第5話  ついにリオル・ダ・マオウフニャフニャとご対面


(……誰?)


 美青年は鉄の鎧を装備していて、腰には剣を装備している。


「さしずめ、ここに転生してきたってところだね?」


 美青年は爽やかな声で言った。

 ……いや、あんた誰?


「驚くのも無理はない。まあすぐ慣れるよ。僕も最初は戸惑った」


 ……だから……誰?


「やっぱ初めてだと何も言葉が出ないよね。僕もそうだったよ懐かしい」


 いやこれで11回目なんだけど。ログボでひかりよろい貰えるんだけど。ターン終了ごとにHP回復するようになるんだけど。


「あ、あの~、どちら様ですか?」


 俺はようやく口を開いた。


「僕はしがない冒険者さ。キミは?」


山田やまだマモルです」


「山田? マモル?」


「はい、どうかしましたか?」


「……どこかで聞いたような……」


 美青年は「うーん」と唸った。


「ええと、ところであなたは?」


「ああ僕? 僕はリオル・ダ・マオウフニャフニャって名前さ」


「へー。リオル……」


 って、えええええええええええええええええええええ?

 リオル・ダ・マオウフニャフニャああああああああああ?

 おまえか。おまえがリオル・ダ・マオウフニャフニャか。

 なんでこんなとこに居るの?

 この世界の救世主じゃなかったっけ?


「ちょっと初心に帰りたくてここに戻ってきたんだ」


 なんかカッケー。容姿もさることながら――、


「一番恐いのは、初心を忘れてしまうことだからね」


 言動もカッケーんだけど。


「そう。己の油断こそが最大の敵なのさ」


 かっこいいよリオル・ダ・マオウフニャフニャ。さすがこの世界の救世主。俺とはダンチだぜ。


「あ、えっと、リオル・ダ・マオウフニャフニャさん」


「リオルで良いよ。長いだろ?」


 リオル・ダ・マオウフニャフニャはウィンクした。所作がいちいちカッケー。


「えっと、じゃあリオルさん」


「何だい?」


「ここにカエル居ませんでした?」


「ああ。彼なら大層な鎧を身に着けて何処かに行ったよ」


 それ俺がログボで貰うはずだった光の鎧じゃねえか。あのクソガエルホントにパクリやがった。


「そういえばあのカエル、僕より良い剣を持っていたな」


 それも俺が貰うはずだったログボのはがねつるぎ


「『サンキューマッモ』とか言ってたな、あのカエル」


 なにがマッモだウゼえな。


「あのカエル、魔王を倒しに行くとか言ってたような……」


 無理だろカエル単騎じゃ。地獄の炎かなんかで焼かれてねーかな。


「ところでキミ、僕のパーティーに入る気は無いかい?」


「いやー、それが出来なくて……」


「どうしてだい?」


 俺はリオル・ダ・マオウフニャフニャに、全ての事情を話した。


「――ってことでして」


「なるほど。現実世界で転生しないように暮らしたいと」


「そうなんですよー」


「……ん? 待てよ……」


「ど、どうかしましたか?」


 ハッ! と、リオル・ダ・マオウフニャフニャは声を出した。


「思い出した! ボクが現実世界に居た時の話なんだけどね。主人公がかたくなに異世界転生するって作品があったんだよ。山田マモルっていう主人公だったよ」


「え? ホントですか? そんな偶然あるんですね……」


「……いや、それは本当に偶然だろうか?」


「どういうことですか?」


「もしかしたらその作品の主人公が、キミ自身なんじゃないか?」


 言っている意味が解らないのですが。


「つまり、その作品の通りにシナリオが進んでいるから、キミはずっと異世界転生し続けてるんじゃあないかな?」


「ははっ、まっさかー。そんな非現実的なこと――」


 そんな非現実的なこと――あるわ。

 だってこれまで散々非現実的な原因で異世界転生してんだもん。

 あるわ。その線あるわ。


「ちょ、ちょっと! その作品の名前って分かったりします?」


「うーん、それがどうしても思い出せないんだ。なにせネットに投稿された小説だったから。チラッと読んだ程度だし」


「ええええ?」


「でも作者のペンネームなら覚えているよ。かなり特徴的だったし。ネット掲示板でも同じ名前を使っているらしいよ」


「教えて下さい!」


「『ハトノショ』っていう名前だよ」


「ハトノショ……」


 ……ん? どっかで聞いたぞ?

 ハトノショ……ハトノショ……。


ハトノショ『私も、書いてる小説の主人公が頑なに異世界転生して困ってるんです』


 あああああああああああああああああああああああああ!

 アイツだああああああああああああああああ!

 あの時、掲示板でそう返信してきたやつ!

 ハトノショって名前だった!

 アイツか! アイツか!


「ほう、どうやら聞き覚えがあるようだね?」


「……はい。もう逃がしません……」


 そのハトノショとかいう奴の所に行って、物語を止めさせよう。

 そうすれば俺が転生しなくなるはず。

 ようやく転生しないための確かな糸口が掴めた。

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