第31話 共通認識

 俺が皇帝とパロヴィラ公爵への根回しを終え、エルブンガルド大使館で待っていたマーニとマーナに成功を伝えた翌日、マーナとマーニもハティに会いに皇宮に出かけて行った。そして意外と短時間で帰って来るとマーニがなんか挙動不審でマーナがニコニコしていた。


『随分と早かったね』

『ちょ・・・うまく説得出来たからね』

「おし・・・説得がうまくいって良かったです」


 あれ?今、調教とお仕置きって言おうとしなかった?


『精神魔法とか使わなかったでしょうね』

『そんなのしなくても追いつ・・・説得出来たわ』

「そうですそうです、過去をバラ・・・説得できるものです」


 あれ?今、追い詰めるとか過去をバラスすって言おうとしなかった?

 なんでマーニは挙動不審なんだ?

 なんでマーナは笑顔でブツブツ呟いてるんだ?


 呟きが「100歳超えのババアだと?」とか「甘えん坊のくせに調子こきやがって」とか呟いてるのは幻聴?

 俺と皇帝とパロヴィラ公爵の共通認識ではマーナは超善人だったのに違った?

 ハティの心に深い傷を作ったりしていない?

 穴がないくせに、小さなつぶやきでも聞き取れる妙に高性能な俺の耳が誤作動起こしただけだよね?


 最近ソールマーニという名が正式に承認されたばかりのダンジョンがある街にある「大樹」のホームにマーニの瞬間移動で帰ったあと、マーナが甘いものをドカ食いして眠りについた。

 挙動不審だったマーニがやっと落ち着いて、説得内容の詳細を教えてくれた。


 ハティは最初、スコルの二面性を理解しようとせず、頑なに言う事を聞かなかったらしい。だからマーニはハティをスコルの部屋に瞬間移動で連れて行き、ツインドリルちゃんの筆跡を真似て何度も書いては失敗している状態の脅迫めいた文面の手紙が引き出しの奥に入っている所を見せたそうだ。そしてもしこれと同じ内容に手紙を見せられているなら、スコルがツインドリルちゃんに冤罪をかけているんだよと言ったそうだ。

 それでもハティはウジウジ言い続けたので、マーナが「チュシン(愛人に溺れて栄華を誇った大国を1代で滅亡まで衰退させた愚王)になるつもりなら皇帝にさせられないわよ」と言ったらしい。

 そこでハティが「200歳の女には愛が分からない」と言ったらしい。そこでマーナから風呪文が詠唱されていないのに何故か風を感じ、瞬間移動かと思うぐらいの速度でハティに近づくと、ハティの頭を掴んで持ち上げ汚い言葉で罵りだしたらしい。

 マーナはハティの幼少期の失態などもあげつらって追い詰め、いつの間にかハティはマーナにイエスマム的な事しか言えない状態に調教していたらしい。

 マーニは放心していたという割にはハティが瞬間移動で逃げるのを妨害していたそうなので、話半分に聞いたほうが良さそうだけど、マーナを年齢でからかってはいけないことは良くわかった。


△△△


 その1ヶ月後、皇宮でハティとツインドリルちゃんの婚約発表があり、3ヶ月後に結婚式が行われる事が発表された。

 ツインドリルちゃんと同じく側室候補となる婚約者2名も同時に発表されたのだけれど、その中にスコルの名前は無かった。どうやらツインドリルちゃんと仲良くという道は無理だったようだ。


 3ヶ月後に行われた結婚式には俺とマーニやマーナも出席した。

 俺は天井から幻想的な光の演出をし、マーニは収納から真っ白い花びらを大量に撒いた。


 ツインドリルちゃんのお腹は若干膨らんでいたので懐妊している事が分かった。マーニが闇魔法での透視的な事で性別判別を成功させ男児だと分かったため、俺とマーニは、お腹に居る子を健やかに育てれば素晴らしい皇帝になり大いにこの国は大いに栄えると宣言した。

 育てられるかどうかはわからない、3代正統に後継が繋がるならそれは国家の安定を意味しているので栄えるだろうと予測を述べただけだ。

 けれどソールマーニの街で聞いた噂は、ツインドリルちゃんが産んだ子が皇帝にならならなければこの国は滅びるといった内容だった。伝言ゲーム怖いわぁ。

 他国からツインドリルちゃんに暗殺者とか送られそうなので、俺はラタトスクと名付けた前歯が長い栗鼠のような聖獣をツインドリルちゃんに贈った。光属性を使えるの聖獣なので結界や回復でツインドリルちゃんやその子を守ってくれるだろう。


 マーナはまだ年齢の事を引きずっていた。まだ128歳。耳長族的には10歳から15歳ぐらいの扱いなんだよね。ハティも200歳はないよね。せめて100歳って言えばこんなにならなかったんじゃないかな?


 マーナのお相手探したいけど、耳長族って排他的な所があるからエルブンガルド以外では殆ど見かけないんだよね。ソールマーニには多くの種族が集まって居るっていうのに耳長族はマーナだけなんだよね。


△△△


 ハティの結婚式から3日後、何故かスコルがソールマーニの街にやって来た。そしてシェリアという偽名で冒険者登録をして活動を始めた。光属性魔法が使えるとして注目を集めたからか、「レッドテイル」「ブルーシャン」「グリーンフォレスト」が合わさって出来た、今では金級となっている「三原色」の9人目のメンバーとなり最前線争いに名乗りをあげた。


「シェリアちゃん、こっちもお願い」

「ハーイ」


 スコルが他の冒険者の要請に応えて回復魔法を唱える。1回小銀貨1枚。ポーションの買取価格銀貨1枚の10分の1で同程度の効果。冒険に出ない日で、1日で10人程度しか見れないけれど、怪我が多い冒険者達に有難がれて居る。

 ちなみに教会でお願いすると銀貨1枚。ポーションの買い値は銀貨2枚なので有難やれるのは当然とも言える。


 俺は皇都の教会で週1ぐらいに無償で100人ぐらい治療し、マーニがポーションを50本ぐらいポーションを渡して、帰りにポーションが100本ぐらい入った箱を置いていく。

 もうマーニをこの国で妖魔と認識する存在は皆無となっている。

 ポーションはノーマルガチャを回せば高確率で出るものなので、処分をお願いしているようなものだ。無限に渡す事も出来るけど市場価格を考えて抑えている。冒険者の儲けを奪うつもりは無いのだ。


「トールさんって昔どこかで会ったことないですか?」

「多分ないと思いますけど・・・エルブンガルドに人間族の方が来ることは稀ですから」

「そうですよね・・・私もエルフの方に会うのはこの国にきて初めてでした・・・でもなんでだろう?」

「エルフの方?エルブンガルド人って事ですか?珍しい呼称ですね」

「そ・・・そんな感じです」

「まぁ他人の空似でしょうね、私は人間族の方に顔形が似ていると言われて居ますから、どなたかと似ているのでしょう」

「そうですね・・・」


 トールの顔の造形は前世の俺をベースにしてるからな、スコルはその顔でも思い出したのだろう。


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