二度目の人生はハズレ魔法〈影の魔法〉で異世界無双!

我社保

第1話 クライズ・ヘットフィールド

 目を覚ますと、横に黒髪の欧米風の顔つきをした美女がいた。

 おっほー、という感じだが、状況がおかしい。

 美女のサイズあるいは俺自身のサイズがおかしいのだ。


 大きな美女だ。ナイスバディという感じではない。

 人によってはナイスバディかもしれないけれど、どちらかといえばビッグボディだ。

 そう、大きいんだ。視界の広さが一般的な感覚を基準として考えた場合、美女は中途半端なウル○ラマンくらいの大きさ。

 ただの美女じゃねぇぞ。ド級の美女、ド美女だ。

 

「ッタァウ?」


「誰ですか」と口にした気でいた。

 呂律が回らず、まるで赤ん坊のような言葉が出た。

 いいや違う。まるで声が高すぎる。成人男性の低い声の面影もまるでない。

 どういうことだ!? …………どういうことだ!?

 困惑していると、美女が声を上げた。


「-・・・- ・・-・ # ・・・- ・・-・ # ・・-・ ・-・-・ ・・-・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ・-・・ ---・- -・-・・ ・・ ・-・-- ・-・・・ -・・-・ --・-・ ・-・- ---・- -・-・・ ・・ -・--・」


 シャープっつたぞ! このおねーさん! 会話で「シャープ」って言う機会ねぇーよ! シャーペン製造元の職員でもないかぎりねぇよ! なんだこいつ!?


 美女は此方に腕を伸ばして、軽々と持ち上げた。

 辞めろォ! おろせ!

 チクショオ……声さえ出せれば助けを呼べるのだが。


「ッツァアウッッッ!」

「-・ -・・- -・・-・ -・-・- ・-・・・ -・・-・ ・-・-- ・・ -・-- # ・-・ ・-・・・ ・- #」


 またシャープっつったぞオイ!!

 何語だお前それ! ちゃんと俺のわかる言葉で喋れや!


「ッァアタァァアアウゥッ!」

「・・-・ ・-・-・ ・・-・ ・-・-・ ・-・・ ・・ ・-・-- ・・ ・-・・ ---・- -・-・・ ・・ -・--・」


 シャープって言わなくなっちゃった……。

 誰かマジで助けてくれ~!



