第17話 発見

 俺は学校のパンフレットで一日のスケジュールを確認していたから、もうそろそろ授業が始まることがわかっていた。


 もう、彼は来ないかもしれない。諦めた瞬間、髪を白とピンク色に染めたすごいイケメンがあちらから歩いて来た。白っぽいアウターに細身の黒いパンツをはいていて、スタイルがすごく良くて、まるで韓国の芸能人みたいだった。顔が小さかった。不織布の灰色のマスクをして、黒ぶちの眼鏡をかけていた。


 顔はほとんど見えないが、それが、あの彼だったのである。

 俺は嬉しくなって声を掛けた。


「すいません」

 その人は立ち止った。

 ちょっとびっくりしていた。何でここに?という目をしていた。

「芸能の仕事に興味ありませんか?」

 断られてもいいように俺はとっさに言い訳をした。

「え、もう、事務所入ってます」

 その人は答えた。やっぱり彼だった。ちょっと背が伸びていたし、前みたいにおどおどしていなかった。

「やっぱり、興味あります」彼は言い直した。

「じゃあ、話したいんですが…」

「でも、今から学校で」

「じゃあ、終わったら話せませんか。時間があれば」

「はい。わかりました。じゃあ、連絡先教えてください。電話するんで」

 俺は彼に電話番号を教えた。彼が持っていたのは高そうなiPhoneだった。ちょっと怖かった。彼の後ろには反社がいるんだ。


***


 それから俺は最寄り駅にあるファミレスで待った。すると、知らない番号から電話がかかって来た。


「あの…さっきの話ですけど、やっぱりやめます」

 俺は食い下がった。

「あ、そうですか。でも、ちょっと話せないですか?バイトとかでも…君にいい仕事を紹介したくて」

「芸能以外で、ですか?」

「はい」

「じゃあ、いいですよ」


 しばらくして、彼は男の友達を一人連れて来た。友達も柄が悪く、ほとんど勉強していなそうな子だった。ピアスを開けて髪を染めていた。


「元気だった?」俺はアライ君に声をかけた。

「まあ」彼は頷いた。

「何でも好きなもの食べて。君も」

 二人にメニューを渡した。

「はい」

 二人は遠慮せずに、セットメニューを頼んでいた。コロナ禍でも普通に外食するのは若者くらいだろう。俺は外食はできるだけ控えていた。


 二人がドリンクバーを頼んだ後、ドリンクを取りに席を立った。アライ君、こんなおしゃれな子で、背も高かったかな…。


 彼は席に戻って来ると、ピンクの髪の子がマスクを外した。


 そしたら、あの子じゃなかったのだ。

 整形したみたいに、エラがないすっきりした三角の顔だった。

 透明感のある肌をしていて、一般の人ではないとすぐにわかった。

 本当に韓流アイドルみたいだった。


 俺はショックを受けていた。

 別人だったのだ。


 それから、俺は彼に清掃の仕事を紹介していた。

 時給1800円で…管理会社の求人を見て、それよりもちょっと高い時給を提案した。もし、彼が本当にやりたいなら、差額は俺が払おうと思っていた。


「時給はいいけど、トイレ掃除とかもあるんですか?」

「うん」

「でも、早朝で終わるならありかも…考えてみます」

「そう」

 俺は自分の仕事の名刺を渡した。

「やば」

「え、ダメ?」

「すごいとこじゃないですか?」

「よくわかんないけど」

 少年は目を輝かせていた。何を期待してるのか…。

 そうだ。金だ。

「えー。すごいですね。俺、働いてみたかったんですよ。こういうとこで」

 こいつは太客を見つけようとしてるんだ。

 俺は憂鬱になった。


 そして、彼は本当に管理会社の面接を受けることになったのだ。

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