第10話 唐突に世界は入れ替わる

 世界が入れ替わる。


 そこは漆黒の闇が支配する場所、空には不気味な赤い満月が輝き、限られた地点のみをスポットライトの如く赤く照らす。地面はガラスのように透明で、地中の奥まで見渡すことが可能だが、奈落のように深く暗闇しか見えない。



 (纏ちゃん、ここはどこなんだ!)

 


 先ほどまで俺は公園に居た。しかし、唐突に世界が入れ替わってしまった。青い空は漆黒の空に、眩しい太陽は真っ赤な満月に、噴水のある静かな公園は、何もない真っ暗な空間に、芝生が生い茂る地面は、底のない無限の暗闇に変わった。こんな景色はテレビでも見たことがない。ここは俺が住んでいる地球とは別の世界であることは容易に想像することができた。



 (ここは新人間ニューヒューマンが本来住むべき大地【現世うつしよ】よ。新人間は【現世】を離れ【常夜とこよ】に入り込み、旧人間シンプルヒューマンの世界を乗っ取ってしまったのよ)

 (ちょっと待て、話が唐突過ぎて理解できない。もっとわかりやすく説明してくれ)


 (そうね、あんこちゃんが住んでいる地球という世界は、人間が暮らしている大地。ここは、暗黒生命体と呼ばれる種族が住む暗黒球ブラックボール。私たちはこの場所を現世と呼び、あんこちゃんのいた世界を常夜と呼んでいるの)

 (ここが地球ではなく、新人間がすんでいる場所なのは理解した。前にも聞いたが新人間とは一体何者なのだ?)


 (新人間とは、この暗黒球に住む暗黒生命体が、闇の力を使って地球に転移して、人間の妊婦の体内に入り込み、赤ん坊に寄生して生まれてきた人間の事を指すの。人間として生まれてきた暗黒生命体は、基本構造・外見・能力などは、ほぼ人間と同じなので、肉眼で暗黒生命体だと見分けることは不可能なの。そのため、暗黒生命体は人間として違和感なく人間社会に溶け込み、人間として生活をして子孫を残し、人間として死んでいくの。しかし、暗黒生命体としての遺伝子情報は子孫に受け継がれることはないので、親が暗黒生命体でも、生まれてくる子は純粋な地球の人間になるの。つまり、暗黒生命体が寄生している人間を新人間ニューヒューマンと呼び、純粋な地球の人間を旧人間シンプルヒューマンと呼んでいるのよ。さっきまで公園で女の子を襲っていたのが、新人間になるわ)

 (俺たちの世界は、知らず知らずのうちに新人間が紛れ込んでいて、人間として生活をしているのか)


 (簡単に言えばそういうことね。でも、あんこちゃんがいる世界は、あんこちゃんが思っているよりも絶望的なことになっているわ)

 (どういうことだ!俺たちの世界はどうなっているのだ)


 (ずばり、新人間に完全に支配されているわ)

 (そんなことはない。決して平和な世界とは言えないが、化け物になんかに支配されていないぞ)


 (あんこちゃん、さっき公園で見た男性は人間だったかしら?)

 (いや、気持ち悪い姿をしたガマガエルだった)


 (そう、第三の目サードアイで見たから本来の姿を見ることができたのよ。もしも第三の目で見ていなかったら、あの男性はただの変質者としか映らなかったはずよ)

 (たしかにそうだ・・・)



 俺は反論できなくなる。



 (本当に俺たちの世界は、あの化け物のようなガマガエルに支配されているのか?)



 俺は信じたくはない。だから敢えてもう一度まといに問いかける。



 (そうね。でも実際に地球を支配しているのは偉人パーフェクトヒューマンと呼ばれる地球の近代化に貢献した新人間よ)

 (偉人?)


 (そうよ。新人間には4つのタイプが存在するの。変人アグリィヒューマン奇人エキセントリックヒューマン怪人モンスターヒューマン偉人パーフェクトヒューマンの4つに分類されるわ。女の子を襲っていたのは変人と呼ばれる新人間よ)

 (4つのタイプの新人間が人間として地球で生活しているんだな)


 (正解よ、あんこちゃん。さてさて、説明は一旦この辺で終わらして、変人のハントを再開するわね)

 (わかった)



 そこには赤い満月がスポットライトのように3つの物体を映し出している。1つは金髪ツインテ―ルの美少女、もう1つは黒い毛並みの猫、そして、最後の1つは1m程のガマガエルのような生き物であった。その姿は全身を茶色の皮膚に覆われていて、その皮膚は無数のイボが突起している。緑色の大きな2つの目が頭部から触角のように飛び出していて、大きな口は体の半分を占めていた。

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