完全に消えてしまった。私達は仕方なくその言葉通りに進んでみる。
しばらくは代わり映えのしない景色が続いたものの、やがて謎の遺跡が視界に入ってきた。それを目にしたトリは声を弾ませる。
「ここだホ! 早速入るホ!」
この頃には私もすっかりこの世界観に馴染んでしまい、何の疑問も抱かずにトリの言葉に従っていた。遺跡の中は入り組んだ迷路になっていて、まさにRPGのダンジョンにリアルに入り込んだみたいだった。
トリがずんずん進んでいくので、私はその丸い体をむんずと掴む。
「どうしたホ? きっとここにお宝があるんだホ」
「こう言う場所にはモンスターが出てくるのがお約束でしょ? トリはそいつらを倒せるの?」
「そう言うのは水穂がやってくれホ! ボクは戦闘はからっきしホ」
自分の無力さを自慢するように明言するトリに、私はため息を吐き出した。この状況に引き返しても良かったんだけど、さっきの魔女の言葉を信じて、私は貰った杖を壁に向かって振ってみる。
「えい」
杖を振った瞬間、ビームみたいなのが杖の先から発射された。その魔法はダンジョンの壁に当たって爆発。私はこの成果を見て頬が緩む。
「すごいよ。私、魔法が使えてる」
「じゃあもう大丈夫ホね。先に進むホ」
トリはむっちゃ先に進みたいのか、とにかくずんずんと前に進み始める。複雑な迷路を迷いなく進むので、きっと正解のルートを知っているのだろう。
私は彼を信じて、その後姿を見ながらついていった。
ある程度奥まで進むと、危惧した通りにモンスターが現れる。最初に現れたのはちょっと大きな獣みたいなやつで、こいつらは光魔法で簡単に黒焦げになった。その内にスライムだとか巨人のようなゴーレムが私達の行く手を
光魔法を連発しても倒せないようなタイプには闇魔法を使った。属性の切り替えはしんどくて、すぐには切り替えられない。ゴーレムの一撃が迫った時は、間一髪で闇魔法弾を撃てて九死に一生を得た。
そんなピンチの時でも、トリはすぐに物陰に隠れて戦闘には一切参加しない。モンスターが倒れてから、やっと私の前に姿を表していた。
「ほんっとうに役に立たないんだ」
「当たり前ホ! 水穂の邪魔にならないように隠れているんだホ」
トリは全く悪びれもせずに自分の行動を正当化する。とは言え、役に立たないのに出しゃばられても困るので、戦闘に全く参加しないのは正しい選択でもあるのだろう。
私はトリを軽く叩いて、気前よくサムズアップをした。
「じゃあ、ダンジョン攻略は任せたよ」
「任せるホ!」
トリは満面の笑みを浮かべると探索を再開する。考えてみたら私がこいつに付き合う理由は何ひとつない。けれど今はこの冒険自体が楽しくて、色んな疑問はどうでも良くなっていた。
立ち塞がるモンスターを倒しながら、冒険は順調に続いていく。この頃になると、やがてはダンジョンの最深部に辿り着いて伝説のお宝が手に入るのだと私は無邪気に信じて切っていた。
「あれホ?」
トリが首をひねる。目の前にあったのは壁だ。そう、行き止まり。迷いなく進んでいたのでゴールを知ってるのかと思っていたのだけど、どうやらそうではなかったらしい。
トリは来た道を引き返して別ルートを選択する。しかし、選んだルートはことごとく行き止まりだった。
「どう言う事? 道を知ってるんじゃないの?」
「勘で進んでいただけホ」
「嘘でしょ?」
私がトリの言動に頭を抱えていると、突然通路に水が溢れ出してきた。典型的な罠だ。一体どこで作動スイッチを押してしまったんだろう?
とにかくこのままではヤバいと、私はトリを置き去りにして走り出した。
「ま、待つホー!」
「あんたもうちょっと役に立つと思ってたわー!」
トリが勘で進んでいたように、私も正解ルートを知っている訳じゃない。水が迫ってくる中、私は無我夢中で走り続けた。
そして、突然目の前に現れた壁に軽く絶望する。
「何で?!」
「もう覚悟を決めるしかないホ」
「あきらめんなー!」
絶体絶命のピンチに私の頭は打開策を探してフル回転。その間にも水かさはどんどん上がってくる。一体どこにこれだけの水があったのか、気がつけば胸のあたりまで水が来ていた。トリは浮かんでいるのでまだ平気そうだ。
このペースだと、後数分で通路は完全に沈んでしまう。そこで私はふと閃いた。
「そうだ、二刀流だ!」
「何をするホ?」
右手に光魔法、左手に闇魔法。この2つをぶつけたら何かが起こる。私の直感がそう訴えていた。もうこの際何でもやってみるしかない。私は両手に別属性の魔法を宿らせたまま、パシンと手を合わせる。
次の瞬間、爆発的なエネルギーが発生して私は気を失った。
「あれ?」
目が覚めた時、私は自宅の玄関にいた。どうやら助かったようだ。それとも、全部夢だったのだろうか?
「ふー、助かって良かったホ。間一髪だったホね」
「ええっ? 現実?」
目の前でふわふわ浮遊するトリを見て、私は言葉を失う。やっぱり夢じゃなかったんだ。
「今回は失敗だったホね。次こそはお宝ゲットだホ。水穂、これからもよろしくホ」
どうやらトリは懲りていないらしい。はぁ、何だか先が思いやられるなぁ。
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