妖精は逆ハー狙いのビッチが嫌い
まする555号
第1章 打算的な性女編
第1話 逃げるんだよぉ!
「待ってぇ!」
ぜってぇ待たねぇ! 逃げるんだよぉ! あばよ性女っ!
幼女から逃げている俺は、聖女を導くとされる光の妖精だ。
ここが乙女ゲーム「聖女と7人の勇者様」とやらの世界だと知った俺は、将来聖女予定とされている見た目幼女のビッチから逃げているところだ。
△△△
ある日俺は、日雇いの土方の仕事が終わり、事務所で作業着を返したあと、疲れた体を引きずるようして駅の長い階段を上がっている最中、スマホをしながら階段を登っているOLっぽい女の転落に巻き込まれて死んでしまった。
俺を巻き込んだ女は階段で躓いて「キャっ」っといったあと、靴の踵が折れたのかめちゃくちゃバランスを崩し、体をぐるんと錐揉み回転させ「あっ」と言いながら俺の方に向かってダダダと駆けるように落ちてきて、俺の胸をドンと突き飛ばしやがった。
俺は余りの事に体が反応出来ず、真後ろに向かって倒れてしてしまい、視界が超スローモーションになり、階段の踏み足を乗せる面よりさらに体が下がってこの角度はヤバいよなぁ、でも階段だもんなぁと思いつつ、女のケバさと香水臭さと、さらに女の手を離れて飛ぶスマホの画面にソシャゲのガチャっぽい虹色のクリスタルが映ってる画面を見て、こいつこんないい歳してソシャゲかよと思った瞬間に頭に強い衝撃を感じて意識を失った。19歳独身で素人童貞だった俺の真冬の出来事だった。
△△△
そして生まれ変わったのはなんとセミとトンボの中間の様な形の透明の羽根が背中に生えた人型生物で、俺を産んだのは、今、眼の前にある光り輝く木だった。
透明の羽根と言ってもセミやトンボの様に葉っぱのような筋が入ったプラスチックの様な羽根じゃなく、そこにあるし形も分かるんだけどハッキリと見えないといった曖昧な感じの羽根だった。
それにしても人の気持が分らない人の事を木の股から産まれて来ると言うけど、俺はそれになってしまったようだ。
とは言ってもそのまま木の股から直接産まれたのではなく、この木が落とした実から産まれたので違う。例えその実が転がっているのが根の形が股になってる付け根だとしても、それは実が転がった方向がそっちだっただけなので勘違いしないで欲しい。
同じ人外な生まれ方じゃねぇかと言われるかもしれないけれど、違うんだ。だって俺、人だった頃の記憶を持っている生き物だ。つまり人の気持が分かる人外になってるのだから木の股から産まれたと揶揄されるのは勘弁して貰いたいのだ。
俺はパカっと割れた実から這い出てた時に、母さんみたいな存在であろう輝く木から、「人間の世界に行って、純粋な心を持った乙女に会い、守り導きなさい」と言われた。
言われたといっても脳内に直接語りかけて来る感じなので、一方的に伝えて来たという感じだ。
そもそも脳に直接と言っているけど俺に脳がある生き物なのかも怪しい。だって色々何か変なのだ。
例えば俺は飛びたいと念じれば体が浮く。羽ばたかせなくても空を飛べるのだ。
それに母さんみたいな存在である木みたく体をピカピカ光らせたり出来るし、その色も自由自在に変えられる。
裸は恥ずかしいなと思ったら体からワサワサと光の糸みたいなものが生えて来て体にフィットした服になってくれた。
つまり人型だけど完全に人外の存在で良く分からない生き物なのだ。
そもそも体が小さい。周囲あるのは自然物ばかりで・・・。
いや、どこが自然だよというツッコミは待って欲しい。要は植物や岩石などは周囲にあるけれど、人工物がないって言いたいだけなんだ。人工物さえあればその大きさを見て自分の体の大きさを予測する事が出来るでしょ。
例えば前世の死んだ日の現場で使っていた角スコや猫車があれば、グリップ部分の大きさからそれを使う生き物の手の大きさを予測できるじゃない?
