第21話 唐突に態度がでかくなる

 俺は目を覚ますと月明かりが照らす教室の椅子に座っていた。体は綺麗に洗い流されていて制服を着ている。そして、机の上にはロンTが綺麗にたたんで置かれていた。お尻はまだズキズキと痛いので、あの出来事は夢ではなかったと思い知らされる。



 「嫌だ。もう下僕ゲームになんて参加したくない」



 前回の下僕ゲームとは違い、今回は屈辱的なプレイをさせられて心も体も汚された。思い出すだけで吐き気が止まらない。微かに見える時計の時刻は22時を指している。今日、母親は夜勤の為、いくら遅くなっても問題ない。それだけが唯一の救いだった。



 「どうしたら下僕ゲームから逃げ出すことができるのだろうか・・・」



 下僕1号は学校を退学することで裃から逃げようとした。しかし、逃げることができずに殺された。だが本当に殺されたのだろうか?警察の発表では自殺である。全身を滅多刺しにされて自殺なんてありえないと俺は疑ってしまったが、本当に自殺だったのかもしれない。俺の思考回路は自分の都合の良い方に回転し始めた。



 「いくら裃でも警察を操れることはない。やっぱり下僕1号は自殺だったんだ」



 俺は自分に言い聞かせる。そのように考えないと俺に希望の光は輝かない。



 「俺も学校を辞めれば・・・」



 俺は学校を辞めようと考えた。しかし、学校を辞めたいと言えば母親は心配するだろう。それに学校を辞める理由を尋ねてくるに違いない。その時どのように答えれば良いのだろうか。下僕ゲームのことを離せば理解してくれるだろうか。

いや、言いたくない。ヤンキーに性行為を強要されたことを母親に説明したくない。これは、母親に心配をかけたくないという理由ではない。恥ずかしいからだ。母親には絶対に知られたくない。いや、母親にというよりも誰にも知られたくない。できることなら墓場まで持っていきたい秘密である。



 「うぅぅぅ・・・」



 再び嗚咽を上げて涙を流す。いじめられていることを告白することでさえ、恥ずかしくて人には言いにくいのに、性被害にあったことを告白することはさらに恥ずかしくて言えない。誰にも助けを求めることはできないと悟ってしまった。俺はしばらく教室で悶えるように泣いた後、夢遊病のように気が付いたら家に帰っていた。

 ハッと意識を取り戻す。すると、俺はシャワーで全身を何度も洗っていた。特にお尻は真っ赤になるほど、何度も何度も洗っていた。いくら洗っても汚れた体は綺麗になることはない。

 俺は体を洗うのをやめて風呂から出る。テーブルには母親が用意してくれた晩飯があるが食欲は全くない。しかし、晩飯を食べずに残しておくと、母親が心配するのでゴミ箱に捨てた。そして、俺は2階へ上がり自分の部屋に戻りベットに潜り込む。もう、何も考えたくはなかった。俺は目を閉じて心を無にして眠ることにした。



 次の日、何事もなかったかのように学校へ向かう。俺は心を無にして現実から逃げることは得意である。何も考えなければ心が苦しくなることはない。次の下僕ゲームが開催されるのは2週間後になるはずだ。それまでは平穏に過ごせるのだから、まだ起きていない出来事に不安で怯えるようなバカなことはしない。俺は心を無にして過ごし1週間が経過した。



 「下僕2号君、元気にしているかい?」

 「・・・」



 いつも通りに登校して席に座ると、いつもの日常とは違う風景が映し出されていた。なんと、裃が登校していたのである。学校で裃に会うのは入学式以来である。それまで裃はずっと欠席していた。俺は裃に声をかけられるが、怯えて返事をすることができなかった。



 「遅くなりましたが2連勝おめでとう!」



 裃は空虚な笑みを浮かべて俺を祝福する。しかし、俺は裃が怖くて石になる。



 「今日僕が学校に来た理由は、下僕1号君の後任が決まったことを報告しに来ました。次の下僕ゲームはチーム戦になります。下僕2号君だけでは参加することができないので、急遽新しい人材を確保したのです。僕は今から校長先生に転校生の受け入れを要請しますので、楽しみにしていてください。次の下僕ゲームでも勝利することを楽しみにしています」



 俺は裃の話をガクガクと震えながら聞いていた。今回は、きちんと裃の話を聞けただけでも成長したと言えるだろう。裃は俺の返答を聞かずに教室から出て行った。

 それから数分後、朝のホームルームが始まり、担任教師が転校生を連れてきた。転校生は下僕3号と紹介されたが、誰も違和感なく受け入れる。下僕3号は背が低く、出っ歯、団子鼻、小太り、ガマガエルのような顔、服は俺と同様に黒のロンTを着せられていた。下僕3号は空席だった下僕1号の席に座る。転校生の紹介が終わり1限目の授業が始まった。下僕3号は俺と同様にクラスメートから話しかけられることなく全ての授業が終了した。

 俺は授業が終わり帰り支度を始める。すると、下僕3号が俺の机まで走ってやってきた。



 「初めまして2号先輩。これからよろしくお願いします」



 下僕3号の顔はたくさんの吹き出物ができていてガマガエルのような顔をしている。ニコニコと話しかける声もだみ声で歯切れの悪い耳ざわりな声だ。そんな下僕3号に俺は好感を持てる相手だと思った。俺のようなブサイクの陰キャは、自分よりも外見が悪く弱そうな相手には横暴な態度をとってしまうのだ。



 「おう。こちらこそよろしくな!」



 俺はあたかも自分が強者になった気分で下僕3号にあいさつをした。





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