02 国外追放……アリかな?
『聖なる君と恋に落ちて』
舞台は“王立魔法学園”から始まり、そこで
恋愛シュミレーションを軸にしつつ、アクションRPG要素もありラストは魔王討伐までを描く物語。
いわゆる乙女ゲームだ。
そして、わたしことロゼ・ヴァンリエッタはそのメインキャラクター達の恋路を邪魔し、悪逆非道な行いから悪役令嬢として最終的に国外追放されてしまう哀れな存在である。
◇◇◇
「……うん、まあ、いいんじゃね?」
当初のわたしは国外追放はまずいでしょと慌てていた。
だが前世の記憶の整理が終わると、段々そのままのシナリオでいいんじゃないかと思い始めていた。
貴族であるロゼからすればその境遇は耐えられないものがあるだろうが、冷静に考えるとそれってただの自由の身ということだ。
それに、詳細は割愛するがロゼの悪役令嬢としての振る舞いはメインキャラクター達の魔王討伐へのシナリオを決定づけるものでもある。
悪役だが結構大事な役割なのだ。
下手に国外追放を免れようとシナリオを改変して、魔王討伐の旅に悪影響を与えたくはない。
マルチエンディングを採用している今作では、もちろんバッドエンドも複数存在し、なんと“人類滅亡”までも用意されている。さすがにそれはまずい。
メインキャラクターの皆さんにはぜひとも世界を平和にして頂きたい。
原作の舞台は8年後の王立魔法学園。
その時点でロゼはこの“アグニス王国”において、その悪名を知らしめているのである。
「ロゼお嬢様、紅茶でございます」
「……ええ、ありがとう」
豪華絢爛、華美な装飾で彩られた部屋は屋敷の一室、ロゼの部屋だった。
広大な間取りに、大きな窓から見渡せる花畑。
貴族感が駄々洩れの、贅を尽くした華美な景観である。
香りのよい紅茶をティーカップに注いでいるのは黒髪の少女。
従者のシャルロット・メルローだ。
「!?」
しかし、その姿を見て口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。
「しゃ、シャルロット……?」
「はい、なんでしょうお嬢様」
「その髪は……?」
「あ、これですか?」
シャルロットは前髪を目元まで伸ばし、腰元まである黒髪が特徴的だった。
それは黒髪に偏見のあるこの世界で、彼女が他人の目線から隠れようとする逃避行動だったのだろう。
しかし、その黒髪を伸ばした姿こそ、不吉な印象をより一層際立たせる悪循環でもあったのだが……。
「お嬢様が“瞳は見えた方が良い”と仰って下さいましたので、切っちゃいました」
そう、シャルロットはさっぱりしていた。
眉毛の位置まで前髪を切りそろえ、長さも肩くらいまでになっていた。
「へー……ふーん」
「なにか問題がありましたか?」
いや、似合ってるけどね。
絶対こっちの方が可愛いけどね?
ただねぇ……。
「シャルロットは髪を切ってどう思った? あんなに伸ばしてたんだから、いきなり切ることに抵抗あったんじゃない?」
「いえ、お嬢様の提言のおかげで世界が変わりました。感謝しています」
この調子なのである。
すっごい目をキラキラさせてわたしのことを見てくるのである。
「正直に答えてもらっていいのだけれど、わたしのこと主人としてどう思う?」
「勿論、尊敬しております。お嬢様は私の
……。
うん、そりゃ主人を前にして“嫌いです”なんて言う人いないだろうけどさ。
メシアは言い過ぎじゃない?
今にも祈りを捧げそうな純粋な瞳で見過ぎじゃない?
「……い、いつでもわたしのこと嫌ってくれていいからね」
「そんな事は天地がひっくり返っても有り得ません」
メシアの次は天地逆転かぁ。
なんでいちいちわたし相手にそんな仰々しい表現使うかな。
「じゃあ、嫌いになれってわたしが命令したら?」
「申し訳ございません、私はお嬢様に対しての想いを偽ることは出来ません」
「だめ、命令だから」
「……では自害するしか」
自害!?
なんでそうなるの!?
「じ、自害は困るなぁ……」
「はい、出来れば私もこの身でお嬢様に仕えさせて頂きたいです。ですが、仮に魂となっても必ずお嬢様の側にいますからご安心ください」
もうずっと何言ってんの?
「……シャルロット、ちょっとわたし一人になりたいのだけど」
「かしこまりました。何かあればお申し付けください、すぐに参ります」
ぺこりとお辞儀をして、シャルロットは部屋を後にする。
一人になり、わたしは大人が何人寝れるか分からないくらい天蓋付きのベッドにダイブする。
ふかふかのシーツ、その枕に顔を埋めて、解き放つ。
「これ絶対、悪役令嬢じゃないよねぇ!!」
ただの令嬢と、従順な従者との姿だよねえっ。
問題なさすぎて問題だわっ。
シャルロット・メルローは立ち絵こそ用意されていなかったもののテキストでは明記されており、その近しいポジションゆえ、ロゼの悪役令嬢としての振る舞いを証明する人物でもあった。
長年、ロゼの悪行に付き合わされてきたシャルロットは心の底から嫌悪感を抱いていたのである。
“側近からの信頼すら得られていない”、それがロゼの悪役令嬢としての印象を決定づける要因になっていたのだ。
「だからさぁ、もうちょっと嫌ってくれないと困るんだよねぇっ」
いや、分かってるよ。
シャルロットに助言したのは他ならぬ、わたしだ。
軽率だった。
もうちょっと辛辣な物言いをすべきだった。
でも、仕方ないじゃん。
だって前世の記憶を取り戻して直後の出来事だったんだから。
間違いだってするじゃん。
「それに、現段階で何をすべきかがよく分からないんだよなぁっ」
くどいようだが物語が始まるのは8年後。
つまり“悪役令嬢”としてのロゼの原作知識は8年後になってようやく使える。
だから今現在のロゼの悪役令嬢としてどう振る舞えばいいかさっぱり分からないのだ。
「だめだ……もっと嫌われないと」
このまま、ただの公爵令嬢として入学するわけにはいかない。
幸い、時間はまだまだある。
わたしはこれから悪役令嬢として、国内にその悪名を轟かせねばならない。
「悪役令嬢にわたしはなる……!」
なんだこの宣言。
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