 ◆



 という焦りが当時はあったな、という感情がある。

 いろいろ心が落ち着いて来たので、状況を簡単に整理できるようになったので纏めてみようと思う。


 ①俺は死んでしまっていた。

 ②いまの俺は転生した姿。

 ③ここは日本の存在しない全くの異世界。

 ④父は会計士、母は専業の主婦。

 ⑤俺の名前はクライズ・ヘットフィールド


 シャープだなんだという不明の言語はこの世界の言葉らしい。

 だいたい慣れてきて、聞き取ることが出来るようになった。

 まさかゼロ歳から生まれ直そう事になるとは思っても見なかった。


「…………」


 3歳になると、村の図書館でいろいろな本を読んでいた。

 そのおかげでいろいろな言葉を憶えられるようになった。

 この世界には魔法があるらしい。

 魔法といっても全員が同じように同じ魔法を使えるわけではない。

 4歳時点で、人には魔法の属性が備わる。

 属性は〈炎〉〈水〉〈木〉〈光〉〈影〉の5つ。

 人は、自分に見合った種類の属性しか芽生えず、使える魔法もその5属性や、魔力を壁や盾にして行われる〈防御魔法〉の様な、無属性魔法ばかりが使えるらしい。

〈影〉の属性は「影に当たり判定を与える」というだけの属性。

 世間的にはハズレ属性と言われている。

 他のどの属性にもある攻撃性が全くなく、ただ影が触れるだけの属性。


「影だけは嫌だなあ。キモくて嫌いだわ(笑)」


 それからまた時が飛んで、周囲の子供達がみんな属性を持ちはじめる頃合い。俺にも芽生えた。

 炎は吹けないし、水は操れないし、木を操れるという訳でもないし、輝きを放つ訳でもない。

 俺は〈影魔法〉だった。


「クライズに触られたら影魔法が感染するぜ!」

「キャー逃げろぉ~っ!」


 これだからガキは。


「ちんこ舐めさせろ……!」

「なんだこいつ!?」

「クライズに捕まったらちんこ舐められるぜ!?」

「ギャー逃げろォーッッ!!」


 俺はいじめっ子のちんちんを追いかけた。

 俺は前世でも生まれたときからの、根っからのエロガキだった。

 前世でもガキのころからちんちんやらちんちんじゃない方の性器を追い求めて、ちんちんじゃない方の性器を追い求めすぎてどえらい正義に追いかけられたこともあった。

 どうして死んだのかも思い出したが……まぁそれは面白くないし言わなくてもいいか。

 ぶっちゃけ異世界転生ものって主人公の前世とか興味ない。

 おっさんとかでも無条件に若返ってバカチンポになるし。

 若者が転生した場合はさらにイカレたバカチンポになる。

 記憶するだけ無駄な情報だから、そもそも読み飛ばします。

 走馬灯にねっとりいじめ描写とか出てきたら普通に嫌だ。


 そんな調子で影魔法差別者のちんちんを追い掛けて十数年。

 やっぱ影魔法差別って糞だわ。キモくて嫌いだわ。

 今日も今日とていつものように畑を耕している。

 やっぱ魔法の属性が〈影〉だとやれることが限られて来るんだよなぁ。前世と同じようなことしかできない訳だし。

 つまんねーなー、と思いながらクワを肩に担いでみる。


「ごめんねぇ、ごめんねぇ、クライズくんねぇ」

「ミーシャばあちゃんまたっすかぁ?」

「ハシクラマコトを知らないかい?」

「ハシクラマコトなんて知りませんよ。前役所で調べてもらったでしょ。ほらほらどいたどいた。熱中症なって倒れちまうよ。帽子上げるんで使ってください」

「ハシクラマコトを見つけないと」

「うーむ」


 ミーシャばあちゃんは、昔は、周りの圧を跳ね退けて俺にも優しくしてくれるハキハキした人だったが、やっぱり十数年も経てばボケてしまうらしい。

 ミーシャばあちゃんのカボチャのパイ、また食べたいぜ。


「ハシクラマコトを見つけないと」

「ばあちゃんはその人をなんで見つけたいんだ?」

「ハシクラマコト……ハシクラマコト……」

「あっ、無視しないでくれよな~頼むよ~」


 追い掛けると、どんどんと暗い森の中に入っていく。


「ちょっとばあちゃ~ん。止まってよ~。おっぱいチウチウしちゃうぞ~」


 ばあちゃんは止まらない。いつものようなヨボヨボな身体にほとばしるパワーッッ!?


「ばあちゃん!? 待ってマジで待ってご老体で森はダメだってほんとうに! やめてくださいよ本当に! おいッ!? 頭クライズかテメェッッ!? おいこらババアッッ! レーズンパイかテメーはよォーッ!?」


 ばあちゃんが動きを止める。両手に炎が宿る。


「すんません……チョーシこいてました。ばあちゃんはアップルパイです。出来立てぴちぴちの……」


 炎が大暴れ! ちょっと待ってほんとに待って。


「ばあちゃん待って! マジで頼むから! 森燃やしちまうよぉ!? 俺達こんがり綺麗な鶏皮せんべいみたいになっちまうよぉ!? ビールもねーんだから買ってくるまで落ち着いて!」


 右足が燃えた!


「ンヒァ!! マジィ!? あぇ~……」


 頭を使え。頭を使え。頭を使え。頭を使え。頭を使え。頭を使え。頭を使え。頭を使え。頭を使え。

 使える頭が、俺にねぇよ……。


「ハシクラマコトを知りませんか」

「しらねぇよ……物知りおばさんが知らねぇことを俺が知ってるわけねーだろ。美容液間違えて脳みそにぶっかけたもんだから脳みそのシワ全部なくなっちまったのか?」


 一か八かで俺の〈影魔法〉で……なんとかなんねーかな!?

 やってみる価値がまるでない……!


「ハシクラマコトってなんすか……」

「閲覧は制限されています」

「ハァ!? マジでわっかんねぇよ! じゃあ教えようも探し様もねぇわハゲ! 若者は万能じゃねーぞ!」

「ハシクラマコトにおけるあらゆる情報の秘匿は帝国陸軍法第零条に違反しています。ハシクラマコト秘匿罪で処刑します」

「マジで?」


 やめろ。


「やめてくればあちゃん」

「私は帝国陸軍第零部隊『上流局』所属ミーシャ・ホームズ。貴様ら国売りの祖母になった憶えはない! 死んでもらう!」


 ああ、きっと頭がほんとうにイカレちまったんだ。

 テメェのことを軍人だと思い込んでやがる。

 老人にはよくあることなんだよ。俺の祖母も俺のこと……。


牧原まきはらまことって呼んでた……」

 「死に首を晒せ」


 手の平を向け、〈影魔法〉のイメージを起こす。

 いままで魔法なんて使ったことがなかった。どうせ使えないから。

 でも、なんだ、いまなら使える。そんな気がする。

 俺の直感ってマジで当たるから。


「抵抗は無駄だ!」

「俺の抵抗が無駄だったかどうかなんて……」


 腕から黒い触手が溢れ出す。


「閻魔様にでも聞いてみな」


 ドバーッと溢れ出した触手はミーシャばあちゃんの影に潜り、影を伝ったのか、口から出た。

 内臓系がボロボロになったのか、ミーシャばあちゃんは血を吐いた。


「ぐ……ウゥ……」


 皮膚が裂ける。皮膚だけじゃない。骨が折れて肉が潰れる。

 まるで魔力の制御ができない……!

 そりゃそうだ! 他の奴らが当たり前に使い始める年齢の時も頑なに使わなかった! そのつけがきてるんだ……!

 まるでなってないじゃないか!


「引っ込め!」


 引っ込んだ! よかった~!


「ばあちゃん!」


 ばあちゃんが目を覚まさない。

 はやく治癒してもらわないと……。

 ああ、くそ、ああくそ! ここまで壊れてりゃあとなんかい壊れても同じか……。

 最小限の出力で触手を出して──でもやっぱり腕は壊れつづけた──ばあちゃんを俺の身体にくくりつけて、村に下りる。

 治療院の入口のところにばあちゃんをおろそて、扉をノックする。

 見つからないようにすぐに立ち去る。

 腕も脚もいてーけど……ばあちゃん傷付けた罰だ。

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