第47話 排除

 旧プロムナ王国の残党による蜂起から3ヶ月が経過した。最初は押し込まれていたヴィクル帝国は、主力軍が駆け付けた事で押し戻し、残党を国境の川の向こうであるスレイ公国側に追い出した。捕まえられた元王族や貴族は国家反逆罪として処刑された。

 現在ヴィクル帝国の主力軍はスレイ公国軍と国境で睨み合いつつ時折小競り合いを行っていた。

 スレイ公国は水軍が強いため、ヴィクル帝国は、川を挟んで対峙する事になる旧プロムナ王国領側から攻める事が出来ないでいた。

 また北方はそういった天然の要害はないけれど、国境沿いにスレイ公国の長大な要塞あるためそちら側から攻めても、ヴィクル帝国は多大な被害を出すだけだった。

 攻めたほうが負けという状態なので、お互いに遠距離から魔法の撃ち合いと罵り合いをしているだけだった。


 山岳地帯にはドラゴラ首長国軍が進軍してきた。山間の砦を作り防衛しようとしたけれど、圧倒的に数的優位性があり、火属性の魔法が得意なドラゴラ首長国軍は、山岳地帯に進入すると砦までやって来ず、周囲の森を焼き払い始めた。ムンディルファリ辺境伯軍を燻り出して早期決着を狙ったようだった。

 そんな事をされ続けてはたまらないため、俺とマーニはドラゴラ首長国軍の陣地を回って、マーニの収納に収めていった。


 ヴィクル帝国とドラゴラ首長国は大砂漠に近い平原で衝突していたけれど、山岳地帯と旧プロムナ王国領側の軍隊の消失を聞き、ドラゴラ首長国軍が大砂漠まで撤退をした事で争いは終わった。

 ヴィクル帝国には大砂漠を進軍できるような部隊は存在せず逆侵攻は行わない。今後は捕虜の扱いも含めた停戦に向けた話し合いが行われる事になるそうだ。


△△△

 

 聖女と7人の勇者達と遂行のラステア聖国の聖堂騎士団16人の集団は、スレイ公国で船に乗り込み、旧プロムナ王国の浜から上陸したあとムンディルファリ辺境伯領の近くまでやってきた。街や村で無理やり物資の徴発を行うというかなりの傍若無人っぷりだけど、ダンジョン産の装備を身に着けた彼らを止められるものはいなかった。


『ヤツらをどうするの?』

『野盗として捕まえるよ、処分は被害者たちがしてくれるでしょ』


 ヴィクル帝国の旧プロムナ王国領でのラステア聖国の評判はガタ落ちしている。ヴィクル帝国に併合された事に対して反発的だった人たちは、彼らの事を当初救世主だと期待したため、彼らに協力的だった。けれど財や食料を奪われたうえ、理不尽にも少ないと言われて暴力を振るわれた事で、今では反ラステア聖国的な考えに変わっていた。


「シケた所だな」

「ヴィクルのせいさ、プロムナ王国在りし日は、民はもっと従順だったんだ」

「ラステア聖教の素晴らしさが分からぬ邪教徒など滅びればよいのだ」

「魔王エリを討伐した暁には彼らも浄化してしまいましょう」


 これからムンディルファリ辺境伯領に乗り込むという事で、麓の伯爵領の街の最高級の宿屋から客を追い出し豪勢な食事を取っていた。どういう風に教育を受ければこういう傲慢な人間が育つのだろうか。


『聖堂騎士とは随分と邪悪な精神を持った奴らの事なんだな』

「ひっ・・・光の妖精様!?」

「わっ・・・我らにご加護を!」

『あぁ・・・世界のためにお前らを浄化しような』

「ギャッ!」

「何をっ!」


 プロムナ王国にいた聖堂騎士団も、訳の分からないエリート意識を持っていたけれど、何なんだろうな。

 耐闇属性耐性を上げる装備である指輪やら腕輪を取り除く為に腕をレイで切るとばしてマーニの収納に入れていく。首輪や鎧など致命傷を与えず外すことが出来ない奴は、収納に入れるためには気絶させる必要があったため、一旦首を切り飛ばし、収納に入れたあと装備を剥がして完全に死ぬ前に回復させるという手間が必要だった。


