第24話 唐突に地獄へ落ちる
俺の机には無数の落書きがされていて、机の中には多量のゴミが入れられていた。教室内を見渡すとクラスメートは小声で笑いながら俺を見ている。犯人はクラスメートで間違いないだろう。俺は下僕3号の言葉を思い出す。「今まで特別待遇を受けていたが、これからは楽しい日々に変わるぜ」そして、裃の言葉も思い出す。「下僕2号、二度と俺から逃げるという発想ができないようにしてやる。覚悟しておけ」。俺は今まで裃から特別待遇を受けていた。その特別待遇とはクラスメートから一切の関りを受けずに平穏な学生生活を与えられていたことだった。しかし俺はクラスメートのこの行動に、少しは驚いたがさほどダメージを受けることはなかった。机の落書きなどどうでも良いし、引き出しの中のゴミも捨てれば良いだけだ。そんなことよりも大変なことは、学校に登校すると全裸になる罰を与えられていることだ。制服のままで居れば裃から罰を受けることになる。どのような罰が下されるか怖いので、制服を脱ぐことにした。俺はパンイチになるまで簡単に衣服を脱ぐことができた。だが最後の1枚は抵抗がある。俺はどうしてもパンツだけは脱ぐことが出来ずに、パンイチのまま椅子に座る。
『ガラガラ・ガラガラ』
教室の扉が勢いよく開く。すると、
「お前の行動は一部始終監視されている。なぜお前は全裸ではないのだ」
「パンツだけは勘弁して下さい」
俺は涙目で晴天に訴える。
「黙れ!」
晴天は俺の額におでこを付けて睨みつけてから、お腹に蹴りを入れる。俺は体を九の字に曲げて嗚咽を上げる。
「勘弁して下さい」
胃の内容物が逆流して今にも吐き出しそうだった。しかし、その苦しみに耐えながら許しを乞う。
「お前は裃君を裏切った」
晴天は躊躇なく俺のお腹を何度もけりあげる。俺はペースト状になった今日の朝食を床にぶちまけて膝から崩れ落ちる。そして、痛みで呼吸するのが辛くなり過呼吸に陥る。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
もう許しを乞う言葉さえ出てこない。俺は床に両膝を付き頭を床に近づけて土下座のような姿勢になる。晴天は俺の髪を鷲掴みにして、ゲロまみれになった床へ俺の顔を押し当てる。
「さぁ、残さずに食べ尽くせ」
晴天は俺の顔をぞうきんのように床にこすり付ける。腐った酢の匂いが俺の鼻をへし曲げて苦悶の表情が浮かび上がる。
「無理です。本当に無理です」
悪臭のするゲロを食べるなんて無理だ。俺は必死に許しをこう。
「食べられないのなら、自分のパンツで拭き取れ」
俺は覚悟を決めて、パンツを脱いで雑巾の代わりにして床を拭くことにした。
「
「は~い」
クラスメートの1人が掃除道具入れからバケツを取り出して水を汲んできた。
「太陽、もってきたわ」
「サンキュー」
晴天は恵梨香のほっぺにキスをする。明日香は顔を真っ赤にして喜んでいる。
「ほら、これを使え」
晴天は掃除がしやすいようにバケツを用意してくれた。俺は全裸で自分のパンツを使い綺麗に床を掃除した。
「お前、童貞を捨てたみたいだな」
晴天はスマホを俺に見せつけながら耳打ちをした。スマホには俺がヤンキーに性的虐待を受けている動画が流されていた。
「やめてくれ」
「次、裃君の命令を無視したら、この動画を拡散するからな」
「は……い」
ヤンキーから性的虐待を受けている動画は、俺を性的虐待をした証拠にもなる諸刃の剣だ。動画が拡散されることは裃にとっても不利になるはずだ。この不利な状況を好機に変えるには俺の並々ならぬ覚悟が必要になる。しかし、俺にそんな覚悟があればとっくに助けを求めているだろう。俺は晴天の言葉に従うしかなかった。
ゲロの掃除も終えて、全裸で席に座り両手で股間を隠す。誰も俺の裸になんて興味はないが、みじめな姿を見て楽しんでいるようだ。中にはスマホで俺を撮影するクラスメートもいるが、俺は目を瞑って時が経過するのを待つしかできなかった。しばらくすると、1限目の授業が始まる。当たり前のように教師は俺の全裸の姿を気に留めることなく授業を始める。いつもなら、俺の存在を無視するように授業は進むのだが今回は違った。
「下僕2号君、この問題を解いてください」
俺は初めて授業で名前を呼ばれて当てられた。気の弱い俺は人前に出るのは苦手だ。黒板に書かれた数式を解くのですら緊張をしてしまうが今は全裸である。全裸で黒板の前に立ち数式を解くなんてあまりにも屈辱的だ。これは裃が仕組んだことは明白だ。ここで椅子に座ったまま反抗的態度をとれば動画が拡散される。あの動画が拡散されることよりも、全裸で黒板の前に立つ方がマシだと思い、俺は思い腰を上げて黒板に向かう。
『バタン!!』
大きな音を立てて転んでしまう。俺は古典的な罠にハマったのである。ひとつ前の席のクラスメートが俺の行く手に足を延ばして転ばせた。
「ハハハハハ、ハハハハハ、ハハハハハ」
教室中に笑い声が響き渡り俺の全身は真っ赤に染まる。あまりにも恥ずかしく屈辱的だ。このクラスに俺の味方など1人もいない。いや、それは初めからわかっていたことだ。俺は裃の特別待遇に甘んじていて本当の地獄を知らずにいたのだ。俺は裃から逃げようとしたことにより本当の地獄が始まった。
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