今はそれが無いから、花びらの一枚一枚が俺の手のひらより大きな花があったり、俺の頭ぐらいの虫がその花の花粉を集めていたり、その虫の仲間を丸かじりしている虫が居たりするので、うわ、俺の体小さすぎと思っているだけなのだ。
母さんみたいな存在であろう木には、どこに行けばその純粋な心の乙女とやらが居るのかを教えて欲しかったけど、俺に命令を伝えたあと、輝かなくなり黙ってしまった。
今世の俺は生後1分も経たず母親にネグレクトされてしまった訳だ。
生後マイナスなネグレクトかます託卵生物のカッコウよりもダイナミックな育児放棄じゃないけれど、前世の俺は赤ちゃんポストに投函された孤児だったので、今世でも母親の愛を知らずに育つのかよという気分がしてゲンナリした。
孤児院の院長先生をしていた50過ぎのババアの事を、心の中じゃあ母ちゃんと呼んでたので母親の愛を知らないとはちょっと違うかも知れないけど、それでも手を繋ぎあって「今日の飯はなぁに?」「ハンバーグよ?」なんて会話をしている親子を羨ましいとは思っていた。
でも、大した恩返し出来ずにくたばってごめんよ母ちゃん。
しばらく自分が入っていた木の実の果肉部分を食べながら、いや食う必要がある体なのか不明だけど、いくらでも口に入れても満腹にはならないので暇つぶしに摘みながら思案にくれて過ごしたけど、母さんみたいな存在である木は、またピカピカ光ってくれないし、他の木の実は成ってないし、他の木の実の残骸が周囲に転がってないしでこのままでは埒があかない。仕方ないから母さんの様な存在であろう木・・・いやもうこいつはババアで良いな、一応言葉はくれたし敬意を表してババアだ。
つまりババアの言葉に従って、純粋な心を持った乙女を求めて人間のいるところを探しに旅立つ事を決めたのだ。
△△△
人間という奴は真水を飲まなきゃ生きられない存在だ。そして水は高いところから低い所に流れて行く。だから川を見つけて下っていけば人に会えるという父親の言葉に従い、飛行機墜落事故で密林に落ちた生存者が川を下って民家に辿り着いたという話が書いてある本を読んだ事がある。
いやなんて本を読んでるんだって?知らねぇよ、孤児院に本を寄付した奴に聞いてくれよ。数少ない孤児院で1人で出来る暇つぶしが読書だったし、本が少ないからそういう物でも読むしかなかったんだよ。学校の図書館?1日で1冊づつしか借りられないからすぐに読み切っちゃうんだよ。
さっきからお前は誰と会話してるんだって?さぁ?知らないね、気がついた時には俺の中に居たからな。仮想の友達でトモちゃんと・・・。
あっそれ二番煎じ?じゃあブラザー・・・。
えっお前女だったの?何で今更・・・いや俺の中に居るんだから男だろ。
それは偏見だって?知らねぇよ、それなら女の体になって出てきやがれよ! あっ・・・黙りやがった・・・俺が反論しようとするとすぐこれだ・・・だからブラザーは・・・いや煩いなっ!
じゃあユキナだユキナっ!
えっ?それは俺が筆下ろしした商売女の源氏名だろうって?そうだが悪いかよ、嫌なら自分で決めろよ。
何々?俺の名前がタイヨウだからツキが良いって?あーこれ異世界っぽいから、俺の名前はソールにしようかな。
えっ?それならマーニが良いって?いや北欧神話の方かよ、ローマ神話の方のルーナの方が可愛くない?それに、ソールって女神の名前だしマーニは男神の名前だぞ?それなら逆にしねぇ?
そのままがいい?そうなの?
