第24話

 なるべく冷静に描写していたが、俺はかなり精神的に動揺している。

 人の死を目の前で見た事はない。

 知識として持ってはいても、日常の感覚から切り離していたものを、現実として突き付けられ、感情が乱れている。


 林を通りすぎた時、ようやく俺は自分の手が震え続けていた事に気付いた。

 情けない。

 恐怖を抑えられないからではなく、それを忘れていたからだ。

 何とか震えを止めようとしながら、しかし同時に心の中で別の感情が息づき始める

 これまで知らなかった感情が恐怖に対抗するように高揚し、むしろ恐ろしさを楽しむかのように強くたぎる。


 それはしだいに恐怖への怯えをしのいで、俺の心を動かし始めていた。

 危険や恐怖に対し、体が無意識のうちに備え始め、理性はそれらへの対策を考える。

 いつしか震えは止まっていた。

 そして俺は一つ、決意をした。



 チカさんと縛られた盗賊たちがいる場所まで移動し、「黙信術」でねそこさんやきららさんも交えての話し合いになった。

 アドラドさんが話を切り出す。


(さて、これからどうしますか)

(ここで手を引くわけにもいくまい)

(盗賊の方からあきらめてくれはしないでしょうか)

(その可能性を捨てるべきではないし、最終的にはその形で事態をおさめるのが望ましい解決ですが、今は戦いへの準備を考える時でしょう)

(村人は死者のかたきを討つつもりだし、盗賊もまともに武装してないゴブリンの村に撃退されて、そのままおとなしく引き下がったりはしないだろうねえ)


(おにぎり有り難う)

(礼は村人にするがよいぞ)


(実行するときは村との話し合いが必要ですが、まず私たちである程度は案を決めておきましょう)

(具体的に何する?)

(まずは情報が欲しいですね。捕虜を尋問して頭や盗賊団の規模について知りたい)

(捕虜については村長と話して、処遇をどうするかまず決めないと)

(ではその後で。このあたりの地形は頭に入っているので、私とねそこさんで哨戒網を形成しましょう。これも具体的計画は村との話し合いの後になりますが)

(承知)


(治療については今は詳細な計画は必要ないでしょう。支援の中心になる場所を決めてきららさんに待機してもらい、できるだけ速く怪我人を運び込む態勢を整えなければいけませんが、それには村人の協力が必要で、つまり村との話し合いの後でなければ具体的に決められません)


(戦闘に関する計画はどうする?)

(これは治療とは逆に支援の中心地から素早く敵の来た場所に移動しなければなりません。そこは私たちだけで決めていいですが、村人とどう協力するか、これも村との話し合いが必要ですね)

(村との話がすんだら、一度みんなで戦いに使えそうな神術について何を使えるか教え合った方がいいね)

(支援の中心地を村に認めてもらったら、今後はそこを寝泊まりの場所にして、そこで詳しく話し合いましょう)


(おおまかには、このぐらいでいいかな)

(一つだけ。全面的に協力するなら義勇団の名でしなければいけません)

(恵義勇団の初仕事であるか)

(結成式がまだだね)

(本式は改めて行うとして、簡易に仮の結成式を行いましょう)


(きららさん、怪我人の様子を教えて)

(だいぶ安定してきた)

(容体が変わったら身内の人に知らせてもらうようにして、少しの間こちらに来れる?)

(行ける)

(じゃあ、ねそこさんと一緒に仮結成式に参加して)

(わかった)

(承知)



 二人が来るまでの間に俺は決意を固め、義勇団を結成した時に言う言葉を心の中で整理する。

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