 俺は残していたスコルの前に姿を現した。最後に話して、怒りが湧くのか試そうとおもったからだ。


「ソールっ! どうしてこんな事をっ!」

『こんなクズ共は世界に不要だろ?』

「そんな事無いっ! 聖女と勇者はこの世界には必要なのよっ!」

『そうか・・・ソールマーニの街で、少しはまともになったと思ったけど、汚れた心のままだったんだな』

「私は聖女よっ! 汚れてなんかいないっ!」

『だってお前は人殺しだろ?』

「人を殺した事なんて無いわっ!」

『階段で人を突き落として殺しただろ?』

「えっ?」

『生まれ変わったのに反省する事も無く、自分が世界の主人公と勘違いし、その醜い心のまま育って、ほんと汚れた女だよな』

「なっ!」

『そんな汚れた女が聖女な訳ないだろ?』

「そっ・・・そんなの私には関係ないわ! だって私とは別人の事だものっ!」

『関係あるんだよな。だってお前に殺されたのは俺だからね』

「はっ・・・はぁ!?」

『天野タイヨウ、それが俺の前世の名だよ、牧瀬リカさん』


 俺の告白にスコルは目を見開いて驚いていた。口をパクパクさせて


「あっ・・・あんたのせいで私の前世はグチャグチャよっ!」

『俺はただの被害者だろ?それにお前の理屈だと前世は別人らしいしな』

「あんたは前世の仕返しをしたって事!?」

『いや?最初はお前の村を守ってたよ。あの村の周囲に魔物とか盗賊がウヨウヨいたしな』

「えっ?」

『でもお前が前世で俺を殺した奴だと気がついてな、だから守り導く事をやめただけだよ、その後はお前が勝手に自爆したんだ』

「私が自爆ですって!?」

『村娘として普通に生きる事も、貴族の娘として贅沢に生きる事も、冒険者として自由に生きる事も出来たのに、捨てたのはお前だろ?』

「私は聖女よっ! だからラステア聖国に行くのは当然じゃないっ!」

『クズ共を引き連れて故郷の村に行ったら、両親や兄妹がどんな目に合うか分かるだろ? 何で連れて来た?』

「聖女は勇者達を引き連れて魔王を倒さなければならないのよっ!」

『数年前は、魔王候補だったハティを籠絡しようとしてただろ。冒険者してた時はソールという奴に懸想もしてたよな?お前の言葉は薄っぺらいんだよ』

「あんた! 私のストーカーしてたって言うの!?」

『逆だよ。お前は幼い時、光の妖精である俺を追い回し、そのあと魔王化しそうな男のいるヴィクル帝国に行ったらお前がやってきて、魔王化を防いだあと復活したダンジョンの管理をしていたらお前がやってきて、迫害された鳥人族を見つけたので見守ってたら、その地を守ってくれている人をお前は魔王だと言って攻めて来たんだよ』

「そ・・・そんなの知らない! 私の行く先にいるお前が悪い!」


 なるほど・・・この女はこういう考え方の女か。マーニが予測していた通りだな。


『お前は俺を階段で突き落として殺した時も、お前の前にいた俺が悪いって考えるクズだもんな』

「そっ・・・その通りじゃないっ!」

『じゃあお前は、光の妖精である俺の行動を邪魔したから排除されても良いよな』

「光の妖精であるあんたが聖女である私を殺すって言うの?」

『俺はビッチなんて聖女と認めてないしな』

「ビッチですって!?」

『幼児の頃から逆ハー狙いの計画立てる女なんてビッチそのものだろ』

「えっ?」

『俺も元日本人だしお前のメモぐらい読めるぞ?』

「あっ・・・」

『まぁ殺しはしないよ、目障りだから排除するだけさ、大変だけど自給自足生活頑張って』


 俺はスコルの首をレイで切り落とし、マーニに収納させた。高級旅館の客室は無人になったため静かになった。客室に宿泊代と迷惑料に相当する金貨の入った袋を置いたあと、収納に入れていた従業員達をもとの位置に戻して高級旅館を出た。


『どうだった?』

『前世の俺は、随分と下らない奴に殺されたものだと呆れたよ』

『怒りは感じた?』

『感じなかったな、関わって来なければどうでも良い相手だ』

『無関心なのね』

『今が幸せならそれで良いんだ』


 怒るために時間を使うなんて勿体ない、それより悲しくなった気持をなんとかする方が大事だ。


『こらっ! 抱きつくなっ!』

『今日は黙って抱きつかせて・・・』

『悲しいの?』

『うん・・・』

『・・・仕方ないわねぇ・・・』

『ありがとう・・・』

『ううん・・・でもフレイに抱きつくのは駄目よ?』

『善処しよう』

『絶対よ?』

『検討しよう』

『抱きつく気だな?』

『うん』

『ガティといる時は駄目よ?』

『分かった』


 ガティとは、山岳地帯に隠れ住んでいた竜鱗族達の赤ん坊だ。どうやらフレイと念話を交わす事が出来るらしい。赤ん坊であるため、はっきりとした意思までが伝わって訳では無いようだけど、フレイはその子が自分の導く相手だと認識しているようで、ガティの家族を守りたいと言い出している。最近は俺とマーニと別行動を取る事が多くなっているのが少し寂しく感じる。


『愛してるよ』

『はいはい』


 マーニの呆れたような反応を聞きながらも、暖かさと幸せを感じていた。

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