良いよ別に、それが良いんだろ?好きにしろよ全く。北欧神話好きなんて誰に似たなんだよ・・・。
俺?まぁ俺も好きだけどよ。だって南より北のほうがイカつくてカッコイイイメージあるからよ。南欧の方の神ってなんかナヨナヨして感じるんだよな。イメージだけどよ。
それにしても前世では、たまにしか話しかけてこなかったし、一言二言ツッコミしたら黙ってたのに、今世では随分と饒舌だな。
ババアの近くの地面から湧き水が湧いていたので、それが流れて下っていく方向に向かって進む事にした。
ババアの生えていたのは周囲を山に囲まれたような盆地にある湿地帯で、ババアの周辺だけは少し高い丘になっていた。湧き水は周囲に湿地帯を形成していて、それが一箇所だけ山に隙間がある部分から流れていっていた。
山の隙間にはいると当然左右は切り立った渓谷になっていた、その先は切り立った崖になっていて、水はそこから滝では無く這うようにチョロチョロと伝って落ちている感じだった。水量が増えれば滝になりそうだけど季節的なものなのか流れ落ちる量はそこまで多くないようだった。
その壁を這うように伝う水を追って崖を降りて行くしか無いらしい。
崖を伝っておりるのは大変じゃないかって?
心配ご無用です、なんせ羽があるからか飛べるんです。羽を使わなくても飛べるので、浮いているが正解なんだろうけどさ。
羽は何のためにあるのかって?多分推進力を得るためじゃないかな、だって飛びたいと思うと浮けるだけで、羽をパタパタしないと、羽に受けた風に流れて進むだけだからね。
崖から降りた先には渓流があって、ババアの近くの湧き水はそれに合流する水源の1つだったらしい。
一応前世を含めて初めて血の・・・いや今世は樹液か?まぁそれが繋がってるババアの所に戻れるよう、周辺の地形は覚えつつ、渓流を下って行った。
渓流はかなりの傾斜を流れ下りっていき、先は滝になっていた。そこの滝壺の近くに丸く並べられた焚き火をするための石組や、朽ちた切り株など、人が来ている痕跡を発見する事が出来た。
石組みに使われた石の大きさが俺の体の大きさを超えているものがあるので、やはり俺はかなり小さい生き物らしいと分かった。
そこからは簡単だった。
人は僕と違って移動の際は地面を踏みしめなければ進めない。藪があればかき分けた痕跡が残るし、木の枝があれば打ち払われる。案の定獣道のようになっている場所や、登攀につかったと思われる植物の繊維らしいもので編んだロープが木の間に渡された傾斜地があった。
その傾斜地を降りるとあったのはそれなりに踏みしめられた跡のある山道で、そこを下ると最近まで手入れされたと思われる痕跡のある無人の小屋があり、さらに下るときっちり手入れされた段差には木製の土留で作られた階段もある山道になり、その周囲の山の斜面には人の手がまだ入っている果樹園と農具小屋があった。
さらに下っていけば木が間伐された綺麗な森に変わっていき、山道が平坦な道と合流して、その先に20軒ほどの家がある集落が広がっていた。
勿論廃村と言うことは無く、周囲に広がる畑では人が農作業をし、前世で見たままの姿の牛や馬や山羊や鶏がいた。
もしかしてここって地球?いや違うよな、だって夜に見た月の模様が前世と全然違ったし、なんか空にずっと動かない帯みたいなみたいなものが見えてるし、さっきから村人が呪文の様なものを唱えて土を盛り上げたり水や火を出したりしてるもんな。
そうか、そうじゃないかと思ってたけど魔法のある世界か・・・超不自然な俺の体や能力もなんとなく魔法だからって言えば説明できそうだもんな。俺も魔法が使えるのかな、浮いたり七色にピカピカ光る事とか出来るんかね、水よ出ろ・・・火よ・・・風よ・・・土よ・・・出ないね、知ってた。だって村人たち呪文唱えてるんだもん。唱えないと発動しないって事でしょ?はいはい、じゃあ自分の体から出る光をなくして透明化ね。
あぁ・・・夢にまで見たエロスキルが手に入ったよ。でも大きさ的に無理だよな・・・。それに多分そういう能力はない。だって排泄器官と思われるような穴がなんだもん。前も後ろもね。脳があるのか分からないって言った理由が分かったでしょ?
俺の素人童貞で終わらせたマイサン・・・何でお前まで死んでしまったん?
あぁ・・・慰めてくれるのか?ありがとうよ。じゃあ村にもっと近づこうかね。
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