第20話 アライ君の件

 最初の頃、ジュード君は毎朝メッセージを送って来て、今日、昼行けますかと聞いて来たが、それも最初の二週間くらいだった。その後、昼飯は社員の誰かしらがおごってくれるようになり、やがてはギャラ飲みなどという、港区女子のような活動もしていたようだ。未成年だから酒は飲むなと言っていたけど、その辺はどうなっていたかわからない。


 彼はすごく人気があった。誰だって若いイケメンを連れて歩くのは気分がいいだろう。その辺は男女とも変わらない。彼がどんどん安っぽくなって行くようで、俺は複雑な思いだった。俺のインスタやTwitterをフォローしていたけど、フォロワーは三桁しかいなかったし、他のメディアで彼を見たことはない。結局、この人から聞くことは何もなくなってしまった。

 

 しばらく経って、俺は気が付いた。

 気が付くのが遅すぎたが、ジュード君なら父親の戸籍を取れるのだ。

 戸籍をたどれば何かしらの新しい情報が出てくるかもしれない。

 そうだ。

 一番、確実じゃないか。


 俺はすぐにジュード君に連絡し、オフィスの俺の部屋に来てもらった。


「え。戸籍って…大丈夫なんですか?他人に渡しても。借金とかしないですよね」

「君、するどいね。でも、戸籍だけあっても、借金はできないよ。実印と印鑑証明がないと…」

「どうしても、アライ君の消息が知りたいんだよ」


 彼は渋っていたが、世話になったからと取り寄せてくれることになった。


「なんで、そんなにアライって人にこだわるんですか。そんなタイプだったんですか?別に似たような人って、他にいるんじゃないですか?俺、紹介しますよ」

「そうじゃないよ…親に虐待されてたって聞いてたから…どうしているか、どうしても知りたくて」

「虐待って何ですか?」ジュードは怪訝な顔をした。

 そう言えば、ジュード君には何も話していなかった。俺が若いイケメンに異常に執着しているキモイ人だと思っていたようだ。

「彼もシングルマザーの家庭で育っていたみたいなんだけど、母親が闇金から借金をしてて、その借金を返すために、アライ君はいくつもバイトを掛け持ちして働いてたんだよ。ここの正社員とネカフェと、あと風俗」

「何ですか、それ?」

 ジュード君は許せないというような顔をした。

「彼は逃げたら殺されると思っていて、土日もなく毎日働いてて…俺も助けたかったけど、ヤ〇ザがらみだとどうしていいかわからなくて…飯を食う金もないくらい絞り取られてたから、食事をおごったりするくらいしかできなくて」

「今、そいつはどうしてるんですか?」

 ジュード君は自分と血のつながった兄弟が不当な扱いを受けていることにショックを隠せなかった。

「それがわからないんだよ。しばらく会っていなかったら、仕事をやめてて…。彼は字があんまり読めないから、スマホが使いこなせなくて、俺は連絡先知らないんだよ」

「なんで今まで黙ってたんですか!俺と会ってもう半年も経ってるじゃないですか!」

 ジュード君は俺を怒鳴りつけた。

「弟が〇んでたらどうするんですか」

「俺も毎日申し訳なくて」

 俺も泣きそうだったが、泣いたくらいではすまない話だ。

「すぐ、警察行きましょう」

「俺も警察行ったんだけど、結局、何もわからなかったんだよ…彼、偽名を使って働いてたみたいだから…アライレイって名前で。住所もでたらめだったんだって。北区に住んでるって言ってたのに…それらしい人はいなかったって」

「警察が本気で探せば見つかりますよ。だって、ここのビルの防犯カメラに顔が映ってるだろうし。駅のカメラとか調べたら、どこ行ったかわかるし。何やってんだよ」

 ジュード君はまともだった。俺は彼を見くびっていた。俺ももっと警察に訴えるべきだったのだ。いや、でも、俺は親族でも、勤務先の社長でもない。捜索願を出すのは無理だった。






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