テキーラを飲み干して

ボーン

第1話

1

春の風景はのどかで良い。子供達は砂場やブランコで戯れ、

子供達の黄色い声が聞こえてくる。


僕は勤めいた会社を一身上の都合で辞め、

今はバイト暮らし。

でも、そのバイトも昨日で打ち切りになってしまった。

そんな僕だけど、子供達の嬉しそうに、

はしゃぐ姿を見ているだけで心がなごむ。


公園のベンチに座り、バイト探しの雑誌を見ていると、

突然の女性の声。


「君、バイト探してるの?働いてないの?」

と、厚かましく聞いてくる。

見ると、厚化粧のおばさんだ。



「ねえ、君、バイト探してんの」


「おばさん、何の・・・」

と、言い終わらない前に僕は右の頬をぶたれた。

「誰がおばさんよ!失礼な男ね!」

と、ブッタおばさんが怒っている。


僕も負けじと言い返す。

「何するんですか!おばさん。

おばさんにおばさんと言ったらダメなんですか?」

今度は全部の言葉が言えた。

と、思った瞬間 左の頬へ平手打ち。


たしかキリストが言っていた。

「汝、右の頬を打たれたら左の頬を出せ」とか。

だが僕はその様な寛大な男では無い。

僕はベンチから立ち上がり

「何すんだバカ!」

と怒りの声を上げるが、おばさは意に返さず僕の腕を掴み強引に引っ張る。


「こっちよ。こっち。」

……何なんだ、このおばさんは?……

と、思いながらも僕は抵抗も出来ずに、店の前に連れて行かれた。

その店は、大通りから少し中に入った目立ちにくい場所にあった。


店の看板には「バー・テキーラ」 と書いて有る。

小じんまりとした、古びた店だ。

入り口のドアも、木造で古びてる。

「こっちよ、中に入りなさいよ。

まだ店を開ける時刻じゃ無いけど、・・・」

と、時計を見ると、14:00を廻っている。

僕は、強引なおばさんに腹が立っていたが、

魔法に掛けられたみたいにこの店に来てしまった。


店内は六人ぐらい座れるカウンターと
丸いテーブルが3脚置いてある。
木造のノスタルジックな雰囲気があるが、
悪く言うと古い。
しかし、清潔さは感じられた。

カウンターの奥に、何本かの洋酒が置かれてある。
更に目をやれば、LPのレコード盤が何枚も並んでいた。
僕の知らないレコードプレーヤーが置いてある。ここに座りなさい。君、名前なんて言うの」
カウンター前の丸い椅子に腰をかける僕。
「名前ですか・・・」
…ここで本名を言うと厄介な事に巻き込まれた時にまずい。
ここは偽名を使うべきだ…

「名前、大岸明です」
と、咄嗟に思い浮かんだ名前を言ってしまった。


「大岸君ね。どう此処!私の自慢のお店なの。
この店の名前ね、私が付けたのよ。
知ってる?テキーラって言うお酒。
凄く強いのよ。」
と、自慢げに瞳を輝かせながら話しをするおばさん。
「テキーラですか?知らないです。
あのレコード、最近見ないですね。どんな物があるのですか?」

「君は、音楽が好きなの?洋楽もあれば、
邦楽もあるよ。
ちょっと待って、私の好きな歌を掛けてあげるわ。」
と、おばさんは僕のリクエストも聞かずに
自分の好きな曲を掛ける。

店内に悲しげなメロディ🎶が響いてくる。
「この歌知ってるかな?中島みゆきの
『テキーラを飲み干して』と云う歌よ。
聞いた事あるかな」
と、カウンター越しに僕の目を見て聞いてくる。。

「歌は知らないですけど、中島みゆきは知ってます」

「そうなの、若いのに中島みゆきは知っているのね。
この歌は私の想い出というか、
私の気持ちを歌った唄のように聞こえるの。悲しい唄でしょ😢💔」


「そうですね」
と、僕は愛想笑いで返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る